一人親方のなかで多くの割合を占めるのが、建設業に従事する方です。現在建設会社に勤めている方のなかにも、一人親方としての独立を検討している方は多いのではないでしょうか?ただし、一人親方として生計を立てていくには、建設業の一人親方について正しく理解する必要があります。
建設業における一人親方の働き方や注意すべきポイントを「一人親方団体労災センター」が解説します。
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建設業における一人親方としての働き方
建設業における「一人親方」に関して、まず注意をしなくてはならないのが、働き方の実態です。雇用の形態を正しく認識していないと、不利な条件で請負先に労働力を提供することになります。建設業においてよくみられるのは、2種類の働き方です。
請負としての働き方に近い
請負に近い形とは、いわゆる典型的な個人事業主としての働き方です。
- 請負元から案件ベースで、仕事の質や内容に応じて単価が設定されている(出来高見合い)
- 請負元から指揮・監督されず、作業時間や出勤日程などを自分自身で決められる
- 請負元からの仕事の追加依頼や残業の要請などを自由に断れる
請負に近い形での働き方は、本来の意味で「一人親方」に該当します。請負に近い働き方をする際は、国民健康保険に加入したり老後の資金を貯蓄したりしなくてはなりません。また、案件の単価が希望に達しない場合は、請負元と交渉するなどにより条件改善に努めましょう。
労働者としての働き方に近い
労働者に近い形の働き方は、より細かな注意が必要です。その特徴は以下のとおりです。
- 日給や時間給など、作業時間に比例して給料が支払われる
- 作業内容に関して、請負元から具体的な指揮・命令を受けている
- 残業や仕事の追加を断れない
これらに該当すると、実質的には企業の社員としての働き方と変わりません。上記のような見せかけの一人親方として働く際には、以下の点に注意する必要があります。
- 実質的には会社員であるため、社会保険や厚生年金に加入しなくてはならない(請負元に、きちんと保険に加入してもらう)
- 時間外労働が発生した場合には、給料が発生する
実質的に上記のコストを免れるために、見せかけの請負契約を結ぼうとする建設会社があるため、十分に注意してください。
建設業の一人親方の社会保険などの問題
一人親方として建設業に従事する方の収入相場は、会社員よりも多いです。ただし、会社員が加入している保険制度に未加入の状態になるため、いざというときのための対策を自分自身で考えなくてはなりません。
この章では、4つのポイントに分けて解説します。
社会保険
社会保険は、病院などの医療施設での治療費や薬価に対して、税金の補助が受けられる制度です(通常は、自己負担額が3割)。従業員を雇用せずに働く一人親方の場合、社会保険への加入義務はありません(5名以上の従業員を雇用する場合、社会保険の加入義務が発生します)。
社会保険に加入しない代わりに、一人親方は国民健康保険に加入する義務があります。国民健康保険は、以下の点に注意が必要です。
- 扶養認定がない
- 労使折半ではないため、社会保険よりも月々の負担額が高くなりがち
- 傷病手当や出産手当などがない(自治体によっては支給されますが、社会保険よりも少ない)
国民健康保険に加入したうえで、上記の点についていかに対応するのかを考える必要があります。
労災保険
労災保険とは、業務中・通勤中のケガや病気に対して、厚い補償が受けられる制度です。通常は会社員に対して認められている制度なので、個人事業主は労災保険に加入できません。しかし、一人親方は国から特別に労災保険への加入が認められています。
一人親方は、特別加入団体を通じて労災保険に加入できます。このとき、注意しなくてはならないのは給付基礎日額の設定額です。給付基礎日額とは、休業補償額の基準となる金額のことです。一人親方は、給付基礎日額を任意で設定できます。
労災保険への加入は任意ですが、休業補償・療養補償・障害補償・遺族補償など、幅広い範囲の補償給付があるため、加入をぜひ検討してください。近年では、安全配慮義務の観点から労災保険未加入の一人親方は、請負元から仕事が受注できないケースも増えているため、必須ともいえる保険です。
年金
日本の年金制度は、最大3階建ての構造となっています。
- 1階部分=国民年金
国民の全員が加入を義務付けられています。
20歳から60歳までの間、一律で年金を支払います。 - 2階部分=厚生年金
企業に勤める会社員は、厚生年金を勤務先の会社との折半で負担します。
厚生年金の払込額・受領額は、給与の金額によって変動します。 - 3階部分=個人年金(iDeCoなど)
任意で個人加入する年金制度です。
加入義務はありません。
個人事業主の場合は、個人年金制度を活用することで老後の収入の不安に備えられます。
建設業の一人親方のポイントは、老後の資金をいかに確保するかという点です。
