建設業で一人親方として独立をお考えの方の中には、不安を感じている方もいらっしゃると思います。建設業界の一人親方には、特有の問題や将来に対する懸念点があります。問題点や今後の展望を把握しないまま独立するのは、とても危険です。思い描いていた働き方ができなかったり、進むべき方向性を誤るリスクがあるためです。
この記事は、一人親方労災団体である「一人親方団体労災センター」が、業界の今後や展望を解説します。
Contents
一人親方の現状の問題点
一人親方の今後を知るためには、押さえておきたいトピックが4点あります。問題点を把握することは、一人親方にとってリスクを避けられるだけではなく、ご自身のスキルを活かす面でも効果が期待できます。独立をご検討されている方や、一人親方になられたばかりの方は、ぜひチェックしてください。
人材不足
建設業界においては、慢性的な人材不足が叫ばれています。国土交通省が発表している「国土交通分野の将来見通しと人材戦略に関する調査研究」においても、人手不足に関するトピックが繰り返し記されています。
2014年時点において、建設業界には343万人の技能者が存在していました。しかし、廃業や高齢による引退を選択する者が多くなり、2025年の予測値では、216万人にまで減少すると見込まれています。
- IT(AIやIoTなど)の活用による業務効率化
- 外国人労働者・女性労働者・シニア労働者の積極的な活用
これらの施策により不足する労働力を補い、なおかつ建設業の労働に関するイメージを高める取り組みはありますが、生産力の向上を加味してもなお、90万人ほどの人手不足が予想されています。
建設業界全体の課題は、すなわち一人親方にとっても直結するトピックです。
参考:国土交通分野の将来見通しと人材戦略に関する調査研究
https://www.mlit.go.jp/pri/houkoku/gaiyou/pdf/kkk143.pdf
働き方改革
2019年以降に実施されている「働き方改革」は、日本の産業界全体のホットなテーマです。建設業界には特別ルールが規定されており、本来は2019年以降に適用されるはずでしたが、開始時期に猶予が設けられ2024年からとなりました。
(具体的な適用開始時期は、2021年4月時点では未定です。)
猶予が設けられたのは、当時、現状と乖離していたためです。残業や休日出勤が発生している状況のまま、法律のみを変更しても効果は期待できません。従って、建設業界全体として、長時間労働やワークライフバランスの問題に取り組んでいくことになります。
一人親方の場合は個人事業主なので、「働き方改革関連法案」が直接適用されるわけではありません。しかし、請負元業者の働き方が変われば、おのずと一人親方の働き方も影響を受けます。契約条件などバランスの取れた条件が提示されやすくなる一方で、より作業効率が重視されることになるでしょう。
労働環境改善の要請
建設業界に関しては労働環境の改善についても、強く指摘されています。適切な対処がされなければ、ケガや事故のリスクが高まるためです。労働環境改善においては、2つのアプローチが必要です。
- 労働環境の安全の徹底
安全に作業をおこなうための法律を遵守し、事故やトラブルの発生を未然に防ぐ
- ストレスケア
作業員のストレスケアを徹底し、不注意やメンタル不良によるケガや病気を予防する
一人親方の場合は、これらの対処を基本的にはご自身でおこなわなくてはなりません。ただし、工事現場に入る際などは請負元が作業環境を用意したり、外部のスタッフと協力して仕事を進めることもあるため、受注の際に作業の安全性が保たれているか否かを、見極めることも必要です。
独立の増加
全体的に、一人親方の人数は増加しています。その理由の一つは、「働き方改革」への対応や厳しい経営環境などから、企業側に直接雇用を避ける傾向が強まっているためです。また、一人親方側から見たとき、収入アップのチャンスであるメリットもあります。
一人親方は今後どうなる?
建設業界の動向や働き方の変更によって、一人親方は今後どのように変化するのでしょうか?
この章では、特に重要なポイントを2点押さえておきましょう。
法令順守や労災保険への加入が不可欠
必ず押さえておかなくてはならないのは、「法令順守」です。建設業界のイメージ改善・働き方改革・人手不足の解消などを背景に、建設業界全体として規則に沿った働き方の重要性が、強く意識されています。
また、建設業者では安全管理のため「労災保険」への加入が義務付けられており、仕事を下請けに出す場合にも、「労災保険」の加入状況をチェックする企業が増加しました。
従って、一人親方が仕事を受注する際には「法令順守を強く意識する」とともに、あらかじめ「一人親方労災保険に加入しておく」ことで、請負元からの信頼も得られるでしょう。
収入を得られるスキルが必須
「長時間労働」や「休日出勤」を是正していく動きのなか、一人親方の労働時間に関しても、「長時間になるのは望ましくない」との考え方が広がってくるでしょう。
また、長時間労働は「健康被害」や「ストレス性疾患」との関連性が指摘されており、ご自身の健康を守るためにも避けるべきです。重要なことは、決まった時間のなかで必要十分な収入を得られるよう、単価や仕事の受注方法についての意識を高くもつことです。
一人親方の収入はどうなる?建設業界の今後とは
最後に、一人親方の今後の収入面についてもチェックしておきましょう。
将来的に稼げるのかどうか、高い収入が見込めるのかどうかといった点を、長期的な視野で検討する必要があります。
IT化による業務の自動化
建設業界は他の業界に比べると、仕事の「IT化」や「自動化」が遅れているといわれます。それでも、働き方改革や労働人口減少に対応するためには、IT化に舵を切るでしょう。
業界全体のIT化が進んだ場合、一人親方もITの技術力によって、仕事の受注の幅に違いが生まれます。
逆にITを駆使できるようになれば、今までは他の業者と協力していた仕事が一人で完結できるようになり、結果として高単価の仕事を受注できる可能性が生まれます。
インフラの再整備などで社会を牽引
都市部のインフラに関しては、高度経済成長期に作られたものが少なくありません。
これらのインフラ設備は徐々に老朽化が進んでおり、今後改築や建て替えなどが少しずつ進んでいく可能性が高いです。従って、公共事業は今後も、やはり建設業界の大きなカギを握ります。
住宅はバリアフリーがカギに!
一般家庭においては、「バリアフリー」が大きなカギになります。本格的な高齢化社会を迎え、シニア層が安心して暮らすには、身体などへの負担の少ない住宅にする必要があるためです。
バリアフリー住宅に関しては、すでに各種補助金も展開されており、リフォームやリノベーションをするご家庭が増えています。今後バリアフリーのニーズは、ますます高まっていくでしょう。
まとめ
一人親方を含む建設業界は、現状いくつかの問題をかかえています。なかでも大きなトピックが、人材不足・働き方改革・法令順守です。
これらの問題は相互に影響し合いながら、今後の建設業界での働き方や収入の得方に、大きく影響していくことでしょう。