労災保険の「休業(補償)給付」「障害(補償)給付」「遺族(補償)給付」などは、給付基礎日額をもとに給付金額を算出します。そこで疑問となるのは「そもそも給付基礎日額とは何?」「給付基礎日額はどうやって計算する?」などの点です。
本記事では、給付基礎日額の概要や計算方法をわかりやすく解説します。また一人親方など特別加入者の給付基礎日額についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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労災保険の給付基礎日額とは?
労災保険の「休業(補償)給付」「障害(補償)給付」「遺族(補償)給付」などは、被災労働者の給付基礎日額をもとに算出されます。例えば「休業(補償)給付」の場合、休業4日目から支給される1日あたりの給付金額は、給付基礎日額の80%(うち休業特別支給金20%)です。給付基礎日額は労災保険の給付金額を算出する重要な金額ですから、どのくらいの額になるかを知っておくと安心です。
ここでは、給付基礎日額の概要や計算方法を解説します。
原則として労働基準法の平均賃金に相当する額
「給付基礎日額」は、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額を指します。平均賃金は、原則としてその事由が発生した日の直前からさかのぼって3ヵ月間に支払われた賃金総額を、その期間の暦日数で割った1日あたりの賃金額です。
「事由が発生した日」とは、業務中または通勤途中に負傷や死亡の原因となった事故が発生した日、もしくは医師の診断で疾病の発生が確定した日のことです。なお賃金締切日が定められている場合は、事由が発生した日の直前の賃金締切日を起点とし、直前3ヵ月間に支払われた賃金総額をもとに給付基礎日額を算出します。
賃金に含まれるもの・含まれないもの
給付基礎日額を計算する際の賃金総額には、基本給のほかに以下の賃金すべてが含まれます。
- 通勤・家族・皆勤など各種手当
- 残業代
- 年次有給休暇の賃金
- 定期代や食事代の補助
残業代などは未払い分も含めて、定期代など6ヵ月ごとに支払われるものは1ヵ月ごとの計算に直して、賃金総額に含めます。いわゆる手取りではなく、これらすべての賃金を含め税金・保険料を控除しない賃金総額がベースとなります。
なお、以下の賃金は賃金総額に含まれません。
- 結婚手当や見舞金など臨時に支払われる賃金
- 年2回のボーナスなど3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(特別給与)
- 労働協約で定められていない現物給与
上記のうち特別給与に関しては、「算定基礎日額」として特別支給金を計算する際の基礎とします。算定基礎日額は、事由が発生した日以前の1年間に受け取った特別給与の総額を365で割った額です。
給付基礎日額の計算例
ここでは労災事故が2月に発生し、賃金締切日が毎月末日と仮定した場合の給付基礎日額の計算例をご紹介します。
【賃金が月20万円の場合】
- 20万円×3ヵ月÷92日(11月:30日、12月:31日、1月:31日)=6,522円(1円未満は切り上げ)
【賃金が月30万円の場合】
- 30万円×3ヵ月÷92日(11月:30日、12月:31日、1月:31日)=9,783円(1円未満は切り上げ)
労災保険の給付基礎日額に関する注意点
労災保険の給付金額を決める際の基礎となる給付基礎日額は、基本的に先述のように算出しますが、以下の理由から金額の変動もあるため注意が必要です。
- 年金など長期にわたる給付の場合、その後の賃金水準の変動が反映されないと公平性に欠ける
- 若年時に被災した場合と壮年時に被災した場合で給付金額に大きな格差が生じる
これらの不公平感を解消するため、労災保険の給付基礎日額には「スライド制」と「最低・最高限度額」が適用されます。
以下でそれぞれの概要を解説します。
給付基礎日額はスライド制が適用される
被災時期に関わらず公平な補償水準を保つために、労災保険の給付基礎日額には「スライド制」が適用されます。スライド制とは、被災日の属する年度の平均給与額と支給前年度の平均給与からスライド率を算出し、それに応じて給付金額が変動する仕組みです。
(参考)スライド率算定方法
令和3年8月以降の年金スライド率=
令和2年の平均給与額(4月から翌年3月の各月の合計額) ÷ 算定事由発生日の属する年度の平均給与額(4月から翌年3月の各月の合計額) × 100
引用:厚生労働省「スライド率等の改定に伴う労災年金額の変更について」
2021年(令和3年)8月以降の労災年金スライド率は、現役労働者の平均給与額の減少にともない、改定前と比較して0.81%減となっています。
算定事由発生日の属する期間 | スライド率 | 改定前のスライド率 |
昭和22年9月1日から昭和23年3月31日まで | 20,431.1 | (20,598.0) |
昭和23年4月1日から昭和24年3月31日まで | 7,429.8 | (7,490.5) |
昭和24年4月1日から昭和25年3月31日まで | 4,119.4 | (4,153.1) |
~ |
||
平成22年4月1日から平成23年3月31日まで | 100.6 | (101.5) |
平成23年4月1日から平成24年3月31日まで | 100.9 | (101.7) |
平成24年4月1日から平成25年3月31日まで | 101.5 | (102.4) |
平成25年4月1日から平成26年3月31日まで | 101.6 | (102.4) |
平成26年4月1日から平成27年3月31日まで | 101.0 | (101.9) |
平成27年4月1日から平成28年3月31日まで | 100.6 | (101.4) |
平成28年4月1日から平成29年3月31日まで | 100.4 | (101.2) |
