一人親方にとって税金に関する知識は、売上を増やすことと同じくらい大切なことです。なぜなら、確定申告で正しく税金を報告しないことは違法行為であり、大きなペナルティの対象になってしまうためです。また、税金についての正しい知識を知ることで、納税額を必要最小限に抑え、節税対策ができる利点もあります。
「税金ってすごく難しいんじゃない?」
といった不安もあるかもしれませんが、それほど難しいものではありません。基本的な項目さえ押さえておけば、控除されるポイントもかなり多く、規則に則ったうえでの節税対策を取ることができます。
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一人親方が支払わなくてはならない税金
一人親方が支払わなくてはならない税金は、大きく分けて4種類あります。まずは、どのような税金の負担があるのかについて解説します。
所得税
所得税とは、1年間の収入に対して課される国税です。所得とは、年間の収入から必要経費を差し引いた金額のことです。所得税の税率は、所得の額に応じて課税額が高くなる、7段階の累進課税率が適用されます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円~330万円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円~695万円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円~900万円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円~1,800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円~4,000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円~ | 45% | 4,796,000円 |
会社員の場合は給料から所得税が自動的に天引きになりますが、一人親方の場合は確定申告をして所得税を納める必要があります。
住民税
住民税は、事業主個人にかかる個人税です。住民税は、一律で課される「均等割」部分と、所得額に応じて課される「所得割」の2階建てになっています。また、納めた住民税は4割が都道府県に、残りの6割は市町村に配分されます。住民税の支払時期は、1年に4回(6・8・10・1月)です。
※一括払いも可能ですが、一括でも分割でも支払総額は変わりません。
支払時期になったら、住民税の通知書がお住まいの市町村から届くため、その通知書に従って支払いをおこないます。
事業税
事業税は、業種によって課税率が設定されています。建築業の場合は5%に設定されているので、一人親方が支払うべき事業税は年間所得×5%になります。個人事業の場合は290万円まで控除の対象となっているため、年間所得が290万円を超えていない方は事業税の課税対象にはなりません。290万円を超える年間所得があった方は、確定申告をおこない事業税を支払わなくてはなりません。
消費税
一人親方が受け取っている売上の中には、消費税が含まれています。従って一人親方は、売上と一緒に預かっている消費税を納税しなくてはなりません。消費税の支払い方法は、2種類あります。
- 原則課税方式・・・年間を通じて預かった消費税から、仕入れなどで支払った消費税を相殺して納税額を計算する方式
- 簡易課税方式・・・(課税売上金×消費税率10%)-(課税対象仕入れ額×消費税率10%×みなし仕入れ率)
※簡易課税方式は、課税売上額が5,000万円以下の場合に認められ、手間が軽減できる計算方法です。一人親方のみなし仕入れ率は、70%です。
開業後2年間および所得1,000万円未満の方は、消費税の納税が免除されます。
一人親方が税金を支払わなかったらどうなる?
納税のための確定申告は、とても手間がかかるうえに、支払いの負担も生じます。
「わざわざ確定申告しなくても、バレないんじゃない?」
「確定申告の会場は混んでるし、できれば行きたくない・・・。」
そのように考える一人親方も多いかもしれません。しかし、支払うべき税金を支払わないと「脱税」とみなされ、大きなペナルティが課せられます。
- 延滞税
2か月以内の延滞で7.3%、その後も延滞期間に応じて延滞税が課せられます(最大14.6%)。延滞税についてその詳細は国税庁のホームページをご確認ください。 - 無申告加算税
確定申告の期限内に申告しなかった場合には、以下の無申告加算税が課されます。
50万円以下の所得税に対して | 50万円を超える部分の所得税に対して | |
原則 | 15% | 20% |
確定申告期限後、税務署からの通知の前に自己申告があった場合 | 5% | 5% |
平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来するもので、調査の事前通知の後に申告した場合 | 10% | 15% |
- 重加算税
悪質な隠ぺいや偽装がおこなわれた場合、申告していた場合は35%、無申告の場合は40%の追加課税があります。また、特に悪質であるとみなされた場合には、刑事処罰が下されることもあります。さらには、確定申告をきちんとおこなっていない場合には、大きな仕事が受けられないなど仕事上でのデメリットもあります。
詳しく知りたい方は、「一人親方の確定申告とは|労災保険は経費で計上できるのか」にて確定申告の詳細などと併せてご紹介していますので、ぜひチェックしてください。
一人親方の税金抑制につながる「経費」
税金を正しく申告し納税することは、国民の義務です。ただし、一人親方の「経費」について知ったうえで、納めるべき税金を節税につなげることも大切です。なぜなら、売上から「経費」をマイナスすることで、課税対象額を少なくできるためです。つまり、どのような項目が「経費」にあたるのかを知り正しく計上できれば、支払う税金を安く抑えられるということです。
主な「経費」を、具体的にご紹介します。
会議費 | ミーティングに使用した費用のことです。簡単な打ち合わせの飲食代(レストランでの食事代や喫茶店でのコーヒー代など)も計上できます。 |
諸会費 | 有料の会員制サービスに対して支払う費用です。例えば、一人親方労災組合に加入する労災団体加盟費は、諸会費として計上できます。 |
