左官職人は高い技術が必要とされるものの、学歴・職歴・年齢にかかわりなく目指せる職種です。また自分の腕次第で独立しやすく、将来は「一人親方として働きたい」と考える方も少なくありません。
そこで本記事では、左官職人として独立するのに必要な5つのポイントをご紹介します。また、気になる左官職人の年収やメリット、独立する際の注意点についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
Contents
左官職人とは
左官職人とは、建物の壁や床をコテを使って塗り上げる職人で、仕事内容にはタイルを貼ったりレンガ・ブロックを積んだりすることも含まれます。
左官の歴史は縄文時代にも遡るといわれており、高い技術を持つ職人のコテさばきは芸術的にも高く評価されるなど由緒ある職業です。また、左官工事で使用する材料には土・モルタル・漆喰・珪藻土などがあり、シックハウス症候群の原因でもある有害物質を含まない自然素材であることが注目されています。
左官職人が活躍する現場は、大きく以下の2つに分けられます。
- 野丁場
鉄筋コンクリート造などの大規模な工事現場のことで、左官職人は主に下地作りを行います。野丁場は大きなプロジェクトで、全体のスケジュールに従い工期に間に合わせる計画性が求められます。また、下地作りは単調で地味な作業ですが、次に行う塗装作業のクオリティにも大きな影響を与えるため、高い精度で仕上げなければなりません。 - 住宅左官
住宅左官では、民間住宅などの壁塗りの仕上げを行います。漆喰や珪藻土を壁に塗ったり、レンガ・タイル・ブロックを使って壁や床を仕上げたりもします。継ぎ目なくキレイに塗ったりコテを使って模様作りをしたりする高い技術力が求められ、職人の技を発揮できる現場です。
左官職人として独立するには何が必要?
左官職人になるには、左官業務を行う工務店に就職したり、左官職人に弟子入りしたりする方法があります。特に学歴や資格は必要なく、根気強く続けられる人であれば誰もが目指せる職種です。
左官職人は一人親方も多く、自分の腕次第では独立しやすいのも魅力です。ただし、初心者がいきなり左官職人として独立し成功できるほど甘い世界ではありません。ここでは、左官職人として独立するのに必要なことと考えておくべきポイントを、大きく5つに分けて解説します。
経験を積み資格を取得する
左官職人として働きはじめるのに、経験や資格は特に必要ありません。ただし、独立するには自分のスキルをアピールする資格が必要になると考えられます。また、資格取得にはある程度の経験が求められます。
左官職人として自身のスキルをアピールできる資格のひとつは、「左官技能士」です。また、工事全体を管理して報酬を上げたい方は、「建築施工管理技士」の資格も取得するとよいでしょう。
- 左官技能士
左官技能士は、国家資格である技能検定制度の一種で、都道府県商業能力開発協会が実施します。1~3級まであり、それぞれ学科試験と実技試験に合格することで取得可能です。左官技能士3級は誰もが受験できる初心者レベルですが、2級は実務経験2年以上、1級は実務経験7年以上を受験資格としています。
資格取得者でなければ左官技能士を名乗れないため、独立するまでに資格を取得し、左官技能を客観的に証明できるとよいでしょう。
- 建築施工管理技士
建築施工管理技士は、建築現場で監督を行えるようになる国家資格です。左官の仕事だけを行う場合は必要ありませんが、工事全体の進捗や品質を管理する責任者として働きたい場合に必要です。一人親方として独立し、やがては工務店を開業したいと考えている方は、建築施工管理技士の資格取得を目指すとよいでしょう。
独立資金を準備する
左官職人として独立するには、独立資金を準備する必要があります。
独立資金の内訳は、以下のとおりです。
- 工具備品
作業に必要なコテ・攪拌機・ローラー・トンボ・水糸など、道具類を購入する必要があります。また、土・漆喰など原材料の購入や、移動および運搬用の車両を調達する資金も必要です。事業の規模によっては、事務所や什器備品の費用が発生する場合もあります。 - 開業資金
法人化する場合は、法定設立費用が必要です。また、1案件500万円以上の工事を請け負うために建設業許可を取る場合は、「自己資本500万円以上」など財産要件を満たす必要があります。従業員を雇う場合は、毎月支払う給料分の資金も貯めておかなければなりません。
建設業では、仕事を請け負ってから報酬を受けるまでのサイクルにも気をつける必要があります。「月末締め翌々月末払い」の場合が多く、利益を出しているものの手元にお金がないため黒字倒産をするケースは珍しくありません。
左官職人として独立する際は、資金繰りの難しさも理解したうえで、余裕を持った独立資金を用意しておくと安心です。
コネクションを確保する
左官職人として独立するには、仕事を請け負うためのコネクションを確保しておくことも重要なポイントです。
