ウーバーイーツのサービスが国内に広がるとともに、ウーバーイーツの配達員の人数も急速に増加しました。2021年7月現在、配達員の人数はすでに10万人を突破したともいわれています。
ウーバーイーツは、巣ごもり需要を後押しするだけではなく新たな働き方・サービスとして市民権を得ましたが、一方でさまざまなトラブルが聞かれるようにもなりました。
そうした状況下で持ち上がってきたのがウーバーイーツ配達員の労災保険の問題です。2021年7月時点では、ウーバーイーツ配達員は労災保険に加入できません。業務中・通勤中にケガ・病気をしてしまったときの補償が一切得られない状況です。労働状況改善のために、関連団体がさまざまな動きを見せる中厚生労働省が出した1つの答えが、労災保険への特別加入です。
この記事では、ウーバーイーツ配達員の労災保険加入に関して、2021年7月時点での最新の情報を解説いたします。
Contents
ウーバー配達員の労災リスクとは?
ウーバーイーツ配達員に労災保険の問題が生じたのは、そもそもウーバーイーツ配達員に業務中・通勤中のさまざまなリスクが存在しているためです。最初にどのようなリスクが存在するのかについて一つひとつご紹介します。
配達中に事故に遭ってケガをする
自転車やバイクで公道を走るウーバーイーツの配達員には、交通事故のリスクが存在します。例えば、2020年東京都の自転車事故件数は、負傷事故9,703件(全負傷者のうち33.6%)・死亡事故34件(全死亡事故のうち21.9%)にも上ります。もちろん、配達員が加害者になるケースも無視できません。
ウーバーイーツの配達員の場合には、以下の事故が起こりやすい事情もあります。
- 注文品を早く届けなくてはならない
- 体力的な消耗がある(1日に複数の仕事を担当するため)
さらに、電気自動車の製品事故によるケガのリスクもあります。2020年には「運転中に突然ハンドルが動かなくなった」など、171件の製品事故が発生しています。
参考:「警視庁:発生状況・統計」
https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/about_mpd/jokyo_tokei/tokei_jokyo/bicycle.files/001_02.pdf
参考:「経済産業省:2020年の製品事故の発生状況及び課題」https://www.meti.go.jp/shingikai/shokeishin/seihin_anzen/pdf/018_02_00.pdf
暴力事件に巻き込まれる
ウーバーイーツの配達員が暴力事件に巻き込まれた事実も、数件報告されています。配達元の飲食店スタッフとのトラブルや、住民とのトラブルなどです。また、極めてまれな例ではあるものの、殺人事件も発生しています。少なくとも、配達員は業務中にとても無防備な状態であることを理解しておく必要があります。
熱中症や体調不良のリスク
ウーバーイーツの配達をしている際に、体調や気候などのコンディションが優れないこともあるでしょう。長時間にわたり配達を続けていると、熱中症や貧血などで倒れてしまうケースも考えられます。
体調の異変に気がついても、配達途中に仕事をストップするのは難しく、結果的に重症につながってしまうこともあります。
ウーバー配達員は労災保険に加入できる?
2021年7月現在において、ウーバーイーツの配達員は労災保険に加入できません。そもそも、労災保険とは会社員など組織に所属する従業員の業務中・通勤中の補償として国が設けている制度です。従業員を雇用する企業は必ず労災保険に加入しなくてはならないため、企業に勤めている会社員は自動的に労災保険が適用されます。
一方、ウーバーイーツの配達員は個人事業主にあたるため、労災保険が適用されません。ウーバーイーツ本部と配達員との関係は、雇用契約ではなく請負契約です。とはいえ、前章でご紹介したようにウーバーイーツの配達員にはさまざまなリスクが存在することから、制度を見直すべきとの声が多く上がっていました。
その結果、ウーバーイーツ配達員の労災保険への特別加入が認められることになりました。2021年9月以降、ウーバーイーツ配達員は、自己負担で労災保険に加入できます。
ウーバー配達員が労災保険に加入するメリット
「労災保険への加入が認められても、結局自腹ならメリットがないのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、労災保険に加入することでウーバーイーツ配達員のリスクが大きく軽減されることは確かです。
4つの観点でチェックしましょう。
療養補償
療養補償とは、病院での治療費や薬代に対する補償給付制度です。労災保険加入者は、業務中・通勤中のケガや病気については、自己負担0円で治療を受けられます。労災保険に加入していない場合、国民健康保険が適用になり、治療費は3割負担です
休業補償
