一人親方労災保険の「労災センター通信」

労災の障害補償給付とは?等級ごとの支給額や手続きの方法を徹底解説

 労災事故による傷病の治療を受けたものの、身体に一定の障害が残った場合は障害等級に応じて「障害補償給付」が支給されます。そこで気になるのは、実際にいくら支給されるのか。
 本記事では、障害補償給付の種類と支給額を、等級ごとにわかりやすくまとめています。また、手続きの方法や必要書類、障害認定に不服がある場合の対処法についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
労災保険の障害補償給付

労災の障害補償給付とは

 労災の「障害補償給付」とは、業務上のケガや病気の治療を受けたものの、一定の障害が残った際に支給される保険給付です。後遺障害の内容や程度に応じて障害等級が認定され、それに基づいて「障害補償年金」および「障害補償一時金」が支給される仕組みです。
 なお、通勤中のケガや病気に関しても同様の給付が受けられ、これを「障害給付」と呼びます。ここでは、障害補償給付の認定申請をするまでの一般的な流れや、障害等級・認定基準について解説します。

障害補償給付認定申請までの流れ

 労働災害が発生し、障害補償給付の認定申請を行うまでの一般的な流れは以下のとおりです。

  1. 医療機関を受診する
     労働災害により傷病を負った被災労働者は、医療機関を受診します。療養補償給付により自己負担なしで治療を受けられ、療養のために仕事ができない期間に関しては休業補償給付の受給が可能です。
  2. 療養開始後1年6ヵ月が経過する
     症状固定(治ゆ)せずに1年6ヵ月が経過し症状が重篤の場合、労働基準監督署の職権により休業補償給付から傷病補償年金に切り替えられます。
  3. 症状固定(治ゆ)後に一定の障害が残る
     治療やリハビリを継続しても医療効果が期待できない状態になると、医師から症状固定(治ゆ)の診断を受け、療養補償給付は打ち切られます。この時点で一定の障害が残っていると、障害補償給付の受給が可能です。
  4. 障害補償給付の認定申請を行う
     業務災害の場合は「障害補償給付支給申請書」、通勤災害の場合は「障害給付支給申請書」を労働基準監督署に提出します。障害等級の認定に応じて障害補償給付が支給されます。

障害等級と認定基準

 労災保険の後遺障害は1~14級の等級に分けられ、障害等級に応じて保険給付が行われます。障害等級第1級が最も重く、第14級が最も軽い障害で、具体的な身体障害は以下のとおりです。
【第1級】

  1. 両眼が失明したもの
  2. そしやく及び言語の機能を廃したもの
  3. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
  4. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
  5. 両上肢をひじ関節以上で失つたもの
  6. 両上肢の用を全廃したもの
  7. 両下肢をひざ関節以上で失つたもの
  8. 両下肢の用を全廃したもの

【第14級】

  1. 一眼のまぶたの一部に欠損を残し、又はまつげはげを残すもの
  2. 三歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
  3. 一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの
  4. 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
  5. 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
  6. 一手の母指以外の手指の指骨の一部を失つたもの
  7. 一手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの
  8. 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの
  9. 局部に神経症状を残すもの

 参考:厚生労働省「障害等級表」

 認定の基準として、障害等級の判断は労働基準監督署長が医師の作成した診断書の内容に基づいて決定します。2つ以上の後遺障害が残った場合は、重い方の等級をとる「併合」や重い方の等級を1~3つ上の級に繰り上げる「併合繰り上げ」が行われるケースもあります。

【早見表】障害補償給付の種類と支給額

 障害補償給付は、障害等級に応じて「障害補償年金」「障害補償一時金」の2つに分けられます。また、一時的にまとまった資金が必要な場合に年金の前払いを受けられる「前払一時金」や、受給権者の死亡時、既に支給された額が一定の額に満たない場合に支給される「差額一時金」の制度もあります。
 障害補償給付の種類と支給額を、表にして以下にまとめました。

障害補償年金

 「障害補償年金」は、障害等級第1級から第7級に該当する場合に支給されます。また、障害特別支給金と障害特別年金が社会復帰促進等事業から支給されます。

障害等級 障害補償給付(年金) 障害特別支給金(一時金) 障害特別年金(年金)
第1級 給付基礎日額の313日分 342万円 算定基礎日額の313日分
第2級 給付基礎日額の277日分 320万円 算定基礎日額の277日分
第3級 給付基礎日額の245日分 300万円 算定基礎日額の245日分
第4級 給付基礎日額の213日分 264万円 算定基礎日額の213日分
第5級 給付基礎日額の184日分 225万円 算定基礎日額の184日分
第6級 給付基礎日額の156日分 192万円 算定基礎日額の156日分
第7級 給付基礎日額の131日分 159万円 算定基礎日額の131日分