交際費 | 主に、接待などに使用する費用のことです。オンとオフとの境目があいまいになりがちなので、税務署から指摘を受けないよう領収証を取ると同時に、誰とどのような目的でお金を使用したのかメモしておくとよいでしょう。 |
広告費 | 折り込み広告やインターネット広告など、事業の集客に使用した大半の広告費を計上できます。 |
事務用品費 | 仕事に使用する文房具・封筒などが該当します。 |
消耗品費 | 基本的に、使用期間が1年未満程度のものについては、消耗品費として計上できます。PCやコピー機などについても、計上が可能です。(消耗品費について青色申告の場合は30万円まで、白色申告の場合は10万円までの上限があります。) |
通信費 | 携帯電話の通話料・インターネットのプロバイダ料金・有料音声サービスの通信費用などが該当します。 |
家賃・土地代 | 家賃や土地代についても、経費として計上できます。自宅を事務所兼用にしている場合、事務所スペースを按分して計算します。駐車場についても同様に、経費としての計上が可能です。 |
新聞図書 | 新聞・雑誌・書籍などの購入費用を、経費として計上できます。 |
水道・光熱費 | 事業に使用する水道代や電気代などの生活費用についても、経費として計上可能です。 |
損害保険費 | 事業を遂行するうえで加入している損害保険は、経費として扱うことが可能です。 |
上記のように、業務上にかかる費用の大半は、「経費」として計上できます。適正なルールに従って課税額を必要最小限に抑えるため、「経費」についてぜひ詳しくチェックしておいてください。
参考:やさしい必要経費の知識
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
経費で落とせないもの
経費を把握することは税金を正しく知り、それが節税に繋がるということを先述いたしました。それとは逆に経費とならないものを把握することも大事なことです。ここでは経費で落とせないものを確認いたします。
個人事業主である一人親方は事業と私生活の区分が曖昧になりがちです。例えばコンビニで買ったボールペンは仕事でも使用しますし、私生活でも使用します。この場合買ったボールペンはどういう用途で買ったのかということが経費になる・経費にならないの要素となります。
そのような観点から考えると次のようなものは経費で落とせないと考えられます。基本的に事業の売り上げに関係のないものや家庭用のものは経費として落とせないでしょう。
- 自宅の水道光熱費
- 日用品
- 友人との飲食代
- 趣味で購入したもの
一人親方におすすめな「経費」以外の税金対策
納税の際には、「経費」以外の控除を知っておくことも大切です。確定申告の控除とは、生活に必要な項目の費用に関して、個々の事情に応じて納税負担を軽減するため設けられており、合計14の控除項目が認められています。
ここでは、14の項目の中から代表的なものをご紹介します。
基礎控除 | 基礎控除額は、白色申告・青色申告のいずれにおいても48万円(年間所得が2,400万円以下の場合)です。 |
配偶者控除 | 配偶者の所得が48万円以下(給与収入者の場合、年間103万円以下の給与)の場合、配偶者控除が受けられます。簡単にいえば、一人親方の配偶者の方がパート・アルバイトなど他社で勤務して給与所得を得ているときに、年間103万円までは課税されないということです。 |
生命保険料控除 | 生命保険・介護医療保険・個人年金保険など民間保険商品は、生命保険料控除の対象になります。控除額には各4万円の上限が設けられており、合計12万円までの控除が認められています。 |
社会保険料控除 | 国民年金保険料・国民健康保険料・労災保険料・国民年金基金の掛け金などは、社会保険料控除の対象になります。社会保険料控除は、他の保険料とは異なり上限がありません。また、家族の保険料負担分も、社会保険料として控除されます。 |
医療費控除 | 医療費の年間合計額が10万円を超えるときには、医療費控除が適用されます。具体的には、病院や歯科などで支払った治療費・鍼灸や整骨院で支払った施術費・介護老人保健施設に支払った入院費などが対象になります。 また、通院のための交通費なども、医療費控除の対象になります。 |
- 青色申告と白色申告の違いを簡単に解説すると、青色申告の方が多くの控除を受けられる代わりに、やや複雑な手続きを要求されます。
- 配偶者控除の適用がない方でも、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下であり、かつ配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下(平成30年分から令和元年分までは38万円を超え123万円以下、平成29年分までは38万円を超え76万円未満)である方については、配偶者特別控除の適用を受けることができます。
- 生命保険料控除は保険契約日や保険期間等によっては、取り扱いが異なったり控除の対象とならないものもあるため、ご注意ください
- 生命保険料控除は、支払者であれば対象になります。例えば、家族のために保険に加入し保険料を負担している場合には、生命保険料控除の対象になります。
- 医療費控除は、予防目的の診察や人間ドッグなどの検査費用・自由診療・疲労回復目的の整体などは、医療費控除の対象外です。計算方法は、「(実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補てんされる金額)-10万円」最高で200万円ですが、その年の総所得金額等が200万円未満の方は、総所得金額等の5%です。
参考:所得金額から差し引かれる金額(所得控除)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/shoto320.htm
まとめ
一人親方は個人事業主として、4つの税金(所得税・住民税・事業税・消費税)の支払い義務があります。そして、4つの税金の中で最も核となるものが、所得税です。簡単にいえば所得税とは、売上から必要経費と控除額を差し引いたものです。記事内で経費と控除についてそれぞれ主な具体例をご紹介していますが、実際に業務上あるいは日常生活においてかかるお金の多くは、経費や控除の対象として計上できます。
税金についての理解を深め、正しい節税対策にお役立ていただけたら幸いです。