従業員を1人でも雇用する場合、事業主は労災保険の「保険関係成立届」を提出する必要があります。労災保険は、従業員を労災事故発生時に補償する非常に重要な制度です。労災保険の加入手続きは、「一元適用事業」と「二元適用事業」で必要書類の提出方法が異なります。
本記事では、労災保険の保険関係成立届を提出する方法について、一元適用事業と二元適用事業の場合に分けて詳しく解説します。保険関係成立届の記入例や、提出を怠った場合の罰則・デメリットについてもまとめますので、ぜひ参考にしてください。
Contents
従業員の雇用時に必要な労災保険の保険関係成立届とは?
事業の拡大に伴い従業員を雇用する際、労災保険の保険関係成立届を含む各種手続きが必要です。労災保険は、従業員を1人でも雇用する場合に加入義務が生じます。
加入対象となるのは、正社員だけでなくパートやアルバイトなどを含むすべての労働者で、保険料は事業主が全額負担します。
労災保険は、労働者が業務中・通勤中の事故でケガや病気をした際に、保険給付を行う国の制度です。
また、「1週間の所定労働時間が20時間以上」で、「31日以上継続して雇用が見込まれる」場合には、雇用保険の加入義務が生じます。雇用保険は、労働者の失業時に生活の安定と就職の促進のための失業給付を行う制度で、保険料は事業主と労働者の双方が負担します。
雇用保険と労災保険を合わせて「労働保険」と呼び、両保険を取りまとめるために必要なのが「保険関係成立届」です。
保険関係成立届は「一元適用事業」と「二元適用事業」で異なる
保険関係成立届の申告・納付は、「一元適用事業」と「二元適用事業」で手続きの流れが異なります。ここでは、「一元適用事業」と「二元適用事業」の違いを解説します。
「一元適用事業」とは?
「一元適用事業」とは、労災保険と雇用保険において、保険料の申告・納付などをまとめて取り扱う事業のことを表します。一般の会社は、労災保険と雇用保険を一括して加入手続きを行う「一元適用事業」です。
また、「二元適用事業」以外の事業は、基本的に「一元適用事業」であると考えられます。
「二元適用事業」とは?
「二元適用事業」とは、保険料の申告・納付を労災保険と雇用保険で別個に行う事業のことです。事業によっては、その実態から両保険の適用の仕方を区別する必要があります。
例えば建設業では、原則として元請業者が、下請け業者の労働者を含む工事従事者すべて(社長・役員・一人親方など個人事業主は除く)の労災保険をかけます。しかし雇用保険に関しては、それぞれの下請け業者が自社の従業員に対してかけるため、労災保険と雇用保険の手続きは分けて行なうのが実情です。
建設業以外にも、「都道府県や市町村、およびこれらに準ずるものが行う事業」「農林・畜産・養蚕・水産の事業」「港湾労働法に規定する港湾運送の行為を行う事業」などが、「二元適用事業」に該当します。
保険関係成立届など必要書類の提出方法
「一元適用事業」と「二元適用事業」では、労災保険と雇用保険の適用の仕方が異なるため、それぞれに必要書類の提出方法が定められています。ここでは、厚生労働省の公式サイトを参考に、保険関係成立届など必要書類の提出方法をまとめます。
「一元適用事業」の場合
「一元適用事業」は、労災保険と雇用保険の保険料をまとめて、一元的に取り扱います。
手続きの方法は、以下の通りです。
必要書類 | 提出期限 | 提出先 |
保険関係成立届 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内 | 所轄の労働基準監督署 |
概算保険料申告書 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内 | 所轄の労働基準監督署・所轄の都道府県労働局・日本銀行のいずれか |
雇用保険適用事業所設置届 | 設置の日の翌日から起算して10日以内 | 所轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
雇用保険被保険者資格取得届 | 資格取得の事実があった日の翌月10日まで | 所轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
「二元適用事業」の場合
「二元適用事業」の場合、労災保険と雇用保険の申告・納付をそれぞれ別個に行います。
手続きの方法は、以下の通りです。
【労災保険】
必要書類 | 提出期限 | 提出先 |
保険関係成立届 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内 | 所轄の労働基準監督署 |
概算保険料申告書 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内 | 所轄の労働基準監督署・所轄の都道府県労働局・日本銀行のいずれか |
【雇用保険】
必要書類 | 提出期限 | 提出先 |
保険関係成立届 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内 | 所轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
概算保険料申告書 | 保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内 | 所轄の都道府県労働局・日本銀行のいずれか |