 参考:厚生労働省「障害(補償)等給付の請求手続」

障害補償一時金

 「障害補償一時金」は、障害等級第8級から第14級に該当する場合に支給されます。また、障害特別支給金と障害特別一時金が社会復帰促進等事業から支給されます。

障害等級 障害補償給付(一時金) 障害特別支給金(一時金) 障害特別一時金(一時金)
第8級 給付基礎日額の503日分 65万円 算定基礎日額の503日分
第9級 給付基礎日額の391日分 50万円 算定基礎日額の391日分
第10級 給付基礎日額の302日分 39万円 算定基礎日額の302日分
第11級 給付基礎日額の223日分 29万円 算定基礎日額の223日分
第12級 給付基礎日額の159日分 20万円 算定基礎日額の159日分
第13級 給付基礎日額の101日分 14万円 算定基礎日額の101日分
第14級 給付基礎日額の56日分 8万円 算定基礎日額の56日分

 参考:厚生労働省「障害(補償)等給付の請求手続」

障害補償年金前払一時金

 「障害補償年金前払一時金」は、傷病の症状固定(治ゆ)後に社会復帰などを行うにあたり一時的にまとまった資金を必要とするケースが多いことを考慮し、一定額を限度として1回限り前払いする制度です。
 前払一時金の額は、障害等級に応じて定められている額から希望するものを選択できます。

障害等級 前払一時金の額
第1級 給付基礎日額の200・400・600・800・1,000・1,200または1,340日分
第2級 給付基礎日額の200・400・600・800・1,000または1,190日分
第3級 給付基礎日額の200・400・600・800・1,000または1,050日分
第4級 給付基礎日額の200・400・600・800または920日分
第5級 給付基礎日額の200・400・600または790日分
第6級 給付基礎日額の200・400・600または670日分
第7級 給付基礎日額の200・400または560日分

 参考:厚生労働省「障害(補償)等給付の請求手続」

障害補償年金差額一時金

 「障害補償年金差額一時金」は、障害補償年金の受給権者が死亡した際、既に支給された額が障害等級に応じて定められている一定額に満たない場合に遺族に対して支給されます。
 支給を受けられる遺族は①②の順序、および記載順になります。

  1. 被災労働者の死亡当時、生計を同じくしていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹
  2. 1に該当しない配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹

 年金差額一時金は、下図の一定額から既に支給された額を差し引いた額が支給されます。

障害等級 障害補償年金差額一時金 障害特別年金差額一時金
第1級 給付基礎日額の1,340日分 算定基礎日額の1,340日分
第2級 給付基礎日額の1,190日分 算定基礎日額の1,190日分
第3級 給付基礎日額の1,050日分 算定基礎日額の1,050日分
第4級 給付基礎日額の920日分 算定基礎日額の920日分
第5級 給付基礎日額の790日分 算定基礎日額の790日分
第6級 給付基礎日額の670日分 算定基礎日額の670日分
第7級 給付基礎日額の560日分 算定基礎日額の560日分

 参考:厚生労働省「障害(補償)等給付の請求手続」

労災の障害補償給付の手続きと必要書類

労災申請の必要書類
 労災の障害補償給付を請求する際は、「障害補償給付・複数事業労働者障害給付支給請求書(様式第10号)」または「障害給付支給請求書(様式第16号の7)」を所轄の労働基準監督署へ提出します。
 また診断書料を請求する場合は、「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(様式第7号)」または「療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)」の提出が必要です。
 上記の書類に加えて、必要に応じてレントゲン写真などの資料や、障害厚生年金・障害基礎年金などの支給を受けている場合は支給額を証明する書類を添付します。
 なお、傷病の症状固定(治ゆ)が確定した日の翌日から5年を経過すると時効となるため注意が必要です。

障害認定の結果に不服がある場合

 障害年金請求の結果、障害認定されず不支給決定になったり、予想より下の障害等級に認定されたりすることがあります。納得できない場合、社会保険審査官へ異議申し立て(審査請求)ができます。審査請求の期限は、支給決定通知から3ヵ月以内です。
 また、審査請求の決定に不服の場合は、2ヵ月以内に社会保険審査会に対して再審査請求を行うことも可能です。ただし審査結果を覆すのは容易ではなく、後遺障害の程度を医学的に正しく証明する必要があります。

一人親方が労災の障害補償給付を受けるには

 一人親方など個人事業主の場合は労働基準法の「労働者」に該当しないため、労災事故で後遺障害が残ってしまった場合も障害補償給付を受けられません。
 しかし、労災保険の対象外となる方にも一般の労働者と同様にケガや病気のリスクがあることを考慮し、任意で労災保険に特別加入できる制度があります。一人親方の場合は、特別加入団体をとおして加入手続きを行うことで、労災発生時には必要な保険給付が受けられ安心です。
 「一人親方団体労災センター」は、多くの一人親方が労災保険に特別加入できるよう全国規模で事業を展開しています。労災保険の特別加入制度に関するご相談は、「一人親方団体労災センター」までお問い合わせください。

まとめ

 労災の障害補償給付の種類と支給額を、障害等級ごとにまとめました。
 万が一の労災発生により、症状固定(治ゆ)後に一定の障害が残った場合も、労災保険から手厚い補償が受けられ安心です。ただし障害等級に応じて支給内容や金額が大きく異なるため、医師の協力のもと各等級の認定基準に当てはまる障害があることを的確に証明する必要があります。
 また労災保険の対象外である一人親方も、特別加入制度を活用することで最悪の事態に備えることが可能です。

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