労災保険を含む各種給付に、追加給付が生じる可能性があります。「追加給付の対象となるのは誰?」「追加給付はいつから?」「金額はどのくらい?」と疑問に思う方も少なくないでしょう。
本記事では、労災保険の追加給付が必要となった経緯や追加給付金額の目安を解説します。受給する際の注意点についても説明しますので、ぜひ参考にしてください。
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労災保険の追加給付とは
「労災保険(雇用保険)の追加給付に関するお知らせとお願い」と書かれた文書を受け取り、「新手の詐欺では?」とあやしむ方が少なくないようです。実は、労災保険・雇用保険の追加給付が生じる可能性があり、そのためのお知らせが対象となる可能性のある方に郵送されています。
ここでは、労災保険の追加給付が必要になった経緯や対象者となる可能性があるのは誰か、いつから給付がはじまるのかについて解説します。
追加給付が必要となった経緯
厚生労働省によると、「2004年7月以降に支給された労災保険の給付に追加給付がある可能性がある」とのことです。その経緯については、次のように説明しています。
厚生労働省の「毎月勤労統計調査」で全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたことにより、統計上の賃金額が低めに出ていました。この結果、同調査の平均給与額の変動を基礎としてスライド率等を算定している労災保険の給付額に影響が生じています。
このため、2004年以降に労災保険の給付を受給した方の一部に対し、追加給付が必要となりました(現在受給中の方も該当する場合あり)。
国民の皆様に不利益が生じることのないよう、2004年以降追加給付が必要となる時期に遡って追加給付を実施します。
御迷惑をおかけしておりますこと、心よりお詫び申し上げます。
引用:厚生労働省「労災保険の給付を受給していた皆様へ」
雇用保険に関しても同様で、過去にさかのぼって追加給付するために、同件に関するお知らせと本人確認の文書が郵送されています。
追加給付の対象となる可能性があるのは?
追加給付の対象となるのは、2004年以降に「雇用保険、労災保険、船員保険の給付を受給した方の一部及び雇用調整助成金など事業主向け助成金を受けた事業主の一部」です。
労災保険に関しては、「傷病(補償)年金」「障害(補償)年金」「遺族(補償)年金」「休業(補償)給付」などの労災保険給付や特別支給金等を2004年7月以降に受給した方が、追加給付の対象となる可能性があります。
対象人数の見通しは、以下の通りです。
【雇用保険】
延べ約1,900万人
【労災保険】
- 年金給付(特別支給金を含む):延べ約27万人
- 休業補償(休業特別支給金を含む):延べ約45万人
【船員保険】
約1万人
【事業主向け助成金】
- 雇用調整助成金等:延べ30万件
なお、住所データがない受給者が推計延べ1,000万人以上おり、記者発表やホームページなどによる協力の呼びかけを行うとのことです。心当たりがある方で、「労災保険(雇用保険)の追加給付に関するお知らせとお願い」が自宅に郵送されていない方は、「ご相談窓口」に申し出てください。
労災保険の追加給付はいつから支給される?
労災保険を含む「追加給付のスケジュール」は、以下の通りです。
【現に給付を受けている方の場合】
追加給付項目 | お知らせ開始時期 | お支払い開始時期 |
雇用保険 | 3月中~
(一部の方の過去分は10月頃~) |
将来分:3月中~
過去分:4月~(一部の方は11月頃~) |
労災保険(労災年金) | 将来分:4月
過去分:5月~(一部の方は9月~) |
将来分:6月(4~5月分)~
過去分:6月~(一部の方は10月~) |
労災保険(休業補償) | 過去分:6月~(一部の方は7月~) | 将来分:5月(4月分)~
過去分:7月~(一部の方は8月~) |
船員保険 | 4月~ | 4月~ |
【過去に給付を受けていた方の場合】
追加給付項目 | お知らせ開始時期 | お支払い開始時期 |
雇用保険 | 育児休業給付:8月頃~
それ以外:10月頃~ |
11月頃~ |
労災保険(労災年金) | 9月頃~ | 10月頃~ |
労災保険(休業補償) | 8月頃~(一部の方は11月頃~) | 9月頃~(一部の方は12月頃~) |
船員保険 | 4月~ | 6月~ |
引用:厚生労働省「追加給付のスケジュール」
労災保険の追加給付金額の目安はいくら?