また、一人親方の場合は定年の仕組みがないため、いつごろまで元気に働けるかというのも大きなポイントです。
雇用保険
雇用保険とは、失業時に次の仕事に就くまでの生活や技能習得に関する保険制度です。会社員に認められている制度であり、一人親方は加入できない保険です。万が一一人親方が廃業した場合も、失業保険などの制度は受けられないことを認識しておきましょう。
建設業の一人親方に必要な資格
一人親方として建設業に従事する際には、資格が必要な職種とそうでない職種があります。
この章では、一人親方と資格について解説します。
建設業許可
建設業許可には、以下のメリットがあります。
- 500万円以上の大口案件を受注できる
- 対外的に信用が得られる
上記の理由から、多くの建設関係企業は、建設業許可を取得しています。そして、一人親方であっても建設業許可の取得は可能です。ただし、建設業許可の取得はとても敷居が高いのも事実です。具体的な条件は状況によって異なります。一般的な例としては5年以上の実績を積んだのちに、書式を記入して提出しなくてはなりません。
「一人親方が建設業許可を取得するメリットは?申請方法解説」の記事にて詳しくご紹介しているので、興味のある方はぜひチェックしてください。
建設関連資格
建設関係の資格を取得すると、専門性が高まり、仕事を受注しやすくなります。建設に従事するうえで、特に知名度・権威性の高い資格は以下のとおりです。
- 一級建築施工管理技士
- 一級土木施工管理技士
- 一級建築士
- 宅地建物取引士
また、電気工事士やとび職など、資格を取得しなければ従事できない仕事もあります。これらの資格を取得することは、仕事を安定的に受注するためにも仕事の単価アップのためにも非常に有効です。
建設業の個人事業が一人親方になるための手続き
最後に、建設業で一人親方をするための法的な手続きについて解説します。
この章でご紹介する手続きを取らなければ法的に「一人親方」として認められません。結果的に、納税の際に受けられるはずの優遇を受けられなかったり、一人親方としての保険制度を利用できなかったりするなどのデメリットが生じます。
一つひとつ、順にチェックしてください。
開業届
税務署に、個人事業主としての開業届を提出します。
提出期間は開業日を起算として1か月以内です。開業届を提出して、個人事業主として認められると以下のメリットがあります。
- 屋号を設定できる
- 青色申告が受けられる
- 屋号にて、銀行口座やクレジットカードの口座を作れる(事業専用の口座を持てる)
- 個人事業主を対象とした補助金・助成金を受けられる
クラウド型ソフトなどを使用すれば、開業届の書類作成は非常に簡単です。不備なく書類を作成して、税務署に提出するのみの作業なので、多忙であっても独立したらすぐに手続きしましょう。
確定申告
一人親方は個人事業主であるため、毎年2~3月に確定申告をおこなわなくてはなりません。スムーズに確定申告をおこなうためには、毎月の収益と支出をチェックすることや、レシート・領収書をもれなく保管しておくことが重要です。確定申告をスムーズにおこなう自信のない方は、オンラインの会計ソフトを使用すると非常に便利です。
保険の手続き
保険の手続きにおいて、重要な項目は以下の3点です。
- (市町村の自治体で手続きが必要なもの)
・国民健康保険への切り替え
・国民年金の入会手続き - (任意で加入手続きが必要なもの
・労災保険(特別加入)
・そのほか、必要に応じて生命保険
※労災保険の加入は任意ですが、安心して仕事を続けるためにも基本的には加入しましょう。
仕事の受注
一人親方が案件を受注するためには、なんらかの形で営業をかける必要があります。例えば、会社員のときの同僚や取引先などから仕事を受注できる場合もあれば、新たに外部の企業から案件を得られることもあります。
建設業界は慢性的に人手不足です。そのため一つひとつの案件をていねいにおこなうと、継続的に受注を得られる可能性が高いです。とはいえ、手元に案件が少ないときや、より高単価の案件を獲得したいときなどは、積極的に営業をかけてご自身の受注数を安定させましょう。
経営管理
一人親方は、営業や仕事での作業以外に事業にかかわるすべてのことを作業しなくてはなりません。といっても、従業員を雇用せずにご自身一人で仕事をする個人事業主は、おこなうべき管理作業が限られています。
- 顧客管理
- 案件の受注活動や納期など営業に関する管理
- 仕入れ・購買・売上などの収益・コストに関する管理
これらに関しても、クラウド型会計ツールを利用することでかなり業務負担を軽減できます。
まとめ
一人親方の職種の中で最も多くの割合を占めるのが建設業です。
建設業の場合、一人親方として独立をすると収入が増える傾向があります。ただし、一人親方の場合は保険や年金などの手続きをきちんとおこない、リスクに備えることが大切です。安心して仕事を継続するためにも、必要手続きの漏れをなくすためにも、ぜひ本記事を参考にしてください。