一人親方労災保険の「労災センター通信」

交通労働災害とは?事故事例や防止策を関係法令に基づき徹底解説

交通労働災害とは交通事故による労働災害のことで、通勤中の事故が最多となっています。
交通労働災害が発生したために休業して働けなくなるケースが少なくありません。
最悪の場合、死亡するケースや重症の場合は後遺症が残るリスクがあるため、適切な安全対策が必要です。

国が定める関係法令に基づき、現場を指揮する管理者は交通労働災害防止対策を講じています。
労働者の立場からも交通労働災害について知り、対策について考えましょう。
この記事では、交通労働災害の概要や事例、防止策について解説していきます。
交通労働災害

交通労働災害とは

交通労働災害とは、自動車事故などの交通関係の労働災害のことです。
そもそも労働災害とは、「業務中の事故や災害により、労働者が負傷し、疾病に罹患、または死亡すること」をいいます。
主に、業務上で起こる災害「業務災害」と通勤中に起こる災害「通勤災害」の2種類です。

交通労働災害の多くは通勤中の交通事故による「通勤災害」となっています。
住居と就業場所の往復以外に、現場間を移動することが多い建設業などは事故のリスクが高まります。

交通労働災害の現状

令和5年度の厚生労働省の「労働災害発生状況」によると、交通労働災害による死亡者数の割合は、19.6%と約2割を占めているのが現状です。
労働災害による死亡者数の事故原因は「墜落・転落」が最多で、「交通事項(道路)」「はさまれ・巻き込まれ」と続いています。
そのため、交通労働災害は死亡事故の中でも多いといえるでしょう。

全業種における労働災害での死亡者数は過去最少(755人)となったものの、業種別の死亡者数の件数は建設業が最多(223人)です。
また、休業4日以上の死傷者数は3年連続で増加(135,371人)しています。

交通労働災害の問題点

交通労働災害の問題点は、一般の労働災害より発生リスクが高いにも関わらず、指導や教育などの安全対策が不十分であることです。
特に、自動車の運行中は直接的な労働衛生管理が難しく、運転者本人の安全意識に左右されます。

交通事故を予防するためには、運転者の過失を防ぐことが重要です。

例えば労働災害による死亡者数が多い建設業では、事務所等から工事現場への往復時に複数名が乗車するケースが考えられます。
そこで交通事故が発生し乗り合わせた複数名が同時に死傷することが考えられるため、事前の防止策が重要となるでしょう。

交通労働災害の事例

交通労働災害事例
交通労働災害ではどのような事例があるのでしょうか?
通勤中・移動中・業務中の交通労働災害についてまとめました。

通勤中の事故

通勤中や帰宅中は疲れや睡眠不足から、自転車や自動車・トラックなどと衝突し、予期せぬ事故に遭う可能性があります。

  • 交差点で自転車と衝突し骨折
  • 立ち寄ったコンビニから左折する際に直進してきた中型トラックと衝突 など

移動中の事故

事務所から現場、または現場から次の現場への移動中にも事故のリスクがあります。
運転者の体調や健康管理を行い、気の緩みによる不注意や操作ミスには注意が必要です。

  • 工事現場から会社に戻る途中の交差点で乗用車と出会い頭に衝突(土木工事業)
  • ダンプトラックで盛り土を運搬中、道路の中央分離帯を飛び越えて対向車に激突(木造家屋建築工事業)

参照:厚生労働省 職場のあんぜんサイト

業務中の事故

運転の機会が多い業種や道路で作業する業種だと、業務中にも事故が発生するケースが見られます。
特に道路工事や高所での作業時に事故のリスクが潜んでいるため注意が必要です。
自分では気を付けていても、道路や高所などの危険箇所での作業で甚大な事故に巻き込まれる危険性があります。

  • 道路の中央線の塗替え作業中、トラックに激突され被災(道路建設工事業)
  • 大型トラックが道路の照明灯取付作業中の高所作業車に激突(電気通信工事業)

参照:厚生労働省 職場のあんぜんサイト

交通労働災害の防止策とは

交通労働災害の防止対策
交通労働災害の防止策として、厚生労働省はすべての事業者が安全への取組を行う必要があるとガイドラインを設けています。
交通労働災害の防止策は国や現場の管理者と乗り物を運転する運転者個人がそれぞれ安全対策の意識を高めることが必要です。

