一人親方などの自営業者は労災保険の対象外となります。しかし労災保険の「特別加入制度」を活用すれば、労災事故の際に補償が受けられるでしょう。
自営業者の中には家族と現場に出る方や従業員を雇う方もいらっしゃるでしょう。そこで本記事では、自営業者が特別加入できる労災保険の活用法をケース別に解説します。
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自営業者が加入できる労災保険とは
会社員が仕事中や通勤中の事故でケガをすると、労災保険が適用されます。労災保険は労働災害による負傷に対して適用されるだけでなく、疾病・障害・死亡の際にも必要な保険給付を行い、労働者やその家族の福祉に寄与することを目的としています。
しかし、建設業の一人親方など自営業者(個人事業主)の場合、労災保険が適用されないため注意が必要です。自営業者が労災保険から補償を受けるには、労災保険への特別加入制度を活用する必要があります。
ここでは、自営業者が加入できる労災保険について順を追ってわかりやすく解説します。
【基本情報】自営業者は労災保険の対象外
労災保険は労働者を対象とした国の制度で、その概要を厚生労働省は以下のように説明しています。
労災保険は、労働者災害補償保険法に基づき、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするために保険給付を行い、併せて被災労働者の社会復帰の促進、被災労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図ることにより、労働者の福祉の増進に寄与することを目的としています。
引用:厚生労働省「労災保険制度の概要について教えてください。」
ここで注意しなければならないのは、労働基準法における「労働者」の定義です。労働基準法の第9条によると、「労働者」とは「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」のことです。
つまり、独立して業務を請け負う自営業者は労働基準法により定められる「労働者」に該当せず、労災保険の対象外であることがわかります。
自営業者は労災保険の特別加入制度を活用できる!
自営業者は労災保険の対象外ですが、労災保険の「特別加入制度」の活用は可能です。
厚生労働省によると「特別加入制度」とは、「労働者以外の方のうち、業務の実態や、災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしいと見なされる人に、一定の要件の下に労災保険に特別に加入することを認めている制度」のことです。
建設業の一人親方などの自営業者は自ら業務に携わり、一般の労働者と同様に傷病のリスクを抱えて働くことになります。そこで、労働者に準じて保護することを目的として、以下の範囲で労災保険の特別加入が可能になりました。
- 中小事業主等
- 一人親方等
- 特定作業従事者
- 海外派遣者
なお労災保険は強制加入の制度ですが、自営業者が活用できる特別加入は任意です。
自営業者が労災保険に特別加入するメリット
自営業者は、任意で労災保険に特別加入できます。自営業者が労災保険に特別加入するメリットには以下のようなものがあります。
- 労働災害時に手厚い補償が受けられる
労災保険の特別加入者が業務上のケガや病気にあうと、治療費は全額保険負担になります。
また、休業中の補償、障害が残った場合の障害補償、死亡した場合は遺族に対して保険給付がなされるなど、一般労働者と同様の手厚い補償が受けられます。 - 建設現場の入場制限がなくなる
建設現場ではケガや病気のリスクが高いことから、労災保険への特別加入が現場に入る必須条件であるケースが増えています。
労災保険に特別加入していると、加入証明書の提示で現場の入場制限がなくなり安心です。
【ケース別】労災保険特別加入制度の活用法
自営業者の中には、家族も一緒に現場に出ている方もいらっしゃることでしょう。また、請け負う業務の規模に応じて一時的に従業員を雇う自営業者もいらっしゃるかもしれません。
ここでは、労災保険特別加入制度の活用法を、ケース別に解説します。
1人で自営業の場合
1人で自営業をする方は、「一人親方」として労災保険に特別加入します。
建設業の一人親方の場合、職種に制限は特になく、土木工事・左官工事・解体工事など工作物の建設・修理・破壊などに従事する方が対象です。
全くの個人で仕事を請け負う方だけでなく、会社に所属しながらも請負で仕事を行っている方も、一人親方に該当します。また友人などとグループで仕事をしているケースでも、互いに雇用関係がなければそれぞれが一人親方として扱われます。
なお繁忙期限定でアルバイトなどの従業員を雇う場合も、年間のアルバイト使用日数が延べ100日未満であれば、一人親方として特別加入が可能です。
一緒に働く同居の家族がいる場合
自営業者の中には、息子など同居の家族と一緒に現場に出る方も少なくありません。一人親方労災保険は加入者のみに適用されるため、同居の家族を使用する際は注意が必要です。
ここでは、一緒に働く同居の家族がいる場合どのように特別加入制度を活用できるか解説します。
【原則】「一人親方」として特別加入する
