個人事業主である一人親方は、厚生年金に加入できません。その結果、考えなくてはならないリスクと、対処すべき対策があります。
この記事では、日本の年金制度の概要を踏まえたうえで、厚生年金に入れない一人親方がどのような対策を取ることができるのか、「一人親方労災保険センター」が解説します。
「一人親方労災保険センター」とは、建設業の一人親方が個人で加入できる一人親方労災保険の運用を通じて、一人親方の生活保障のサポートをおこなっている団体です。老後の生活などに不安を感じている方は、この記事の内容を参考にしていただけたら幸いです。
Contents
一人親方は厚生年金に加入できない
厚生年金とは会社勤めのサラリーマン等が加入する社会保険の一つで、週の労働時間が少ない方を除いて必ず加入しなければなりません。一人親方の場合、個人事業主は厚生年金の適用除外です。そのため法人化して法人の代表者にならない限り個人事業主は厚生年金に加入できません。
最初に個人事業主である一人親方が厚生年金に加入できない事実を踏まえて、年金制度の概要を解説します。年金制度の概要を知ることで、生活の保障などに関する基本的な考え方について、理解を深めていただけます。
年金制度は二階建ての仕組み
年金制度は、国民年金と厚生年金の二階建てで構成されています。それぞれの概要は、次の通りです。
- 国民年金
職業や経歴に関わらず、20歳以上の日本国民全員が加入しなくてはならない、保険制度のことを指します。
- 厚生年金/共済年金
厚生年金は会社に所属する(勤務する)会社員、共済年金は公務員が加入できる年金制度です。厚生年金や共済年金の保険料は、国民年金の保険料に加算して支払われます。国民年金と厚生年金(共済年金)が二階建てになることで、65歳以降に受け取る保険料が充実しますが、一人親方は会社員ではないため厚生年金に加入できません。
国民年金の概要
国民年金は、20歳~60歳までの40年間(合計480時間)保険料を支払う義務があります。毎月の保険料は、16,000円程度です。40年間保険料を支払った場合、65歳以降に、年間80万円前後の年金を受け取ることができます。
(受け取れる年金額は、物価によって変動するため、前後する可能性があります)。
また、国民年金には付加年金もあります。付加年金とは、月間400円ほどの料金の支払いで、年間48,000円ほどの保険料を追加で受け取ることができます。さらに、本人が年金を受け取る前に死亡してしまったときには、遺族などが、遺族年金・寡婦年金・死亡一時金のいずれかを請求できます。
参考:国民年金の加入と保険料のご案内
https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/20kanyu.html
厚生年金の概要
厚生年金は、所得の額に比例して支払額が変動します(令和元年度では、所得の18.3%が保険料として設定されています)。保険料は労使折半(雇用者である会社と労働者が半分ずつ支払う仕組み)となっているため、厚生年金加入者は少ない負担額で多くの保険料を受け取ることができます。
参考:厚生年金保険
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/index.html
一人親方が厚生年金に加入できない2つのリスク
会社員でも公務員でもない一人親方が、国の保険制度として加入できるのは、上述の通り国民年金のみです。この章では、厚生年金に加入できないことにより考えられるリスクについて、解説します。
老後の資金を貯めておかなくてはならない
厚生年金に加入できないことにより考えられるリスクは、老後の生活費です。厚生労働省の「平成 30 年平均の全国消費者物価指数」を踏まえた、平成31年度の厚生年金と国民年金の平均的な月の受給額は、以下の通りです。
- 厚生年金・・・221,504円(夫が平均的な所得で40年間就業し妻が専業主婦だった場合の、夫婦2人分の基礎年金を含む)
- 国民年金・・・65,008円(1人分の基礎年金)
上記のように、65歳以降に受給できる年金の額は、厚生年金の有無によっておおきな影響を受けます。国民年金のみで生計を立てるのは困難であるため、老後の生活費に関し、事前に計画を立てておく必要があります。
死亡時の一時金が不十分になる恐れがある
国民年金では、死亡時にも一時金が支払われます(支給額は国民年金の払込期間によって異なりますが、12~32万円程度です)ただし、満額支払われた場合であっても、死亡時に必要な資金が不足する可能性が高いでしょう。公益財団法人日本生命保険センターが公開しているデータでは、葬儀費用の総額(平均)は約184.4万円です。
- 葬儀費用・・・119.2万円
- 飲食費・・・31.4万円
- 返礼品・・・33.8万円
十分な貯金がなく、死亡時における対策をしていない場合、葬儀費用の面で遺族に負担をかけてしまう可能性があります。
厚生年金に加入できない一人親方にできる4つの対策!
