建設業界では、社会保険の未加入者に対する行政指導が厳格化されています。一人親方はそもそも社会保険の加入義務はありませんが、業務や生活の上でのケガや病気、老後の安心に備える意識が必要であることに、変わりはありません。むしろ、社会保険に加入義務のない一人親方だからこそ、現在と将来の安定した生活について綿密に考える必要があります。
この記事は、一人親方と社会保険との関連について解説します。
また、ご家族の保険・補償についても解説しておりますので、将来の生活が気になる方や手元の資金が不安に感じられる方は、ぜひ参考にしてください。
Contents
建設業の社会保険未加入問題|一人親方は?
建設業界での、社会保険未加入問題をご存じでしょうか?
建設業界は、他に比べて社会保険未加入率が高い問題のことです。
※製造業の社会保険加入率約9割に対して、建設業界は約6割。
当然のことながら、社会保険未加入は重大な義務違反であり、行政指導の対象となっています。実際に、国土交通省から「社会保険に加入していますか?」と呼びかける、パンフレットが発行されています。
参考:「国土交通省」
https://www.mlit.go.jp/common/000998178.pdf
一方で、一人親方は従業員を雇用しない個人事業主であるため、そもそも社会保険への加入義務はありません。しかし、建設業界で合法的に、安全性を意識して働くには、社会保険について理解することがとても重要です。
未加入の場合は仕事が受けられない
社会保険とは、国民保険制度の一つです。建設業者が健康保険に未加入の場合、行政より以下の処分が課されます。
- 許可行政庁から、立ち入り検査時に加入指導を受ける
- 下請企業の場合は、元請企業などに加入状況を確認され、未加入の場合は加入指導を受ける
- 改善が見られない場合には、強制加入措置や監督処分を受けるケースも
下請け企業が社会保険未加入の場合は、請負元が管理監督責任を問われる可能性があります。そのため、社会保険未加入の企業は、元請企業から案件を受注できないケースがあります。社会保険加入は、社員一人ひとりの生活の安全にかかわるだけではなく、建設業者の仕事継続のためにも必須条件です。
なお、社会保険に加入すると企業側にとっては、社員の社会保険料の半分を負担しなくてはならなくなるため、コスト増大の要因になります。一方で、従業員にとってはケガや病気をしたとき、自身や家族の医療費負担が3割になることなど、生活の安心の面でとても大きなメリットがあります。
国土交通省の動き
建設業者の社会保険未加入問題に対応するため、国土交通省はこれまで、加入の義務化に向けてさまざまな動きを取ってきました。厳罰化に向けての国土交通省の動きを簡単に要約すると、以下のようになります。
◆平成24~28年度
- 経営事項審査における減点幅の拡大
②建設業への行政からの社会保険加入の確認・指導スタート(新規許可・更新時)
③立入検査による社会保険加入の確認・加入指導
④元請企業による下請企業への社会保険加入指導のスタート
◆平成29年
- 全ての許可業者の社会保険加入が義務化
- 社会保険未加入業者は、現場から排除
◆平成30年
- 社会保険未加入業者は、許可業者から排除
- 国や自治体だけではなく民間の工事に対しても、社会保険加入対策を拡張+誓約書の提出・提示要請
こうした国土交通省による厳罰化の動きにより、社会保険未加入の建設業者(企業)は仕事が受けられなくなっています。
一人親方と社会保険
前章は、建設業界全般と社会保険全般について解説しました。しかしながら、社会保険への加入が義務付けられていない、一人親方にとってはどうでしょうか?ご自身の状況と照らし合わせながら、ご覧いただけたら幸いです。
社会保険・厚生年金
狭い意味での「社会保険」には、以下の2種類があります。
◆健康保険
- 病院や歯科での治療費が、原則3割負担になります。
- 保険料は収入と比例し、給与から天引きされる仕組みになっています。
- 保険料の支払い負担が、個人と会社との折半になるため、メリットの非常に大きな保険制度です。
◆厚生年金
- 厚生年金は、老後や死亡後に備えて、毎月一定額を積み立てる年金制度です。
- 厚生年金も健康保険と同様、収入に比例して給与から引き落とされます。
- こちらも同様に、保険料の支払い負担が個人と会社との折半になるため、メリットの非常に大きな保険制度です。
一人親方が加入できる保険・年金制度
社会保険は一人親方の場合、現実的には加入しない方が大半です。そもそも一人親方の場合は、個人と会社で折半する保険料をどちらも自分で払うため、費用負担が重くなり、社会保険のメリットがかなり薄れてしまうからです。
現実的に一人親方が加入する、公的な社会保険制度をチェックしてみましょう。
◆国民健康保険
- 社会保険(会社の健康保険等)に加入していない、個人事業主などが加入する保険制度です。
- 社会保険と同様に、保険対象の治療費や薬代が3割負担になります。
- 会社との折半がないため全額が自己負担になること、扶養制度(収入が一定額以下の家族を扶養者として自分の保険に加入させられる制度)がない点で、社会 保険と大きく異なります。
◆国民年金
- 国民年金は、国民全員が加入しなくてはならない年金制度です(厚生年金に入っている会社員や公務員も加入します)。
- 会社員の場合は給与から自動的に天引きされますが、一人親方は期ごとに窓口などで支払わなくてはなりません。
- 国民年金の保険料は一律で決まっており、令和2年度の場合は16,540円です。
社会保険未加入の一人親方はどうすればいい?
