労災保険には、会社の従業員が加入している「一般加入」のものと、一人親方や小規模事業主などに認められている「特別加入」との2種類があります。これらの2種類は、どちらも国の労働基準局で運営されている同じ内容のものです。しかし、こまかな部分では異なる部分もあります。特に労災保険の特別加入を検討されている方は、両者の違いを意識しながら保険を検討することで、よりご自身の保険について、適切な判断ができるでしょう。
この記事は、一人親方労災保険特別加入団体として労災保険加入サポート業務をおこなっている一人親方団体労災センターが、「特別加入」と「一般加入」の違いを解説します。
Contents
労災保険の特別加入とは?
本来、労災保険とは会社に勤める会社員のために設けられた国の保険制度です。通常は個人事業主や企業の経営者などは加入できませんが、一人親方や中小企業の経営者などは例外的に加入できます。その背景にあるのは、一人親方や中小企業の経営者も業務中や通勤中のケガや病気に対して安心して業務を遂行できるように、との考えです。
会社員の場合には、雇用者である会社に労災保険加入義務が課せられているため、会社員は自動的に労災保険に加入することが決まっています。
労災保険特別加入と一一般加入の労災との違い①適用範囲について
一般の会社員の場合、労災保険の対象となる業務の範囲は労働契約などにもとづいて判断されます。しかし、一人親方や中小企業の経営者などの特別加入者の場合は、労働契約に該当するものがありません。
一人親方労災保険の加入の場合、厚生労働省から公表されている「特別加入のしおり」にて補償となる業務内容が明記されています。
(建設業の一人親方の補償範囲)
- 請負契約に直接必要な業務
- 請負工事現場における作業や直接付随する行為
- 請負契約であることが明らかな自家内での作業
- 請負工事に関する機械や製品を運搬する作業
- 台風や事故などの突発的な出来事にともなう出勤の場合
上記のように、労災保険の対象となる業務が明確に定められています。
労災保険特別加入と一般加入の労災との違い②給付基礎日額について
給付基礎日額とは、労働法上の平均賃金相当額のことを指します。労災保険では、休業補償額の基準となる金額です(給付基礎日額の80%の額が、補償給付されます)。一般会社員の場合、給付基礎日額は直近の収入から自動的に算出されます(給与・残業代などから計算)
一方、特別加入者である個人事業主や中小企業の経営者は、基準となる給与がありません。したがって、給付基礎日額を加入者自身で選択できるようになっています。
特別加入者の給付基礎日額は、3,500円~25,000円の間で、16段階で設定できます。
※給付基礎日額の設定額は、前年度の1日あたりの収入から算出する形が一般的です。
シンプルなケースとしては、前年の年収が365万円だった場合1日あたりの給付基礎日額は10,000円ということになります。また、会社員の場合は労災保険の費用負担を会社がおこないますが、特別加入の場合には加入者本人が負担します。
負担額は、給付基礎日額+労災保険特別加入団体の組合費などです。
※支払方法は、年間一括・年に数回の分割払いなど、それぞれ規定が設けられています。
労災保険特別加入と一般加入の労災との違い③補償内容について
労災保険の補償内容や項目は、特別加入でも一般加入でも同じです。給付基礎日額による違いはありますが、療養補償・休業補償・傷病補償などの補償内容は同じ基準のものが適用されます。ただし、こまかな点ですが以下の点が特別加入者と一般加入者とで異なります。
- ボーナス特別支給金
ボーナス特別支給金とは、労災発生日から1年間にさかのぼった賞与額をもとに算定されるものです。
会社員の場合、労災の補償の際にボーナス特別支給金が加算されますが、自営業者や個人事業主である特別加入者には加算されません。そもそも個人事業主にはボーナスがないためです。 - 休業補償の例外
会社員の場合は、会社が独自に所得補償を設けている場合があります。
所得の6割以上の補償を会社がおこなっている場合、会社員は労災保険からの休業補償を受け取れません。
しかし、特別加入者はこのような例外なく労災が認められれば必ず休業補償が給付されます。 - 二次健康診断給付
一般加入者に対しては、職場での健康診断にて異常が見つかったとき、医療機関にて受ける二次健康診断の費用補償があります。
しかし、特別加入者はそもそも会社で一次健康診断を受けないことなどを理由として、二次健康診断給付対象外となっています。
労災保険特別加入と一般加入の労災との違い④通勤災害について
通勤災害の範囲は一般会社員の労働災害とおおむね同じです。ただし、一人親方のなかで個人タクシーの運転手と自営漁業者は、通勤と業務の区切りがつかないため通勤災害は適用されません。
要約すると、特別加入をする方は「しおり」や管轄の労働基準監督署などで、補償の範囲を確認しておくとよいでしょう。
特別加入と一般加入の労災保険との違いをふまえ考えるべきポイントは?
特別加入と一般加入の違いの大部分は、こまかなポイントです。したがって、同じ労災保険とみなしても大きな問題はないでしょう。ただし、絶対的な違いが2点あります。
特別加入の場合には加入が任意であることと、給付基礎額を自分自身で設定できることです。任意だからといって労災保険に加入しない場合には、いざというときに大きなリスクを負うことになります。また、建設業の場合には労災保険や労災保険に相当する民間の保険に加入していないと、現場に入らせてもらえないケースも増えています。
給付基礎日額の設定については、費用が自己負担であることとも含めて考えなくてはなりません。負担を軽減するために給付基礎日額を低く設定した場合、大半の補償が給付基礎日額に比例して補償額が定められているため、補償が薄くなります。だからといって身の丈に合っていない給付基礎日額を設定すると、支払いの負担が重くなります。
任意加入である点と給付基礎日額を自分自身で設定する点は、特別加入の大きな特徴なので、ご自身にとって最適な補償内容にするために、意識しておきましょう。
まとめ
労災保険には、一般加入と特別加入があります。一般加入は会社員など、特別加入は自営業者や中小企業の経営者などが対象者です。
一般加入者は、会社と雇用契約をすると労災保険に加入になるため、労災保険の内容やプランについてはあまり意識する必要はありません。業務や通勤の最中に病気やケガをした際に適切に補償を請求できるように内容を把握しておく程度で十分です。
ただし、特別加入者の場合は加入が任意になっており、給付基礎日額をご自身で設定することになるため、内容についてより深く理解しておくことが大切です。労災保険の内容自体には大きな違いはないものの、給付基礎日額の設定額によって補償内容は大きく変わります。
今回ご紹介した内容以外にも不明な点や深く知りたいことがあれば、ぜひ気軽に一人親方団体労災センターへお問い合わせください。