雇用保険適用事業所設置届 | 設置の日の翌日から起算して10日以内 | 所轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
雇用保険被保険者資格取得届 | 資格取得の事実があった日の翌月10日まで | 所轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
保険関係成立届の記入例
ここでは、保険関係成立届の記入項目と記入例を解説します。
引用:厚生労働省公式サイト
【冒頭部分】
はじめて従業員を雇用する場合は、「0:保険関係成立届(継続)(事務処理委託届)」を残し、「1:保険関係成立届(有期)」「2:任意加入申請書(事務処理委託届)」を二重線で消します。
その下は、最寄りの労働基準監督署の名称を記入し、「労働局長」「公共職業安定所長」を二重線で消し、「(イ)届けます」を〇で囲みます。
引用:厚生労働省公式サイト
【事務所の住所】
会社・店舗・事務所などの所在地を記入します。
フリガナは濁点も1マスに記入します。
【事業所の名称・氏名】
「株式会社」など会社種類も含めて正式名称で記入します。
屋号がなければ、代表者の氏名を1行目に記入します。
引用:厚生労働省公式サイト
【会社の概要(右側の項目)】
・事業主
本社または主たる事務所の所在地と名称を記入します。
・事業
保険の対象となる従業員を雇用する事業所の所在地と名称を記入します。
・事業の概要
事業の内容を具体的に記入します。
例)食料品・日用品の販売
・事業の種類
「労働保険率適用事業細目表」から該当する事業の種類を記入します。
・加入済みの労働保険
はじめて従業員を雇用する場合は記入不要です。
・保険関係成立年月日
労働者を雇用した年月日を記入します。
・雇用保険被保険者数
雇用保険の対象となる従業員数を記入します。
・賃金総額の見込額
保険関係成立届の提出日から保険年度末(3月末)までに見込まれる従業員の賃金総額(見込額)を記入します。
・委託事務組合
特にない場合は記入不要です。
・委託事務内容
記入不要です。
・事業開始年月日
任意加入の申請時に当該事業の開始年月日を記入します。
引用:厚生労働省公式サイト
【下の項目】
・保険関係成立年月日
労働者を雇用した年月日を記入します。
・常時使用労働者数
保険年度における1日の平均使用労働者の見込数を記入します。
年間の延べ労働者数を所定労働日数で割って算出します。
・雇用保険被保険者数
はじめて提出する場合は適用する人数を記入します。
・免除対象高年齢労働者数
4月1日現在で64歳以上の従業員数を記入します。
労災保険の保険関係成立届を怠った場合
事業者が労災保険の保険関係成立届の提出を怠ると、罰則やデメリットがあるため注意が必要です。例えば、雇用保険の加入義務を怠ると、雇用保険法第83条1号により、「懲役6ヵ月以下、または罰金30万円」が科せられます。
それ以外の罰則やデメリットについて、以下で詳しく解説します。
保険料がさかのぼって徴収される
労災保険の加入手続きを行わない事業者に対しては、行政からの指導が行われます。それでも加入手続きを行わず、保険関係成立届を提出しない事業者は、保険料がさかのぼって徴収されます。
さらに追徴金10%が加算されることになるため、迅速な対応が必要です。
労災発生の際には給付額の全額または一部が徴収される
労災保険の保険関係成立届を提出していない期間に労災事件が発生し、労災保険給付が行われる場合も、保険料がさかのぼって、追徴金と合わせて徴収されます。
さらに、故意または重大な過失により労災保険の加入手続きを行わない事業者に対して、労災保険給付の全部または一部(100%または40%)が徴収されます。
助成金が受給できなくなる
労災保険の保険関係成立届の提出を怠ると、国の助成金を受給できなくなる可能性があります。助成金には、従業員を休業させる必要がある場合にもらえる「雇用調整助成金」や、就職困難者を雇い入れる際に支給される「特定求職者雇用開発助成金」などがあります。
助成金が必要な時にスムーズな受給ができなくなる恐れがあるため、労災保険の加入手続きがまだの場合は、すぐに対処する必要があります。
労災保険の特別加入制度について
労災保険は、事業者によって雇用される労働者すべてが加入対象となり、万が一のケガや病気の際には手厚い補償が受けられる国の制度です。ただし、個人で業務を請け負う一人親方や個人事業主は、労災保険加入の対象外です。
この記事で解説いたしました成立届は一人親方団体が提出するものです。一人親方が労災保険に加入する場合は一人親方団体に加入して、そのうえで労災保険の特別加入を労働基準監督署に申請するという方法となります。
そこで、労災保険特別加入制度を活用して、万が一の事故にそなえることがすすめられています。
「一人親方団体労災センター」では、入会金1,000円(初年度のみ)・給付基礎日額に応じた労災保険料・組合費月々わずか500円と、軽い負担で労災保険の制度が利用できます。
お急ぎの方は最短翌日から加入可能ですので、お気軽にお問い合わせください!
まとめ
今回は、労災保険の保険関係成立届についてまとめました。1人でも従業員を雇用する場合、労働保険の手続きが必要になります。「一元適用事業」と「二元適用事業」では、労災保険と雇用保険の取り扱い方が異なるため、この記事を参考にしてスムーズに手続きが進められるようにしましょう。
また、労災保険の手続きを怠ると、重大な罰則やデメリットが生じるため、迅速かつ的確に対応するよう心がけてください。