一人親方と個人事業主との違いを、ご存じでしょうか?
会社を退職して、これから一人親方になろうとしている方は、個人事業主やフリーランスと一人親方との違いについて、あえて意識することはないかもしれません。しかし、厳密にいえば、一人親方には特別に認められた権利があります。従って、一人親方自身の立場や権利を理解することで、ご自身にとって有利な働き方をすることが可能です。さらに、一人親方に関する理解を深めるために、法人との違いに関しても解説します。
この記事を通して、一人親方で働くことのメリットを知り、立場を活かして活躍していただけたら幸いです。
Contents
一人親方開業=個人事業主?フリーランス?
一人親方・個人事業主・フリーランスは、厳密にはそれぞれ異なります。異なるものの重なり合う部分も多いので、まずは簡単に、それぞれの用語の定義について確認してみましょう。
- 一人親方
厚生労働省によると、「一人親方」の定義は以下のとおりです。
「労働者を使用しないで、特定の事業を常態的におこなう」
特定の事業は、建設業・林業・水産業など、合計7業種が指定されています。
参考:厚生労働省「特別加入制度のしおり」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-6.pdf
- 個人事業主
「個人事業主」とは、税務署に個人で事業をおこなっていると、申告している人のことを指します。
よく似ていますが、「自営業」は家族経営の法人なども含むのに対して、「個人事業主」はあくまでも個人で仕事をしている人に限られます。
一人親方も、個人事業主の一つです。
※会社を辞めて独立しているにもかかわらず、開業届を未提出の一人親方もいますが、その場合、社会的には一人親方とみなされません。
また、開業届を未提出の場合には、税金やお金の管理の面で多くのデメリットがあるので、ぜひ開業届を提出するようにしましょう。
開業届について詳しく知りたい方は、一人親方は開業届を出さないといけない?理由と手順を解説にて解説していますので、ぜひチェックしてください。
- フリーランス
「フリーランス」は、一人親方や個人事業主のように働き方を表す言葉ではなく、収入の獲得方法を表す用語です。
つまり「フリーランス」とは、会社や団体に所属して給与を得るのではなく、個人で活動し案件に応じて報酬を得る働き方を指します。
したがって、一人親方とフリーランスは重なり合う部分もありますが、そもそもフィールドが異なります。
一人親方と個人事業主との違いとは?
上述のとおり、一人親方は個人事業主の一つです。しかし、一人親方が個人事業主と明確に異なる部分があります。
この章では、一人親方と個人事業主との違いを、3つの観点から解説します。
業種
個人事業主は、個人で事業をして収入を得ていれば、業種は関係ありません。一方で、一人親方として認められるのは、以下の7業種のみです。
- 個人タクシー業者や個人貨物運送業者など
- 大工、左官、とび職人などの建設事業者
- 漁業(水産動植物の採捕)
- 林業
- 医薬品の配置販売
- 再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別
- 船員がおこなう事業
時々、個人事業主=建設業と誤解されがちですが、必ずしも建設業には限りません。
働き方
7業種に該当する個人事業主であっても、働き方によっては、一人親方とみなされない場合があります。最も多いのは、雇用契約を解消して個人で仕事を請け負っているものの、実質的には請負元の管理監督下にあるケースです。国土交通省の資料によると、以下のケースでは一人親方ではなく、雇用者としてみなされた実例があります。
- 事例1:建設業ではあるが、実質的に労務提供であった場合
・一人親方が就業期間中、一切他社の仕事をしなかった
・大工職人としての仕事の他に、ブロック工事など、ほかの仕事にも従事するように依頼された
・現場では、請負元の現場監督から指示を受けていた
・大工道具以外の機材・資材は、請負元のものを使用していた - 事例2:左官工の事例
・元々、会社に雇用されていたが、会社の方針で一人親方に変更になった
・一人親方への変更に伴い、健康保険や厚生年金がなくなったものの、社員だったころから仕事の内容は変化していない
・仕事のメンバーなどは会社が決定し、左官工に連絡が入るようになっている
参考:国土交通省「みんなで進める「一人親方」の社会保険加入」
https://www.mlit.go.jp/common/001090439.pdf
請負元の企業が、自社の負担(健康保険料や雇用保険料など)を軽減するために、社員に対して一人親方になるように推奨していることもあります。
上記のケースでは、会社は社員を雇用し、社会保険(厚生年金・健康保険)や雇用保険・労災保険などを整備する義務があります。
雇用
従業員を雇用しているか否かも、一人親方と個人事業主を区別するうえで、明確に異なるポイントです。一人親方は、文字通り一人で働きます。厳密にいえば、一人親方として認められるには、雇用日数が年間で延べ99日以下でなくてはなりません。
一方で、個人事業主の場合は、特に従業員を雇用することについての制約はありません。必要に応じて、人を雇用できます。
権利
一人親方は個人事業主とは異なり、特別に認められた権利があります。その代表的なものが、「一人親方労災保険」への特別加入です。労災保険は、本来は会社や団体に雇用されている人しか加入できない、業務中や通勤中のケガや病気に対して補償を受けられる制度です。
一人親方は、ケガのリスクが他の業種より高いこともあり、特別に労災保険への加入が認められています。ただし、一人親方労災保険に加入するためには、一人親方労災団体を通じて申し込みをしなくてはなりません。
また、上述のように一人親方といいながら、実質的に雇用関係のような状況の場合は、雇用元(請負元)に社会保険や労災保険などに加入できるよう、対応してもらわなくてはなりません。
一人親方と法人との違いは?