休業補償とは、仕事中のケガや病気によって全く仕事ができない時の収入保障です。民間の保険商品などでは、「就業不能補償保険」などと呼ばれています。休業補償は、あらかじめ設定しておいた給付基礎日額の金額に基づいて支払われます(給付基礎日額の8割)。給付基礎日額の金額と毎月支払う保険料は比例するため、無理のないプランを考えなくてはなりません。
障害年金・一時金
障害年金・一時金は、障害が残るほどの大きなケガや病気をしてしまったときに支払われる給付金です。障害が残ると、日常生活や業務に支障をきたしてしまいます。また、治療やリハビリテーションを続けなくてはならないこともあるでしょう。
障害の程度に応じて年金もしくは一時金が支払われます。
そのほかの補償
労災保険は、上記の他にも多くの補償が充実しています。
- 遺族年金/給付金・・・本人が死亡した際に、家族に対して支払われる補償給付金です。
- 葬祭料/葬祭給付・・・お葬式の際に支払われる補償給付金です。
- 傷病補償・・・ケガや病気の発生から1年6ヵ月を経過した段階で治癒していない場合に支払われる補償給付金です。
- 介護補償・・・病気やケガの結果、介護が必要になった場合に支払われる補償給付金です。
上記は、すべて業務や通勤に起因するケガ・病気・死亡に対して支払われます。自己負担ではあるものの、労働上のさまざまなリスクに幅広く対応しているため、とてもメリットの大きな保険制度です。
現在ウーバー配達員が加入できる保険制度
労災保険への特別加入が認められる方針になったものの「労災保険だけでは心もとない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。あるいは、労災保険以外にどのような選択肢があるのかを知っておきたいとの考えをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
この章では、ウーバー配達員が労災保険以外に加入できる制度をご紹介します。
ウーバー配達員向け保険プログラム
ウーバー配達員向け保険プログラムは、ウーバーイーツの本部と三井住友海上火災保険との間で結ばれている補償制度です。ウーバーイーツにドライバーとして登録をすると自動的に適用されるため、事前申請などの必要性はありません。
ウーバー配達員向け保険プログラムでは、以下の補償給付金が受けられます。
- 対人・対物賠償責任(配達中に他人をケガ・死亡させてしまったり、他人の財産を破損させてしまったりしたときに受けられます)
- 傷害補償(配達中に、ドライバー自身がケガをしてしまったときに受けられる保険給付金です)
保険の適用を受けるためには、万が一事故を起こした場合には速やかに警察へ連絡する必要があります。非常に便利な制度である反面、補償内容が不十分であるとの指摘もあります。
- 傷害補償として受けられる医療費の上限が50万円に設定されている
- 休業補償が入院の場合に限られている(なおかつ、補償期間の上限が30日に設定されている)
- 配達中以外の事故・病気については補償されていない
民間の保険商品
民間の保険商品は、多種多様な保険商品があるためご自身の希望する補償が充実しているサービスを選択することが重要です。ウーバーイーツの配達員との関連性が高い保険商品をご紹介します。
- 自転車保険
自転車事故やトラブルが発生した際に補償を受けられる保険商品です。比較的低価格の保険商品です。
ウーバー配達員向け保険プログラムとは異なり、待機中のケガについても補償されます。
また、弁護士特約を利用して、事故の相手方との示談交渉を依頼することも可能です。 - 施設賠償責任保険
施設賠償責任保険は、業務中の事故やトラブルについての補償給付金が受けられる保険制度です。
業務中だけではなく、プライベートのケガでの入院・通院についても補償を受けられます。
労災保険特別加入制度が認められても課題が残る
2021年9月以降に労災保険の特別加入が認められても、ウーバーイーツ配達員の安全面には不安が残ります。ウーバーイーツ配達員の労働組合が特に反発しているのは、労災保険の特別加入の保険料が自己負担であることです。ただし、この点については特別加入が認められている他の業態(建設業・タクシードライバーなどの一人親方)の加入者も基本的に自己負担となっています。
また、ウーバーイーツ配達員が仕事のリスクを十分に理解することが必要です。そもそも、すべての人にとって完ぺきな補償は存在しません。ドライバー自身がリスクと対処すべきポイントを明らかにしたうえで、不足部分については民間の保険や貯蓄などを使ってうまくカバーする工夫が求められます。
まとめ
ウーバーイーツが社会に浸透すると同時に、いくつかの問題が提起されるようになりました。配達員の業務中のケガやトラブルは、今問題視されているポイントの1つです。
労災保険への特別加入が認められたことは、ウーバーイーツ配達員の労働上の安全を考えるうえでは大きな前進です。ただし、必ずしも十分ではありません。
そもそも、労災保険の特別加入は任意の制度なので、配達員が加入を選択するか否かも大きなポイントです。民間の保険商品も含めて、慎重かつ十分な検討が必要です。