会社員として雇われていた頃は、繁忙期・閑散期に関係なく、毎月決まった額の給料がもらえました。しかし、独立すると仕事は自分で取ってくる必要があり、仕事量が収入に直結します。営業がうまくいかなくて収入がゼロになる可能性もあるため、継続して仕事を得るコネクションが必要です。
そこで、勤めている会社の社長や親方、現場で出会った同業者との関係を良好にしておき、独立後に仕事を回してもらえるようにしておくと安心です。
それと同時に、営業力やコミュニケーション能力を磨き、工務店・建設会社・リフォーム業者に売り込めるようにしておくとよいでしょう。
独立する方法を決める
左官職人として独立する際に、個人事業主または法人化(会社設立)するかを決めることも大切です。それぞれにメリット・デメリットがあるため、独立の目的に合わせて慎重に選ぶようにしましょう。
- 個人事業主として独立する
左官職人として独立する場合、個人事業主としてはじめるのが一般的です。個人事業主は開業届の提出ですぐにはじめられ、コスト面・手続き面で独立しやすいといえます。また、仕事量の調整を自分で行う自由な働き方ができ、雇用されている場合と比較して高収入を得られるチャンスもあります。 - 法人化(会社設立)する
従業員を雇い事業を拡大したいと考えている方は、法人化して独立する方法もあります。会社を設立することで、大きな工事を請け負って大幅に収入アップを狙えるでしょう。左官職人としての腕だけでなく、経営者としてのマネージメント能力やビジネスセンスが問われます。
開業手続きを行う
左官職人として独立するには、開業手続きを行う必要があります。
個人事業主として開業する場合、以下のような書類を提出します。
- 開業・廃業等届出書
- 所得税の青色申告承認申請書
- 所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産償却方法の届出書
- 個人事業開始申告書
法人として会社設立をする場合に必要な手続き、および提出する書類は以下のとおりです。
- 定款作成
- 会社登記
- 法人設立届出書
- 青色申告の承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
- 法人設立届出書(地方税)
年収アップは可能?左官職人として独立するメリット
左官職人として独立するメリットに、収入が上がることが挙げられます。左官職人として独立すると年収は500~600万円前後、スキルのある職人は年収1,000万円を目指すことも可能です。雇われの左官職人の平均年収は400万円前後といわれており、独立することで年収アップが期待できます。
独立後は、自ら営業して仕事を請け負います。自分で案件を見極め、単価交渉ができるようになるのも大きなメリットです。仕事量の調整も自由にできるため、趣味や家族との時間を大切にしたい方にもピッタリの働き方です。
また、左官職人が減少傾向にある中、左官職人を必要とする現場は増加しているといわれています。需要の高い職種でもあるため、案件を選ばなければ仕事がなくて困ることはないと考えられます。
左官職人として独立する際の注意点
左官職人として独立する際は、デメリットもあるため注意が必要です。
前述のとおり、仕事は自ら営業して探さなければなりません。最初は以前に勤めていた会社や親方から仕事をもらえたとしても、安定した仕事量をいつまでも確保できる保証はありません。また、人と人とのつながりを大切にする業界で、人間関係のトラブルが仕事の受注に影響を与えるケースもあるため注意が必要です。
年収アップが狙えるとはいえ、繁忙期と閑散期のある建設業では毎月の収入が安定しないのもデメリットです。独立後は材料費の購入や税金の支払いなど、さまざまな経費がかかるため資金繰りが難しくなります。「手元にお金がなくて支払いができない」とならないよう、資金繰りには特に注意しましょう。
左官職人として独立する際の注意点に、労災保険の対象から外れることも挙げられます。労働者として雇用されている場合、労災保険は会社をとおして強制加入となりますが、独立後は任意で一人親方労災保険に加入します。この手続きをしていないと、災害にあったときに労災保険の補償が受けられません。また、一人親方労災保険に加入することが入場の条件となっている現場も多いため注意が必要です。
一人親方労災保険についてのご質問・ご相談は「一人親方団体労災センター」まで、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
左官職人として独立するのに必要な5つのポイントは、以下のとおりです。
- 経験を積み資格を取得する
- 独立資金を準備する
- コネクションを確保する
- 独立する方法を決める
- 開業手続きを行う
経験と腕次第では大幅な年収アップも期待できるなど、独立にはさまざまなメリットがあります。しかし、収入が安定しなくなることや労災保険が適用されなくなることなどデメリットもあるため、左官職人として活躍できるよう事前準備をしっかりと行いましょう。