厚生労働省の発表によると、建設業における令和5年の労働災害死亡者数は、223人におよびます。
高所作業の多い建設業では、事故が発生する可能性が高いため、リスクアセスメントが重要です。
リスクアセスメントにより、危険性や有害性から身を守り安全に働けます。
そこで本記事では、リスクアセスメントとは何なのか、建設業における事例などを解説します。
リスクアセスメントについて知識を深めたい方や、今後も安全に働きたい方は、ぜひご一読ください。
リスクアセスメントとは
リスクアセスメントとは、現場における危険要素を特定して、優先度の高い順から対策を講じていく手法のことです。
目的
リスクアセスメントの目的は、労働災害を防ぐことです。
労働安全衛生法第28条の2 において、事業者に対して努力義務規定(法的拘束や罰則はない)として、定められています。
建設業においては、足場からの転落や木材の落下など、さまざまな危険があります。
あらゆる危険から従業員を守り、安全な現場環境を実現するのが目的です。
効果
リスクアセスメントの効果は以下の通りです。
- 現場のリスクが明確になる
- 現場のリスクを管理者含め全員で共有できる
- 安全対策の優先度を決定できる
- 決めごとの理由が明確になる
- 危険に対する感受性が高まる
管理者含め従業員全員が危険に対する意識を高めることで、けがのリスクを低減できる効果があります。
リスクを回避するためのルールを社内で決めておけば、労働環境も快適になるでしょう。
建設業におけるリスクアセスメントの例
ここからは、建設業におけるリスクアセスメントの例をご紹介します。
事例①転落・堕落の危険性がある作業のリスクアセスメント
危険性および有害性 | 重篤度 | 可能性 | リスクレベル | 低減措置 |
---|---|---|---|---|
足場で滑り堕落する | 2 | 2 | Ⅱ |
|
(※重篤度=災害の程度・可能性=災害発生可能性の度合・リスクレベル=優先度)
厚生労働省の「建設業の労働災害発生状況(令和5年) 」によると、建設工事における「転落・堕落」の災害は、全体の32.4%を占めています。
リスクアセスメントを実施することで、転落・堕落のリスクを低減できます。
たとえば、足場の側面に手すりを設置すれば、滑って堕落するリスクを防げるでしょう。
また、ハーネス型安全帯の着用をルール化することで、万が一堕落しても衝撃を緩和できます。
事例②崩壊・倒壊の危険性がある作業のリスクアセスメント
危険性および有害性 | 重篤度 | 可能性 | リスクレベル | 低減措置 |
---|---|---|---|---|
木材が崩壊し作業員に激突する | 3 | 3 | Ⅲ |
|
建設現場では、当日使用する資材を壁に立てかけておくケースも少なくありません。
しかし、壁に立てかけておくだけでは木材が崩壊する危険性もあります。
近くに従業員がいれば、木材の下敷きになりけがをするでしょう。
資材を固定したうえでネットを設置すれば、崩壊してもけがをせずに済みます。
もしくは、資材を地面に置くことで、崩壊による災害を防げます。
事例③飛来・落下の危険性がある作業のリスクアセスメント
危険性および有害性 | 重篤度 | 可能性 | リスクレベル | 低減措置 |
---|---|---|---|---|
足場から工具が落下し従業員に直撃する | 3 | 2 | Ⅲ |
|
足場は狭いため、工具を広げておくと落下の原因になります。
万が一、下に従業員がいれば、けがのリスクは避けられないでしょう。
工具の落下を防ぐためには、養生シートを設置したり作業状態の確認をしたりするのが有効です。
また、作業状態を他の従業員に知らせることで、落下の危険性がある範囲に近寄らせない対策が取れます。
事例④巻き込まれ・挟まれの危険性がある作業のリスクアセスメント
危険性および有害性 | 重篤度 | 可能性 | リスクレベル | 低減措置 |
---|---|---|---|---|
後進中のクレーンに巻き込まれる | 3 | 2 | Ⅲ |
|
クレーン後方の75%は死角であるため、運転者からは後方で作業する従業員の姿は見えません。
後方で作業する従業員がいれば、後進時に巻き込んでしまう恐れがあります。
クレーンを使う際は、誘導者の配置や声かけをすることで、巻き込まれによるけがのリスクを低減できます。
誘導者の合図があるまで後進しないルールを設けることも有効です。
リスクアセスメント実施の手順
次に、リスクアセスメントの手順を解説します。
実施体制を整える
まずは、以下の手順で実施体制を整えます。
- 社長がリスクアセスメントの導入を従業員に宣言する
- 安全管理者もしくは現場責任者がリスクアセスメントの実施を管理する
- 安全委員会の組織を活用して労働者の代表を参加させる
- 安全衛生協議会を活用して下請け業者も参加させる
- 現場においては主任者や経験豊富な従業員を参加させる