追加給付の一人当たりの平均額は、以下の通りです。
- 雇用保険 約1,400円
- 労災保険の年金給付(特別支給金を含む) 約9万円
- 労災保険の休業補償(休業特別支給金を含む) 約300円
- 船員保険 約15万円
ここでは、労災保険(労災年金)の追加給付金額の目安を、具体例を挙げて解説します。
年金スライド率の改正により対象となる場合
被災時期によって、年金スライド率の改正による追加給付の有無や額が決まります。労災年金に関して以下のように示されています。
(例)2001(H13)年6月に夫が亡くなり、翌月から2017(H29)年6月分まで、遺族補償年金を受給していたAさん(45歳)の場合
※現在の年金支給額:給付基礎日額1万円×153日分(ご遺族1名)=153万円
→ 追加給付額は、90,270円+加算額5,370円
<計算方法>
153万円×1%×4年=61,200円 153万円×0.2%×1年=3,060円
153万円×0.4%×1年=6,120円 153万円×0.6%×1年=9,180円
153万円×0.7%×1年=10,710円
※2001(H13)に被災した方は、
・H18.8~H21.7分及びH22.8~H23.7分の4年について、改正前後のスライド率の差が+1%
・H25.8~H26.7分の1年について、改正前後のスライド率の差が+0.2%
・H26.8~H27.7分の1年について、改正前後のスライド率の差が+0.4%
・H27.8~H28.7分の1年について、改正前後のスライド率の差が+0.6%
・H28.8~H29.7分の1年について、改正前後のスライド率の差が+0.7%
なお、H16.8~H18.7分、H21.8~H22.7分及びH23.8~H25.7分のスライド率は、算定の結果、変化しない。
引用:厚生労働省「労災保険の追加給付等の対象となる方の例」
最低保障額(自動変更対象額)の改正により対象となる場合
最低保障額(自動変更対象額)の改正により、各期間の「改正後」の値を下回る給付基礎日額が適用されていた場合は、その分の「差額」と、現在価値に見合う金額になるよう調整する「加算額」が給付されます。
追加給付の対象となる方の例が、以下のように説明されています。
【最低保障額の改正(円)】
各期間 | 2004.8~2005.7 | 2005.8~2006.7 | 2006.8~2007.7 | ~ | 2016.8~2017.7 | 2017.8~2018.7 | 2018.8~2019.7 |
改正前 | 4,160 | 4,080 | 4,100 | 3,910 | 3,920 | 3,940 | |
改正後
(差額) |
4,160
(0) |
4,100
(+20) |
4,120
(+20) |
3,920
(+10) |
3,930
(+10) |
3,950
(+10) |
(例)2018(H30)年4月から2019(H31)年3月現在まで障害補償年金(障害等級5級:給付基礎日額184日分/年)を受給しているCさん(66歳)の場合
※Cさんは平均賃金が3,000円であったため、2018年4月から7月までは3,920円、2018年8月から2019年3月までは3,940円の最低保障額で支給されています。改正により、最低保障額が上記表のとおり、それぞれ10円増額します。
→ 追加給付額は10円×184日/年(2018年4月~2019年3月)=1,840円+加算額18円
引用:厚生労働省「労災保険の追加給付等の対象となる方の例」
労災保険の追加給付を受給する際の注意点
労災保険の追加給付に関するお知らせの封筒が届いたときに、あやしいと感じた方も少なくありません。追加給付に関しては、全国ニュースにもなっており詐欺の対象となる可能性があるため注意が必要です。
ここでは、追加給付を受給する際の注意点を解説します。
追加給付に関する詐欺に注意する
追加給付に関する書類は、口座情報など個人情報を登録させる内容であるため、詐欺を疑う方も少なくありません。そこで、本当に厚生労働省から送付されているか、以下の2点を確認しましょう。
- 文書の左上に照会番号の記載がある
- 返送先封筒に記載されている住所が「東京都練馬区上石神井4-8-4(〒177-8790)」である
次のケースでは、詐欺の可能性が高いため注意しましょう。
- 金融機関の暗証番号を聞いてくる
- 職員が訪問または電話をしてくる
- 手数料を徴収される
- ATMの操作を指示される
わからないことは「追加給付問合せ専用ダイヤル」に連絡する
追加給付に関するお知らせでわからないことがあれば、「追加給付問合せ専用ダイヤル」に連絡しましょう。
- 労災保険追加給付問合せ専用ダイヤル:0120-952-824
- 雇用保険追加給付問合せ専用ダイヤル:0120-952-807※受付時間:平日8:30~20:00/土日祝8:30~17:15
引用:厚生労働省「労災保険の給付を受給していた皆様へ」
専用ダイヤルは午前中に混雑しやすく、午後につながりやすいようです。また、追加給付に関して都道府県労働局・ハローワーク(公共職業安定所)・労働基準監督署・全国健康保険協会・日本年金機構から直接電話が来ることはありません。
労災保険は労働者を保護する国の制度!対象外の方は「特別加入制度」を
厚生労働省が「毎月勤労統計調査」を不適切に取り扱っていたために、追加給付として調整が行われていますが、そもそも労災保険は労働者を手厚く保護する国の制度です。
労災保険は、正社員のみならずパート・アルバイトを含むすべての労働者が対象となります。
労働者とみなされていない法人役員・一人親方・家族従事者などは、労災保険の対象外です。しかし、一般労働者と同様に現場作業に携わる方は労働災害に遭うリスクがあるため、任意加入の「特別加入制度」が利用できます。
例えば、一人親方の場合は「一人親方団体労災センター」を通して、最短翌日に労災保険への特別加入が可能です。万一の労災事故に備えて、労災保険の特別加入制度を活用することをおすすめします。
まとめ
労災保険の追加給付について、給付金額の目安や受給する際の注意点をまとめました。「追加給付のお知らせ」と聞くと、詐欺ではないかと疑ってしまうかもしれません。そこで、文書が郵送されてきた場合は、照会番号の記載と返信先の住所を確認しましょう。
また、追加給付のお知らせが職員による訪問または電話で行われることはありません。金融機関の暗証番号を聞いてきたり、手数料の徴収やATMの操作を指示してきたりする場合は、詐欺であることが疑われるため注意してください。