平成29年4月1日から平成30年3月31日まで | 99.8 | (100.6) |
平成30年4月1日から平成31年3月31日まで | 99.3 | (100.1) |
平成31年4月1日から令和2年3月31日まで | 99.2 | (―) |
引用:厚生労働省「スライド率表」
給付基礎日額には最低・最高限度額がある
一般的に賃金水準の低い若年時に被災すると、壮年時に被災した労働者の労災年金額に比べて大きな差が生じると考えられます。そこで、年齢階層に応じて最低限度額・最高限度額を定め、公平性が保たれるよう調整されます。
2021年(令和3年)8月1日以降に適用される労災年金給付基礎日額の最低・最高限度額は以下のとおりです。
年齢階層の区分 | 最低限度額 | 最高限度額 |
20歳未満 | 4,941円 | 12,957円 |
20歳以上25歳未満 | 5,436円 | 12,957円 |
25歳以上30歳未満 | 6,049円 | 13,985円 |
30歳以上35歳未満 | 6,272円 | 16,696円 |
35歳以上40歳未満 | 6,693円 | 19,689円 |
40歳以上45歳未満 | 7,049円 | 21,505円 |
45歳以上50歳未満 | 7,096円 | 22,898円 |
50歳以上55歳未満 | 6,994円 | 25,189円 |
55歳以上60歳未満 | 6,570円 | 25,319円 |
60歳以上65歳未満 | 5,473円 | 21,022円 |
65歳以上70歳未満 | 3,940円 | 16,117円 |
70歳以上 | 3,940円 | 12,957円 |
引用:厚生労働省「年齢階層別の最低限度額・最高限度額表」
特別加入者の給付基礎日額について
労災保険は労働基準法が定める「労働者」を対象とする国の補償制度です。
労働基準法で「労働者」は以下のように定義されています。
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
引用:e-Gov「労働基準法第九条」
労災保険の対象となる労働者には正社員だけでなくアルバイト・パートなど非正規労働者も含まれ、労災発生時には保険給付の申請が可能です。ただし会社役員や一人親方など一般の労働者のように賃金を受け取っていない方は、自身で労災保険の特別加入制度を活用する必要があります。
例えば「一人親方団体労災センター」は全国規模で展開しており、簡単な手続きで加入証明書の即日発行も可能です。
ここでは、労災保険特別加入者の給付基礎日額や保険料について解説します。
一人親方の給付基礎日額は一般労働者と異なる
一人親方は、一般の労働者のように給付基礎日額算定の基礎となる賃金を受け取っていません。そこで、一般労働者とは異なる給付基礎日額が採用されます。
一人親方の場合、給付基礎日額は3,500~25,000円まで16段階に分かれていて、申込者自身の所得水準に合った適切な額を選択します。
一般的には、年収を365日で割った金額を給付基礎日額とできるでしょう。つまり、年収365万円の一人親方は、給付基礎日額を10,000円に設定できます。
給付基礎日額は給付金額と連動し、給付基礎日額が多ければ「休業(補償)給付」「障害(補償)給付」「遺族(補償)給付」などで受給できる補償も多くなります。ただし、その分保険料も高くなるため、適正な給付基礎日額を選択することは重要です。
一人親方の給付基礎日額と保険料
前述のとおり、一人親方は自身の所得に合わせて、3,500~25,000円の16段階から給付基礎日額を選択します。
年間保険料は、保険料算定基礎額(給付基礎日額×365日)に保険料率をかけて計算します。建設事業の一人親方の場合、保険料率は18/1000です。
これを踏まえて、一人親方の給付基礎日額と保険料を以下の表にまとめます。
給付基礎日額 | 保険料算定基礎額 | 年間保険料 |
3,500円 | 1,277,500円 | 22,986円 |
4,000円 | 1,460,000円 | 26,280円 |
5,000円 | 1,825,000円 | 32,850円 |
6,000円 | 2,190,000円 | 39,420円 |
7,000円 | 2,555,000円 | 45,990円 |
8,000円 | 2,920,000円 | 52,560円 |
9,000円 | 3,285,000円 | 59,130円 |
10,000円 | 3,650,000円 | 65,700円 |
12,000円 | 4,380,000円 | 78,840円 |
14,000円 | 5,110,000円 | 91,980円 |
16,000円 | 5,840,000円 | 105,120円 |
18,000円 | 6,570,000円 | 118,260円 |
20,000円 | 7,300,000円 | 131,400円 |
22,000円 | 8,030,000円 | 144,540円 |
24,000円 | 8,760,000円 | 157,680円 |
25,000円 | 9,125,000円 | 164,250円 |
引用:一人親方団体労災センター「一人親方労災保険の費用について」
上記の年間保険料に加えて、入会金や組合費がかかります。なお「一人親方団体労災センター」の場合、初年度の入会金1,000円と1年あたりの組合費6,000円(1ヵ月500円)の少ない負担で特別加入が可能です。
まとめ
労災保険の給付金額は、被災労働者の給付基礎日額をもとに算出します。労働災害が発生して労災保険の給付を受ける際、被災労働者ご自身やご家族の方は給付基礎日額を知っておくと安心です。
また年金受給をされる場合、スライド制や最低・最高限度額に注意する必要もあるでしょう。労災保険の対象外となる一人親方は、「一人親方団体労災センター」など特別加入団体を通して労災保険に申し込むことで保険給付が受けられます。