労災保険を理解するうえで必ず押えておきたいのは、労災事案が発生したときにいくらもらえるかという点です。ケガや病気をする前にどの程度補償されるのかを知っておくことで、安心感の度合いは大きく変化します。生活設計上受給額が足りないときには、不足分に対して民間の保険商品などに加入されることもあるでしょう。
ところが、労災保険に関して「難しい」とのイメージを抱いている方も多いのではないかと思います。「労災保険のパンフレットやホームページを調べてみたけど、わからなかった」という方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、労災保険の特別加入団体として一人親方の労災加入のサポートをしている「一人親方団体労災センター」が、労災保険の支給額について解説します。労災保険の支給額について疑問をもっている方に理解していただけるようにわかりやすく解説いたしますので、ぜひ参考にしてください。
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労災保険ではいくらもらえる?
労災保険は、会社員であれば正社員・パート・アルバイトに関わらず、全員が加入する保険です(保険料の支払いは雇用主)。また、一人親方などの一部の個人事業主に関しても、ほぼ同じ条件で労災保険の任意加入が認められています(保険料の支払いは、特別加入者本人)。
このとき、自動的に加入することになっている会社員の方は、保険の内容について詳しい情報を調べていない方もいることでしょう。特別加入者に関しても、補償の詳しい内容まではチェックしていないという方が多いかもしれません。
ここで、保険項目別にいくら補償がもらえるのかについて解説します。
補償項目 | 補償内容 |
療養補償給付 | 医療機関での治療代や薬代。現物給付のため、基本的には現金での給付ではありません(原則は、労災病院もしくは労災指定病院で治療を受けることになりますが、難しい場合はそのほかの一般の病院で治療を受けたあとに治療費相当分を請求するという流れになります) |
休業補償給付 | 業務中・通勤中のケガや病気によってまったく仕事ができなくなってしまったとき(4日目以降)に給付基礎日額給付の80%(労災保証金60%+特別支給金20%)が支給されます。給付基礎日額は、会社員の場合は給与が基準に自動的に計算されます。特別加入者は任意の自己申告です。 |
傷病補償年金 | 労災認定から1年6か月が経過したときに治療が継続している場合に支給されます。
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介護補償給付 | 労災が原因で介護にかかった費用が支給されます。ただし、上限額(常時介護が必要な場合、166,950円/月・随時介護が必要な場合は、83,480円/月)が設けられています。
自宅で家族などが介護をする場合についても、介護費用相当額(常時介護が必要な場合、83,480円/月以上・随時介護が必要な場合は、36,500円/月以上)が補償されます。 |
障害補償給付(年金・一時金) | 障害の等級が1位~7位の場合は障害補償年金・8~14級の場合は障害補償一時金が支給されます。 (年金)
(一時金)
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遺族補償給付 | 遺族補償給付は、遺族の人数によって給付される金額が異なります。遺族が複数名存在する場合は、折半です。
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葬儀代 | 平均賃金の30日分+315,000円もしくは、平均賃金の60日分 |
上記のように、労災上のさまざまなリスクについて幅広く、そして手厚い補償がされています。
労災保険の金額を知るために抑えておきたい給付基礎日額とは?
労災保険の受給額を確認する際のキーポイントになるのが、給付基礎日額です。給付基礎日額は、さまざまな保証金の基準になっており、給付基礎日額次第で補償として受け取れる金額が大きく変動します。
この章では、給付基礎日額の計算方法や概要を解説します。
計算方法
給付基礎日額は、給与直近3か月間の1日あたりの金額に相当します。このとき、給与額には基本給のほかに残業代・資格手当・交通費などの手当も含まれます。ただし、ボーナスや賞金などは給付基礎日額には含まれません。これらは、毎月発生する給与ではないためです。
会社員の場合、給付基礎日額の計算方法は以下のとおりです。直近3か月分の月額給与(基本給) + 直近3か月間の残業代総額 ÷ 直近3か月間の労働日数(定休日など含めたカレンダー上の日数)
残業代の増減などにより若干の変動はあるものの、計算式自体はとてもシンプルなのでおおよその目星はつけやすいのではないでしょうか。
特別加入者の場合は?
