労災保険は、従業員を1人でも雇用する企業や個人事業主は必ず加入しなくてはなりません。しかし、ときどき労災保険の未加入が問題になることがあります。そのパターンは大きく分けて2つあります。
労災保険に加入義務のある会社が加入手続きをおこなっていないケースと、加入が認められていない(あるいは加入が任意で認められている)個人事業主・フリーランス・経営者などのケースです。
この記事では、労災保険に加入していないとどのようなデメリットがあるのかについて、それぞれのパターン別に解説します。
Contents
労災保険未加入問題の考え方
労災保険は、国が労働者の安全を守るために設けている保険制度です。従業員を1日・1人でも雇用する場合、企業や個人事業主は労災保険に加入して労災保険料を支払わなくてはなりません(全額、雇用主側の負担です)。
労災保険は、加入者の業務中・通勤中のケガ・病気・死亡のリスクを保障してくれる保険商品です。働き方改革が推し進められている近年、過労や業務上のメンタルヘルスケアなどの観点から労災保険加入の重要性は従来以上に強く指摘されています。その考え方の根底にあるのは、行政が国民(労働者)の健康をしっかりと守っていくという考え方です。
しかし一方で、会社が労災保険に加入するためには加入手続きをおこなわなくてはなりません。通常、労災保険の加入手続きは、初めて労働者と雇用契約を結んでから10日以内に労働基準監督署かハローワークにておこないます。特に零細企業などの場合に労災保険の加入手続きがされていないケースがあります。
主な理由は以下のとおりです。
- 加入手続きの必要性を認識していない
- 労災保険料を負担したくない
- 日常業務に追われて後回しにしている
個人事業主やフリーランスの特定業務については加入が任意なので、雇用主とは考え方が異なります。ただし、労働をしているうえでケガや病気のリスクが存在するのは、個人事業主・フリーランスも同様です。
労災保険に加入していない会社の問題・対策
この章では、労災保険に加入していない会社(雇用主)の問題点や対策について解説します。特に経営者の方にとっては、重大な罰則に関連する内容になります。
ぜひチェックしてください。
未加入は違法行為
1日・1人でも労働者を雇用したことがある場合、労災保険に必ず加入しなければなりません。未加入の場合は違法行為として、状況や内容に応じて罰則が適用されます。また、罰則以外にも社会的なイメージダウン・社員とのトラブルなどのさまざまな問題が発生します。
罰則とは?
労災保険に未加入の際に雇用主に課せられる罰則は、以下の通りです。
- 保険料の追徴
本来支払わなければならなかった保険料を、追徴されます(最大2年間分)。
また、追徴分には税額が10%加算されます。 - 労災給付額の徴収
労働基準監督署から指摘を受けていたにもかかわらず、意図的に労災保険に加入していなかった雇用主の場合は、労働者の労災給付金の100%を費用徴収されます。
加入手続きを忘れていた場合など、重大な過失から労災保険に加入していなかったとみなされた雇用主は、労災給付金の40%を費用徴収されます。
上記のように、雇用主に対して厳しい罰則が課せられます。なお、労働者は雇用主が労災保険に加入していなかった場合でも、労災保険を利用できます。
未加入が発覚した時の対策とは
本来は加入しなくてはならない労災保険に未加入の状態であることが分かった場合は、従業員のケガや病気が発覚していなくとも、早急に加入手続きを取ることが重要です。
よくある誤解は、加入義務を知りながら「社員がケガ・病気をしたら、そのときに加入した方が費用が抑えられる」というものです。しかし、従業員がケガをしてから労災保険に加入する場合は労災給付額徴収のペナルティが適用されるため、企業が負担する金額はより重くなります。
メリットがないばかりか、社員からの信用低下にもつながるリスクがあるため、早急に手続きを進めてください
従業員とトラブルになったら?