最後に、厚生年金に加入できないことを踏まえて、一人親方がデメリットを解消するためにできることを解説します。ここでご紹介するポイントを押さえ、不安やストレスを解消したうえで、仕事に打ち込めるようにしましょう。
個人確定拠出年金(iDeCo)の加入
個人型の確定拠出年金(イデコ)は、任意で加入できる年金保険制度のことで、その運営母体は国民年金基金です。一人親方の場合、イデコの掛け金は、月額5,000円以上68,000円以下の範囲内であれば、1,000円単位で任意に決定することができます。原則として60歳を迎えるまで資金を引き出すことはできませんが、掛け金を所得控除できることや受け取り金が非課税であることなど、メリットがあります。また、定期預金・保険商品・投資信託の中から3つ以上の投資先を加入者が自分自身で選択し、運用益に応じて将来受け取れる年金の金額が増減する保険制度です。
イデコと併せて、個人積み立ての選択肢としてよく検討されるのが、つみたてNISAです。つみたてNISAとは、年額の上限を40万円とする少額投資制度であり、イデコと同様、運用益が非課税であるメリットがあります。イデコとの相違点は、つみたてNISAはいつでも引き出せることと、60歳以上でも加入できることです(イデコは60歳未満でなければ加入できません)。従って目安としては、60歳以下の方は個人確定拠出年金を、60歳以上の方はつみたてNISAを活用することが、スタンダードな対策です。
欧米と比較して日本人は投資よりも貯金を好む国民性と言われています。しかし、公的年金だけで老後資金を賄えないことは明らかな中預貯金だけでなく投資にも目を向ける必要があるのではないでしょうか。iDeCoやNISAは税制優遇もある非常にお得な制度となっています。
参考:iDeCoってなに?
https://www.ideco-koushiki.jp/guide/
参考:NISAとは?
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html
人親方の仕事を長く続ける
心身が健康であれば、一人親方として1年でも長く仕事をするのも、老後の生活費対策になります。一人親方には定年退職がないため、仕事の受注さえあれば、いつまでも働いて収入を得ることができます。医療技術の進歩や衛生状態の向上に伴い、近年の日本では、長寿化・健康寿命の長期化の傾向がみられます。会社に雇用されていた方でも60代で仕事をする人は増えており、継続雇用制度や再雇用制度・シニア向け人材派遣サービスへの登録などを通じて、何らかの仕事についている方の割合が増えています。独立行政法人労働政策研究・研修機構の平成27年度のプレスリリースによると、定年後に職業についていない割合は、60~64歳で13.0%、65~69歳で18.4%のみです。定年後の再雇用は多くのケースで基本給が減少しますが、一人親方の場合にはそもそも定年がないため、年齢によって収入が大きく下がることはありません。
民間の保険商品に加入する
民間の保険商品に加入することで、老後の保障に備える方法もあります。保険商品にはさまざまな商品がありますが、年金制度に最も性質が似ているのは、終身タイプの生存保険です。
生存保険とは、契約者が満期まで生存していた場合に、保険が支払われる契約形態です。例えば、支払期間を60歳まで、保険金の受取期間を「65歳以降終身」と設定すれば、ちょうど年金制度のような保険契約になります。また、死亡時の必要資金や遺族の生活の安全を考慮する場合に加入する死亡保険、自身の介護が必要になった際に現金の給付が得られる介護保険など、他の保険商品と組み合わせることで保障を厚くできます。掛け金との兼ね合いもありますが、民間の保険商品はさまざまな商品があるため、無理なく月々の支払いができることと将来の生活設計とを踏まえて、保険を選定する必要があります。