ここでは交通労働災害の防止策で重要な国や管理者、運転者の取り組みについて解説します。

国の取り組み

交通労働災害の防止策において、厚生労働省はガイドラインや基準を設けています。
交通労働災害に関する関係法令や各種資料の概要についてそれぞれまとめました。

法令・資料名 目的 管轄
労働安全衛生法 労働者の安全と健康を確保し快適な職場環境の形成を促進すること 厚生労働省
労働安全衛生法関係の順守 労働安全衛生関係法令で事業者に義務づけられている措置の概要 厚生労働省
交通労働災害防止のためのガイドライン 事業場における交通労働災害防止を図ること 厚生労働省
「交通労働災害防止のためのガイドライン」のポイント 労働安全衛生関係法令などとともに交通労働災害の防止を図るための指針 厚生労働省
建設工事従事者の安全及び健康確保の推進に関する法律 建設工事従事者の安全と健康を確保する施策を推進し、建設業の発展を図ること 安全衛生情報センター

管理者の取り組み

交通労働災害の防止策において、管理者は国が定めるガイドライン等に基づく交通労働災害防止措置を適切に実施する取り組みが行われています。
管理者として交通労働災害を防止するポイントは、担当者を選任し、職務を遂行するために必要な教育を実施することです。
管理者としては、以下の項目を心掛けることが重要です。

  1. 指導監督体制を整備する
  2. 運転者を管理する(交通安全教育・健康状態のチェックなど)
  3. 車両を管理する(整備・定期点検・装備資材・積載状況・保険関係など)
  4. 運行管理(ルートや交通規制の有無を確認する・運行時間をチェックする など)

運転者の取り組み

交通事故は運転手の一瞬の気の緩みや慣れから発生します。
運転者は、交通労働災害を防止策するためにガイドラインや基準に沿った取り組みが重要です。
運転者としては、以下の項目を心掛けるようにしましょう。

  1. 交通法令を順守する
  2. 安全運転を心掛ける
  3. 思いやり運転を意識する
  4. 事業者としての意識を持って運転する
  5. 飲酒・過労運転は絶対にしない

車両を運転する際はドライバーとしての基本に立ち返り、ルールを守ることが大切です。

建設工事に伴う交通事故等防止対策の事例

建設現場では具体的にどのような交通事故防止対策を行っているのでしょうか?
公衆災害対策委員会交通対策部会による「建設工事に伴う交通事故等防止対策(表彰現場寄稿集)」を参考に事例をまとめました。

交通事故防⽌対策優良事業場表彰された多くの土木・建設会社が一般交通および近隣住民への配慮や安全確保と安全管理対策を行っています。

運行経路の追跡調査とアルコールチェック

<事例1>

  • 月1回、回転灯・注意喚起表示を装備した専用車による運行経路の追跡調査
  • 全てのダンプ運転者を対象に、出庫・帰庫時にアルコールチェックを実施
  • 点検記録を元請職員で確認

運行経路の追跡調査をおこなうことで、「事故が発生しやすいポイントはないか」「ヒヤリハット地点はないか」などの確認が可能です。
状況によっては、経路を見直すことで、事故を発生しにくくできるでしょう。

アルコールチェックは、業務開始前に飲酒していないか、業務中に飲酒していないかを確認できるため、事故防止に重要です。
少しの飲酒でも重大な事故につながる可能性があるため、運転の前後では実施しましょう。

ダンプ運転席からの死角体験

<事例2>

  • 地域住民の現場見学会で、地元の保育園児から小中学生を対象に現場体験学習を開催
  • ダンプに乗車して場内を移動し運転席からの景色や死角を体験

ダンプに乗る側の視点から死角があることを知ることは事故の防止につながります。
地域住民への安全活動も交通事故を防ぐうえで重要です。

予期せぬ事故に備えて一人親方は労災保険特別加入を

普段から事故を起こさないように気を付けていても、いつ事故に巻き込まれるかわかりません。
事故でけがを負うと療養するために、診察・薬剤代、手術代、入院代などがかかります。
事故のリスクと隣り合わせの建設業で働く一人親方は、一般の労働者と同様に労災保険が適用される労災保険特別加入制度を利用しましょう。

<一人親方労災保険に加入するメリット>

  • 自己負担ゼロで治療が受けられる
  • 基礎日額に応じて休業補償、障害補償、遺族補償が給付される

事故で「療養のために働けない」「事故で障害が残ってしまった」場合、生活や将来に支障をきたしてしまいます。
リスクを避けるためにも建設業を営む一人親方は労災保険特別制度に加入しましょう。
労災保険料と月額500円の組合費で加入できる一人親方労災センターをご利用ください。

まとめ

交通事故は労働者が事業者の直接指揮・管理下に置かれていない状況で発生しやすいとされています。
被災者は労働者だけでなく第三者に重大な危害を及ぼす恐れがあります。
また、被災者本人が重症を負ってしまうと後遺症が残り、甚大な事故では死亡する危険性も高く、細心の注意が必要です。

ご自身が運転する際は、日頃から安全確認を徹底しましょう。
業務で運転が必要な場合、建設現場の管理者は安全を確保し、適切な安全対策を講じることが大切です。

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