労働中のケガや病気は、社員の日常生活に大きな支障をきたしたり、財産的に大きな負担を強いてしまったりすることになります。そのため、会社側が適切な対応を取っていたとしてもトラブルに発展するリスクがあります。
ましてや労災保険の加入は会社にとっては義務なので、従業員とトラブルになるとかなり不利な立場に置かれることは間違いありません。
ときには損害賠償請求などの労働訴訟に発展することもあります。
税理士や弁護士などの専門家と相談をして、互いに納得が得られるように対話を進めてください。
平成17年より徴収が強化
現在の労災保険未加入の雇用主に対しての厳しい罰則が規定されるようになったのは、平成17年度の費用徴収強化以降のことです。その背景には、労働の安全性を重視し社会に即した制度の整備が意図されているという事情が挙げられます。そして、安全な労働環境を確保すべきという方向性はその後も強まっています。
例えば建設業においては、労災保険未加入の一人親方や作業者は現場に入れないなど、建設会社や関連団体で安全・衛生環境の確保を強く意識するように社会がシフトしています。
個人事業主が労災保険に加入していない場合
個人事業主の場合、労災保険は加入資格がないかもしくは任意加入かのいずれかです。具体的に内容をご紹介します。
原則として加入できない
そもそも、労災保険は雇用されて仕事をする労働者に対する保険制度であるため、原則として個人事業主は労災保険の対象ではありません(個人事業主は、雇用契約を結んでおらずクライアントと請負契約を結びます)。
したがって、個人事業主が業務中に病気やケガをした場合には、医療機関での治療費や医薬品の代金に対して国民健康保険が適用されるのみです。
保証が不足する場合、民間の医療保険や休業補償保険などの契約を考える必要があります。
一部の業種のみ任意で加入が認められている
一部業種の個人事業主は、労災保険の特別加入が認められています。
一例をご紹介します。
- 建設業に従事する一人親方
- タクシー運転手
- 林業に従事するスタッフ
- アニメ関係の職種のスタッフ
- 芸能関係者
これらの業種に該当する個人事業主は、業務中・通勤中のケガのリスクが高いことなどを理由として、労災保険加入が認められています。給付基礎日額(労災保険の補償給付の基準となる金額)を加入者自身で決定し、その金額に比例して支払う保険料が変動する仕組みになっています。
建設業者は未加入のデメリットが大きい
「自己負担で保険に入るのであれば、民間の保険に加入するのと変わらない」との意見もありますが、特に建設業者:一人親方の場合は一人親方の労災保険に加入しないデメリットが非常に大きいです。請負元の企業が案件発注の条件として、「労災保険に加入していること」という条件を設けていることが多いためです。
その理由としては、請負元の企業に対して安全管理義務が強く要求されている点が挙げられます。万が一、現場で事故などが起こった時に請負元が管理責任を問われることがあるため、一人親方が労災保険未加入の状態だと、結果的に請負会社に大きなリスクが生じます。
労災保険未加入者の加入手順
会社員の場合は自動的に労災保険に加入することになるため、特に加入手順を心配する必要がありません。万が一、勤めている会社が未加入の場合には雇用主に加入するように促すか、最寄りの労働基準監督署に相談をすることで、加入手続きをするように促せます。
一方、個人事業主の場合は任意の制度なので、加入手順をご自身で把握しておかなくてはなりません。その手順は以下のとおりです。
業種をチェックする
最初に、ご自身の業種が労災保険の特別加入条件を満たしているかいないかをチェックします。
参考:特別加入制度のしおり<一人親方とその他の自営業者用>
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-6.pdf
厚生労働省のパンフレットや情報を参考にして、ご自身の職種が該当するか否かを照らし合わせてください。
加盟団体を調べる
労災保険に特別加入する際に、個人事業主が労働基準監督署などに直接申し込みをすることはできません。必ず団体を通じて申し込み申請をおこなう必要があります。
労災保険の内容はどの団体を通じて申し込みをしても同じ内容ですが、特別加盟団体に支払う手数料や手続きの流れ、申し込みをしてから保険に加入するまでの期間などは団体によって異なります。しっかりした対応をしている業者に依頼をすることが重要です。
プランを選択する
基本的には、前年の年収をベースにして基礎給付日額を決定します。勤務中や通勤中のケガや病気でまったく仕事ができなくなった時には、基礎給付日額の80%の補償給付を受けとることが可能です。
季節ごとで収入のバラつきが多い方などは、季節のばらつきなども踏まえてプランを検討しましょう。
登録手続きを進める
労災保険特別加入団体のフローに従って、登録手続きを進めてください。料金の支払い方法や加入の流れなどは特別加盟団体によってそれぞれ異なるため、窓口やインターネットの情報などでていねいに確認することが大切です。
適用
申し込み後の労災保険適用までにかかる日数は、特別加盟団体によって異なります。適用が早い団体では翌営業日、遅い団体で1週間程度です。
もちろん、早期に適用される業者で契約する方が安心です。
まとめ
労災保険に加入していないと、企業の場合は重いペナルティが課されます。個人事業主の場合には、いざというときにまったく補償金給付を受け取ることができず、安全が確保されないまま労働を続ける状態になります。
建設業などにおいては、請負元の契約条件の都合上、請負契約を受注できないなどのデメリットにも注意しなくてはなりません。労災保険に加入していない方は、今一度保険の重要性を認識して一人親方労災保険加入の手続き方法を再確認していただけたら幸いです。