- 参加に必要な教育を提供する
リスクアセスメントを導入する際は、社長がリスクアセスメントの導入を従業員に表明する必要があります。
導入の宣言後、安全管理者や現場のリーダーなどが中心となり、リスクアセスメントを実施する流れです。
危険性および有害性を特定する
次に、危険性および有害性を特定します。
現場に危険性または有害性をもたらす原因はないか、以下の項目に留意して特定しましょう。
- 作業計画や手順書を用意する
- 作業区分をする
- 区分を細分化してそれぞれに作業名を決定する
- リスクアセスメントマニュアルを活用して危険性および有害性を書き出す
- 現場で危険の有無を観察する
- 機械および設備は故障する、人はミスを犯す前提で作業現場を観察する
リスクアセスメントの実施マニュアルは、日本造船協力事業者団体連合会 が公表しています。
リスクの見積りをする
危険性・有害性を特定したら、リスクの見積りを実施します。
見落としのないよう、複数人で実施するのが基本です。
以下の項目に留意してメンバーで話し合い、情報を共有しましょう。
- 既存作業の実態および安全対策を考慮する
- 災害の型を考察し具体的な負傷・疾病の重篤度を想定する
- 現在想定される最も重い重篤度で考察する
- 可能性の評価は災害になる度合を考察する
- 見積り値は記録を分析した資料にもとづくものにする
- 見積り値はメンバー間で最も高いリスクを見積もった者から意見を聞き、メンバー全員の納得を得たうえで値を決定する
- 見積り値がばらついた際はメンバーの意見を調整する
- 見積り値はメンバー間で話し合い合意した数値を採用する
リスクの見積り方法は、厚生労働省が公表している「職場のあんぜんサイト 」から確認できます。
リスク低減措置の検討・実施を行う
リスクの見積りにもとづき、優先度が高いものから低減措置を検討します。
なお、法令で定められた事項がある場合は厳守します。
低減措置の検討・実施における安全衛生対策の優先順位は、以下のとおりです。
- 危険作業をなくしたり、見直したりして、仕事の計画段階からの除去又は低減の措置を取る
- 機械・設備の防護板の設置・作業台の使用などの物的対策を行う
- 教育訓練・作業管理等の管理的対策を行う
- 保護手袋など個人用保護具を使用する
危険作業をなくすのが難しい場合は、機械や設備などの物的対策を検討します。
個人用保護具の使用は最後の対策です。
なお、リスク低減措置実施後は、危険性や有害性が低下したか検証することが重要です。
万が一、技術の規約によりリスクが残った場合は「残留リスク」になります。
残留リスクについては、従業員に「どのようなリスクがあるか」「決めごとを守るべき理由」などを周知したうえで、暫定措置を実施します。
設備改善等の恒久的な対策の検討・実施は、翌年度の安全衛生管理計画に反映させて計画的に解決を図りましょう。
リスクアセスメント実施状況の記録および見直しをする
リスク低減措置実施後に想定されるリスクについて、担当者による会議で審議します。
その後、優先度を判断して、具体的な活動へ進みます。
また、実施結果が適切であったかどうか・見直しや改善が必要かどうかを検討し、次年度以降のリスクアセスメントを含めた安全衛生目標および計画の策定、水準の向上に役立てるのが望ましい傾向です。
リスクアセスメント実施一覧表および改善の実施記録は、保存して受け継いでいきます。
一人親方はリスクアセスメントに加えて労災保険への加入が必要
一人親方は、リスクアセスメントに加えて労災保険への加入が必要です。
なぜなら、リスクアセスメントを実施しても想定外の事故が起こる可能性もあるからです。
社員であれば、仕事中のけがや疾病には労災が使えます。
しかし、一人親方の場合は、国民健康保険に加入しているケースが多いでしょう。
国民健康保険では労災が使えないため、別途、労災保険に加入する必要があります。
労災保険に加入すれば、作業中に発生した事故におけるけがや疾病を補償してもらえます。
労災保険の詳細は、以下の記事を参考にしてください。
一人親方労災保険の補償内容は?特別加入の流れもご紹介!
リスクアセスメントに加えて、労災保険への加入を検討している方はお気軽に「一人親方団体労災センター 」までお問い合わせください。
まとめ
リスクアセスメントとは、現場における危険要素を特定して、優先度の高い順から対策を講じていく手法のことです。
労働災害を防いであらゆる危険から従業員を守り、安全な労働環境を実現するのが目的です。
建設業においては、足場から転落したりクレーンに巻き込まれたり、さまざまな危険があります。
足場に手すりを設置したり、クレーンの作業は誘導者を配置したりすることで、リスクを回避できます。
けがのリスクが高い建設業では、責任者が従業員の安全を確保するのが理想です。
安全で快適な現場を実現するために、リスクアセスメントを実施しましょう。