同居の家族が事業主と一緒に働く場合、家族は「家族従事者」として一人親方労災保険に特別加入できます。この場合、同居の家族以外に常時(年間延べ100日以上)使用する従業員がいないことが条件です。
家族従事者はそれぞれが「一人親方」として労災保険に特別加入し、労働災害が発生した場合は、加入時に各自で設定した給付基礎日額に応じて保険給付が受けられます。
なお、労災病院で治療を受ける際は給付基礎日額にかかわりなく、かかった費用が全額支給されます。
労災保険の対象者として認められるケースもある
労災保険では、基本的に事業主と同居している家族は「労働者」として扱われません。しかし、自営業者と同居している家族従事者でも、以下の要件を満たす場合は労災保険の対象者として認められます。
- 同居している家族従事者のほかに一般従業員を雇っている
- 就労実態や労働時間、賃金の支払い方法が他の従業員と同様である
- 家族従事者も他の従業員と同様に自営業者の指揮命令に従っている
家族従事者の労災対策として、上記の要件を満たすような雇用形態にするか、家族従事者それぞれを「一人親方」として特別加入させておくことは重要です。
従業員を雇っている自営業者の場合
自営業者が年間延べ100日以上使用する従業員を1人でも雇うと、「一人親方」の定義から外れます。
この場合、一人親方労災保険に特別加入している自営業者は、「中小事業主等」に切り替えることで労災保険に特別加入できるでしょう。
また従業員を1人でも雇うと、自営業者は従業員に対して労災保険の加入手続きを行うことが義務付けられます。労災保険は強制加入となり、雇用契約を結んだ日から有効です。
加入手続きを怠っている間に労働災害が発生すると、未加入期間の労災保険料がさかのぼって徴収されるほか、追徴金や保険給付に要した費用の一部または全部も徴収されるケースがあるため注意しましょう。
自営業者の一人親方の保険加入手続き方法と注意点
労災保険の特別加入は任意であり、加入を希望する自営業者は自ら手続きを行う必要があります。
ここでは、自営業者が一人親方労災保険に加入する手続き方法と注意点をまとめます。
一人親方労災保険の加入手続き方法
一人親方労災保険に特別加入するには、一人親方労災保険の特別加入団体を新たに立ち上げて加入する方法と、すでに特別加入団体として都道府県労働局長から認可されている組合を通じて加入申請する方法があります。
これは特別加入団体を事業主、構成員である一人親方を労働者とみなして、労災保険を適用する仕組みです。
例えば「一人親方団体労災センター」は、多くの一人親方が安心して労災保険に特別加入できるようサポートする、労働局承認の特別加入団体のひとつです。
「明日までに労災保険の加入が必要」「下請けの一人親方を労災に加入させたい」「労災保険料を一括で支払うのは厳しい」などの労災保険の特別加入に関するお悩みは、「一人親方団体労災センター」までお気軽にご相談ください。
特別加入の際の注意点
一人親方労災保険の加入手続きをするにあたり、「労災保険料は経費になる?」「健康診断は必要?」などの疑問を抱く自営業者は少なくありません。
ここでは、自営業者が労災保険に特別加入する際の注意点として、以下の2つのポイントを解説します。
自営業者の一人親方労災保険料は経費にはならない
一般的に労災保険料は「法定福利費」に分類して経費計上しますが、特別加入の場合の労災保険は経費にならないため注意が必要です。
一人親方の労災保険料は「事業主貸」、組合費は「諸経費」として処理します。労災保険料は経費として計上されませんが、確定申告時は社会保険料控除の対象になります。
なお一人親方の家族従事者や法人の代表取締役の場合は、経費として計上可能です。この場合の労災保険料は「法定福利費」、組合費は「諸経費」として処理します。
自営業者は特別加入時に健康診断が必要な場合もある
自営業者が特別加入の手続きを行う際に、健康診断が必要な場合もあります。これは、加入時にすでに疾病を患っていないか確認するためです。
加入時健康診断が必要なのは、以下のケースです。
特別加入予定者の業務の種類 | 特別加入前に先の業務に従事した期間(通算期間) | 必要な健康診断 |
粉じん作業を行う業務 | 3年以上 | じん肺健康診断 |
振動工具使用の業務 | 1年以上 | 振動障害健康診断 |
鉛業務 | 6ヵ月以上 | 鉛中毒健康診断 |
有機溶剤業務 | 6ヵ月以上 | 有機溶剤中毒健康診断 |
引用:厚生労働省「特別加入制度のしおり」
なお、健康診断を受けるために支払う交通費は自己負担ですが、健康診断の費用は国が負担します。
また健康診断の結果次第では、特別加入が制限される場合や保険給付が受けられない場合もあります。
まとめ
自営業者の場合の労災保険特別加入制度についてまとめました。
建設業の一人親方など、自営業の方は労災保険の対象外となりますが、特別加入制度の活用はできます。同居の家族従事者も含めて一人親方労災保険に加入していると、労災事故発生時も手厚い補償が受けられ安心です。
また1人でも従業員を雇う場合は、「一人親方」から「中小事業主等」に切り替えて特別加入する必要が生じます。その際は、同居している家族従事者が労災保険の対象要件を満たしているか確認し、業務に携わる人すべてが労災保険に加入できるよう注意を払いましょう。
一人親方労災保険についてわからないことがありましたら、「一人親方団体労災センター」までお気軽にお問い合わせください。