「一人親方労災保険」に加入する
老後の保険に備えるとともに、仕事上でのケガや病気のリスクに備える方法としては、一人親方労災保険に加入する方法もあります。一人親方労災保険に加入することで、仕事中や通勤中にケガや病気をしてしまった際の病院での治療費の負担が0になるうえ、休業補償も受けることができます。さらに、一人親方労災保険では仕事中の事故で死亡した場合、一定の遺族の範囲に対して、死亡一時金・遺族年金のいずれかが支払われます。
- 遺族補償年金・・・遺族の人数に応じて、給付基礎日額の245日分から153日分の年金+特別支給金300万円
- 遺族補償一時金・・・給付基礎日額の1000日分の一時金+特別支給金300万円
労災保険は通常労働者のための保険制度であるため、一人親方は加入することが認められていませんが、労基局承認の団体を通じて申し込みをすることで労災保険に加入できます。
「一人親方団体労災センター」は、労災保険料と月額500円の組合費のみ(初年度のみ入会金1,000円が必要)で加入していただける、一人親方労災支援団体です。一人親方労災保険は、希望の受給額や収入の状況に応じて掛け金を設定できるため、無理のない金額でご加入いただけます。
なお、労災センターでは建設業に従事する一人親方のみ加入対象となっております。注意してください。
一人親方の公的保険
上記に紹介した4つの対策ですが全てを行う必要はありません。必要に応じて無理のない範囲で行うのが賢明です。その際に一人親方が加入できる保険・加入できない保険を確認することは非常に大事なことです。特に今まで雇用契約を締結して会社勤めをしていた場合、保険関係は全て会社が手続きをしてくれましたが、一人親方はすべて自分で手続きをしなければなりません。会社勤めの方と個人事業主の違いは補償内容だけではなくこういうところにもあります。
手続きに漏れがないように役所又は専門家に相談することをお勧め致します。
加入できる保険
- 国民健康保険又は職域保険
- 国民年金
- 労災保険
加入できない保険
- 健康保険(協会けんぽ)
- 厚生年金保険
- 雇用保険
一人親方の場合、雇用保険に加入できないため万が一の廃業に際して生活保障がありません。また、年金は国民年金のため厚生年金と比べて年金額は低くなる傾向にあります。
年金と聞くと老後だけに目を向けがちですが、万が一の時の後遺症に対して障害年金があり、死亡に際しては遺族年金があります。もちろん国民年金にもそれぞれ障害基礎年金と障害厚生年金があります。しかし、厚生年金の場合の障害厚生年金と遺族厚生年金と比較すると年金額は一目瞭然です。そういったところも踏まえて厚生年金に加入できない場合の対策として何が必要なのかを考えておくべきでしょう。
まとめ
個人事業主である一人親方は厚生年金に加入できないため年金の対策を取らない場合、老後の生活費や死亡時の資金に不安が残ることがあります。そのための対策として、この記事では、以下の4つの対策をご提案しています。
- 個人確定拠出年金の加入
- 仕事を長く続ける
- 民間の保険商品の加入
- 「一人親方労災保険」に加入する
「一人親方労災保険」は、一人親方が労基局認定の団体を通じて加入でき、仕事中のケガや病気を保障してくれる労災保険のことです。
「一人親方団体労災センター」では、労災保険料と月額500円の組合費のみ(初年度は別途入会費1,000円)で、一人親方労災保険へ加入していただくことができます。
近年は労災保険の特別加入に限らず、国民健康保険や年金にきちんと加入していないと現場に入れないケースも増えてきました。ご自身の保険関係を今一度チェックしてみてはいかがでしょうか。