参考のために、一人親方と法人の違いに関してもチェックしておきましょう。事業が順調に推移したときに、法人化する一人親方もいるので、違いを意識しながらご覧いただけたら幸いです。
税金(消費税・法人税)
法人の場合は、個人事業主と税金の面で大きな違いがあります。
- 法人税(法人税+法人住民税+法人事業税+地方法人特別税)
個人事業主の場合は、売上から必要経費をマイナスした分(=所得)に対して所得税が課せられるのに対し、法人の場合は、個人の所得税の代わりに法人税がかかります。
所得税と法人税のどちらがお得なのかは複雑な計算を必要としますが、簡単に説明をすると、収入が一定を超えると法人化した方が、税負担の分でメリットがあります。
- 消費税
個人事業主も法人も、売上が1,000万円を超えたときに、消費税が発生する点では同じです。
ただし、個人事業主として開業後2年間・法人化後2年間は、それぞれ消費税が免除されます。
社会保険(厚生年金・健康保険)・雇用保険・労災保険
法人の場合は、一定の条件下において、厚生年金や労災保険への加入義務が設定されています。
- 社会保険(厚生年金・健康保険)
全ての法人は、社会保険(厚生年金・健康保険)に加入する義務があります。
保険料が労使折半になるため、毎月のコスト要因になることも、把握しておかなくてはなりません。
個人事業主の場合は、5名以上の従業員を雇用している場合にのみ、加入義務が発生します。
一人親方は、従業員を雇用しない働き方なので、社会保険(厚生年金・健康保険)の加入義務はありません。
- 労災保険と雇用保険
法人の場合、一人でも従業員を雇ったら、労災保険と雇用保険への加入義務があります。
義務に反してこれらの保険に加入せず、行政指導を受けてもなお未加入の場合、追徴金を支払うことになります。
一人親方は、一人親方労災団体を通じて労災保険に加入可能です。
会社員の場合は、前年度の所得から、毎月の保険料が自動的に決定します。
しかし、一人親方労災保険は自己申告で、給付基礎日額を設定します。
※給付基礎日額
労災保険における補償のベースとなる金額です。給付基礎日額は、3,500円~25,000円まで16段階で設定されています。
給付金
大きな災害が生じた際や、政策に関連する事業に対して、給付金や助成金が出されることもあります。このとき、法人と個人事業とで、それぞれ扱いが異なるケースもあります。例えば、新型コロナウイルス感染症拡大のなか出された、「持続化給付金」の最大給付額は以下のとおりです。
- 中小企業・・・最大200万円
- 個人事業主・・・最大100万円
このように、法人か個人事業主かによって、受けられる給付金の種類や内容が異なる可能性があります。
まとめ
一人親方は、個人事業主に含まれます。しかし、個人事業主と全く同じわけではありません。具体的に異なる点は、以下のとおりです。
- 一人親方は、従業員を雇用しない
- 一人親方は、指定の7業種に限定される
一人親方として認められるには、働き方(請負元から指揮命令を受けていると、実質的に雇用契約とみなされます)も、一人親方として認められる必要があります。
一人親方がどのようなものなのかを知り、税制や働き方などで損をしないようにしましょう。