一人親方は会社員ではないため、自動的に適用される退職金制度はありません。しかし、老後の安心できる生活を考えたとき、一人親方にとっても退職後にかかる費用を考えることは、とても大切です。
この記事では、「建設業退職金共済」をはじめとした、一人親方が任意で加入できる退職金制度について解説します。
日々の生活に必要なお金をやりくりしながら、将来に向けての備えを行うのは大変ですが、制度には税制優遇などのメリットもあるため、ぜひ効果的に活用してください。
Contents
一人親方にとっての退職金制度の意味
一人親方は、会社員のように会社を退職することはありませんが、廃業や引退したときには収入が途絶えます。収入が途絶えたときに、退職金のようにまとまったお金を受け取れる仕組みがなかったら、なんとなく不安に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ここで、そもそもなぜ会社員や公務員には、退職金の制度が設けられているのかについて考えてみましょう。
退職金制度の根本的な意義は、老後や退職後の生活の保障です。仕事を引退した場合には老後の資金、退職した場合には次の仕事に就くまでの生活費などが、不足します。しかし、退職金としてまとまったお金を受け取ることで、退職した場合でも当面の資金として充当できます。また、税制面でのメリットも理解しておきましょう。退職金に対してはかかる税率が低く設定されているため、同じ金額を給与として分割で支払われるよりも、多くお金を受け取ることが可能です。
上記の理由から、実際に多くの方が、退職金を老後の資金として活用されています。
一人親方の場合、個人事業主であるため、定年制度はありません。しかし、いつまでも仕事ができるわけではなく、やはり引退後の資金設計について考える必要があります。老後に必要なだけの費用を貯金できれば、それでも構いませんが、やはり退職金制度がないことに、不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。
一人親方の退職金制度|建設業退職金共済とは?
「退職金」に非常によく似た制度として、一人親方が実質退職金のように活用できる、「建設業退職金共済」制度があります。「建設業退職金共済」とは、建設業界で働く方のために、国が設けている退職金制度です。建設業に従事する一人親方も、「建設業退職金共済」に加盟して毎月費用を負担すれば、勤務日数に応じた退職金を、引退時に受け取れます。
この章では、「建設業退職金共済」について詳しく解説します。
加入方法
一人親方の場合、「建設業退職金共済」に加入するか否かは、任意となっています。加入してもしなくても、どちらでも問題ありません。加入する場合は、以下いずれかの方法を取らなくてはなりません。
- 一人親方が集まって「任意団体」を作ったうえで、「建設業退職金共済」に申し込みをする
- 既存の任意団体を通じて、「建設業退職金共済」に申し込みをする
※既存の任意団体については、「独立行政法人勤労者退職金共済機構」の各都道府県支部にて確認できます。
6つのメリット
「建設業退職金共済制度」には、6つのメリットがあります。
- 安心
国が運営しているので、民間の保険会社などよりも、安心感が大きい制度です。
- 通算制度
建設業界で仕事をしていれば、現場や職場が変わっても、対象期間が継続されます。入会・退会を繰り返すことなく、期間が通算されるため、便利で手軽です。
- 掛け金の補助
国から掛け金の補助を受けられます。
- 経費として計上可能
掛け金は、確定申告の際に経費として計上できるため、税制控除を受けられます。
- 入札に有利
一人親方というよりも請負元のメリットになるかもしれませんが、入札時の経営事項審査の際に、「建設業退職金共済制度」に加入していることがメリットになります。
- 加入者サービス
一部のホテルやレストランなどでの、優待サービスが受けられます。
上記のように、「建設業退職金共済制度」は、非常にメリットと安心感の大きなサービスです。
費用
「建設業退職金共済制度」は、働いた日数あたりの証紙(1日=310円)の枚数分だけ、退職金を受け取れる制度です。申請の仕方は現場によって異なりますが、310円の証紙を年間240日×20年貼り付けた場合、2,127,468円の退職金を受け取れる試算になっています。
上記の例では、証紙にかかる費用が1,488,000円であることを考えると、かなり利回りに優れていることがわかります。
※上記の見積もりは、2021年時点でのものです。
証紙や退職金の額は、5年ごとに見直しがあります。
勤務日数や証紙の金額によっても異なるため、詳しく知りたい方は、以下のページでシミュレーションされてみてはいかがでしょうか?
参考:「建設業退職金共済本部」
http://www.kentaikyo.taisyokukin.go.jp/taishokukin/index.php
請求方法
「建設業退職金共済制度」の退職金を受け取るには、まず条件を満たす必要があります。
※主な条件
- 仕事を辞めた
- 他の業界で雇用された
- 満55歳になった/死亡した
21日を1ヵ月と換算し、証紙が24月分(死亡の場合のみ12月分)以上になった場合に、退職金が支給されます。条件を満たしたら、本人または遺族が「退職金請求書」を記入し、必要に応じて添付書類を添えて、「独立行政法人勤労者退職金共済機構」の各都道府県支部に提出します。
退職金は原則、指定口座に銀行振り込みにておこなわれます。
一人親方が利用できる退職金制度の代わりになりうる制度
一人親方が引退したり一定の年齢に達したときに、まとまったお金を受け取れる制度やサービスは、「建設業退職金共済」以外にもいくつかあります。
ここでは、代表的なものを3つご紹介します
確定拠出年金
「確定拠出年金」とは、毎月の積立金を支払うことにより、老齢給付金・障害給付金・死亡一時金を受け取れる、私的年金の制度です。
「確定拠出年金」は「建設業退職金共済」と同じように、掛け金が全額控除の対象となり、給付金に対しても税制上の優遇が受けられるメリットがあります。
デメリットは、拠出金を60歳になるまで受け取れないことです。従って、老後の備えにはなりますが、例えば途中で廃業した場合の、生活費の備えとして活用するには適していません。
小規模企業共済制度
「小規模企業共済制度」とは、中小企業や個人事業主が加入できる、積立による退職金制度です。
国が制度をつくり、中小機構が運営をしています。
毎月1,000円~70,000円積み立てをして、引退時や廃業時などに一括もしくは年金のように毎月の分割で、退職金を受け取れます。掛金の設定をいつでも変更できることや、満期が設定されていないためいつでも自由に引き出せる、とても自由度の高い制度です。
「小規模企業共済制度」に関しても、税金の控除が受けられます。
民間の保険商品
民間の保険商品のなかで、退職金と近い位置づけなのは、「養老保険」です。
「養老保険」では、満期を迎えたときに保険金が支払われる、貯蓄型の保険商品です。
満期を迎える前に死亡してしまったときに、受け取る予定と同額を請求できる特徴があります。満期を自由に設定できるため、計画的な資産形成をしたい方に適しています。
デメリットになりうる点は、終身型生命保険のような終身ではないことと、保険料が割高なことです。
まとめ
一人親方には、そもそも退職金制度がありません。しかし、制度やサービスをうまく活用すれば、退職時にまとまったお金を受け取ることが可能です。
例えば、「建設業退職金共済制度」は、税制面での優遇や国が運営している安心感もあるため、とても大きなメリットがあります。
退職金を考える際には無理のない範囲内で、老後や廃業時にも安心できる生活を、イメージできることが重要です。
「建設業退職金共済」以外の制度・サービス(確定拠出年金・小規模企業共済制度・民間の保険商品)とも比較しながら、ご自身に合った退職金制度をぜひチェックしてください。