会社員の場合は給与から給付基礎日額が決定されますが、特別加入者の場合はそもそも給与がありません。特別加入者の場合は、給付基礎日額を加入者自身が選択する形をとっています。
労災保険の特別加入制度では、3,500円~25,000円までの16段階で給付基礎日額を設定可能です。このとき、支払う保険料が給付基礎日額の高さと比例するため、給付基礎日額をいくらに設定するかで迷う方が多いです。
保険に対する考え方次第ですが、迷った場合は前年度の年収を基準に考えるとよいでしょう。例えば、前年度の事業の収益が300万円の方の場合、300万円÷365=約8,200円になります。
この場合、目安となる給付基礎日額は8,000円です。
算定基礎日額とは
算定基礎日額とはあまり聞きなれない言葉かもしれません。労働者が1年間に受けた賞与の総額を365で除した額です。算定基礎日額は上記補償内容の表の中でボーナス相当額として使用いたします。
ちなみに、算定基礎日額は特別加入者にはありません。
労災保険の特別支給金とは?
労災保険の給付金について詳しく見ると、休業補償給付と特別支給金に分かれていることがわかります。例えば休業補償給付の支給額である給付基礎日額80%の内訳は、休業補償給付60%と特別支給金20%です。
この特別支給金に関する概要や趣旨を解説いたします。
概要
労災保険の特別給付金は、休業補償給付の上乗せ分として支給されます。特別支給金を受給するための条件などは設定されていません。
したがって、基本的な考え方としては休業補償給付とあわせて支給されるものと認識しておけば大丈夫です。休業補償給付だけではなく、介護補償給付や商業補償給付など、特別給付金が設定されているケースではすべて同様の考え方で問題ありません。
趣旨
厳密にいえば、特別支給金は福祉的な意味を持っている点で休業補償給付とは少し性質が異なります。休業補償給付の場合、労働災害による損害について損害賠償請求をおこない支払いされることになったときに、結果的に相殺されます。しかし、特別支給金は福祉の意味合いをもっているため、相殺されません。
労災保険の趣旨については、企業や弁護士のなかにも認識している方が多いです。ご自身で確かな知識をもち、反論されたり異議を唱えられたりしたときには、しっかりと反論できるようにしておきましょう。
いつ・いくら労災保険がもらえるのかを理解しておくと安心!
労災保険の金額がどの程度もらえるのかは、ケガ・病気の程度や治癒までの期間などにより大きく異なります。また、傷病補償のように等級が設定されている場合は、労働基準監督署の等級の判断に左右されることもあります。
そもそも、労災事案として認定されるかいなかが問題になることもあるでしょう。とはいえ、大前提としていざというときにどの程度の補償がなされるのかをシミュレーションしておくことはとても大切です。
- ご自身の給付基礎日額はどの程度なのか?
- 労災事案が起きたときに、いくらの補償がおりるのか?
- 労災保証金はいつおりるのか?
これらをあらかじめご自身のなかで明確にしておくと、不安も少しは解消されるでしょう。なお、労災補償給付がいつおりるのかについて詳しく知りたい方は「労災保険の補償給付はいつもらえる?スムーズな手続き方法を紹介」の記事にて詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてください。特に、一人親方などの特別加入者は特別団体の選び方や申請書の提出方法などによって保証金のおりるスピードが大きく異なる可能性があります。
また、給付基礎日額の適切な設定額のイメージがわかない方は、最寄りの労災保険特別加入団体に相談するのもオススメです。
まとめ
労災保険がいくらもらえるのかについては、保険項目ごとによってことなります。そして、それぞれの保険の基準になるのは給付基礎日額です。給付基礎日額は、会社員の場合には直近3か月間の給与が基準になります。一方、一人親方などの特別加入者の場合は保険加入時に任意で決定されます。
給付基礎日額の設定額をどの程度に設定するのかによって安心の度合いが大きく変化するため、前年度の収入などをベースにして慎重に設定しましょう。