会社員と、一人親方を含む自営業者を簡単に比較すると、以下の違いがあります。
【一人親方含む自営業者が加入できる社会保険】
◆国民健康保険
会社との折半がないため全額自己負担になることと、扶養制度がないことから、負担額が重いと感じられる傾向があります。
また、あらかじめ給与から保険料を天引きされる会社員と異なり、収入の中から支払わなくてはならないため、余計に負担が重く感じられるかもしれません。
◆国民年金
65歳以降に国民年金+厚生年金を受け取れる会社員と異なり、一人親方含む自営業者は国民年金のみ受け取れます。上記を踏まえると、一人親方は現在の支出を最小限に抑えつつ、いざというときの補償を充実させておく必要があります。「そのためには何をする必要があるか?」の視点から、3つのポイントを解説します。
国民健康保険・国民年金は加入が義務付けられている
前提条件として、国民健康保険と国民年金は加入が義務付けられています。負担額が重いと感じられることもあるかもしれませんが、それでも加入しないことはできません。そもそも、国民健康保険や国民年金は、安心して生活を送るためには不可欠なものです。
→どうしても支払いが困難な場合には、年金制度の減免処置を受けられます。また、国民健康保険に関しても、新型コロナウイルスの影響により負担が困難な場合に、減免処置が認められています。
一人親方労災保険
「一人親方労災保険」とは、業務上のケガや病気の治療費の自己負担額が0円になるほか、休業補償や死亡一時金などの補償が受けられる保険制度のことです。本来、労災保険は会社員などの労働者しか加入できませんが、業務中のケガのリスクが高い一人親方は、特別に加入が認められています。仕事中のケガや病気は、そもそも国民健康保険の対象外になるため、安心して仕事をするためにも、一人親方労災保険への加入はとても大きな意義があります。また、コストパフォーマンスがとても優れていることや、一人親方労災保険に加入していないと仕事の受注に制限が生じるケースがあることなど、実益が非常に高い保険制度です。
一人親方労災保険は、一人親方労災団体を通じて申し込みをしなくてはなりません。国の制度であるため保険料や補償内容は一律ですが、手数料や入会金はどの団体を選ぶかによって異なります。
重要な点は、早さ・安さ・ていねいさを兼ね備えた、一人親方労災団体をチョイスすることです。例えば、当団体「一人親方団体労災センター」では、入会金1,000円と毎月500円の組合費にて、一人親方労災保険の加入や補償申請手続きのサポートをおこなっています。
民間の保険商品
補償内容に不安を感じる方は、民間の保険商品についても検討しましょう。民間の保険商品は多種多様なので、ご自身の状況や不安に対応した保険を選ぶことがとても大切です。特に、老後の不安に備えられる貯蓄性のある保険商品が、一人親方にとって必要性を強く感じられるかもしれません。あるいは、少ない掛け金でいざというときの補償を厚くできる、掛け捨ての保険を選択する方も多いです。
一人親方の家族の社会保険は?
国民健康保険は、社会保険(会社の健康保険等)とは異なり家族の扶養制度がないため、一人親方は家族全員の国民健康保険に加入しなくてはなりません(一人親方が世帯主である場合)。公的保険への加入は、専業主婦や未成年の子どもも含めて、国民全員の義務です。
さらに、大半の一人親方にとっては、配偶者の安全や老後についても気になるポイントだと思います。従って、一人親方は自身と同時に、ご家族についても意識する必要があります。ご家族の保険についても、ベースになるのは、国民健康保険・国民年金・一人親方労災保険です。
一人親方労災保険は、業務中や通勤中のケガ・病気に対して手厚い補償を受けられる制度ですが、ご家族にとってもさまざまなメリットがあります。
◆休業補償
業務中や通勤中のケガや病気が原因で、完全に仕事が出来なくなったときの収入が補償されます(生活費が補償されるため、家族の方にとっても不可欠です)。
◆遺族補償年金/葬祭料
業務中や通勤中に一人親方が死亡してしまった際に、一時金や年金、葬祭料が補償されます。
これらの他に、療養補償や介護補償など、一人親方がケガや病気をしたときのサポートをしてくれる補償もあります。
義務である国民健康保険と国民年金、加入が推奨されている国の制度である一人親方労災保険をベースとしつつ、必要に応じて民間の保険商品などを追加するのが理想的ではないでしょうか。
まとめ
一人親方は、会社員や公務員とは異なり、社会保険への加入義務がありません。社会保険に加入できないことはありませんが、メリットよりも負担の方が重くなるため、現実的には社会保険未加入の方が大半を占めています。社会保険未加入の一人親方は、加入者と比較すると老後に受け取れる年金額が少ないことや、家族の国民年金や国民健康保険を全額負担しなくてはならないことなどの面をふまえて、資金設計をする必要があります。ポイントとなるのは、効率的に安全に保険をかけることです。
この記事でご紹介したように、一人親方労災保険をうまく活用しながら、生活の安全についてご検討ください。