鉄筋工は、建物の強度を左右する大きな責任とやりがいを併せ持つ職種です。職人のなかには「このまま会社員で終わるのは嫌だ」「将来は独立して年収アップを目指したい」と考える方もいらっしゃるでしょう。
そこで本記事では、鉄筋工で独立するために必要な3つのポイントをまとめました。独立するメリットや注意点も解説しますので、ぜひ最後までお読みください。
Contents
鉄筋工で独立するには?3つのポイント
建物の見えない部分に携わる鉄筋工事は、躯体の強度つまり安全性にもかかわる大きな責任が伴いますが、同時にやりがいのある仕事です。自ら作り上げた大きな建物の骨格が、暮らしに密接にかかわる公共施設や商業施設などに仕上がるのを見ると、「社会や人の暮らしを支えている」と実感できるでしょう。
鉄筋工のなかには、独立して安定した生活を手に入れたいと考える方もいます。ここでは、鉄筋工で独立するのに必要な3つのポイントをまとめます。
鉄筋工事会社で経験を積む
鉄筋工で独立する前に、鉄筋工事会社で経験を積むことは大切なポイントです。
鉄筋工事は高い技術力と精度が求められる仕事で、建物に応じて適した設計や鉄筋の加工・組み立てが必要です。鉄筋工事会社で経験とスキルを積み、見栄えのよさとスピードを両立させた施工ができるようになってはじめて、一人前の職人だといえます。その頃には、周囲からも「独立してみないか?」と声をかけられることでしょう。
それまでの間は、鉄筋工事会社の社員として働きながら、スキルや資金を充実させることに努めましょう。複雑な設計で曲がった鉄筋を多く使う難易度の高い現場や、工期の遅れなどさまざまなトラブルを経験することで、将来の独立に活かせると期待できます。
独立に必要な資格や許可を取得する
鉄筋工で独立するにあたり、資格や許可は自身のスキルを証明するために重要なポイントです。
鉄筋工として仕事をはじめるのに資格は不要ですが、キャリアアップには資格の取得が有効です。以下で、独立前に取得しておきたい資格や許可をまとめます。
- 玉掛け技能講習
玉掛け作業を行うには、「玉掛け技能講習終了」と呼ばれる国家資格が必要です。鉄筋工事では、さまざまに加工された鉄筋を取り扱い、ビルやマンションのような高所へクレーンを使って荷揚げします。重量のある鉄筋をワイヤーロープで吊り上げるには、安全性を確保するために資格取得が必須です。 - 鉄筋施工技能士
国家検定制度である技能検定のひとつで、鉄筋施工図作成作業(1・2級)と鉄筋組立作業(1~3級)に分かれています。技能検定は各都道府県の職業能力開発協会が実施し、筆記試験と実技試験に合格することで資格取得が可能です。公共工事などで1級鉄筋施工技能士の有資格者が常駐することを義務付けるケースもあり、ニーズの高い資格であることが分かります。 - 登録鉄筋基幹技能者
上級職長に位置づけられる資格で、国土交通大臣の登録機関が実施する登録鉄筋基幹技能者講習を受講することで取得できます。現場をまとめて効率的に作業を進めるマネジメント能力を証明できる資格で、受講には10年以上の実務経験や1級鉄筋施工技能士の資格を取得しているなど要件が厳しいのが特徴です。
有効期限は5年間で、1日間の更新講習を受講することで修了証の更新が可能です。 - CCUSの能力評価
国土交通省が主導するCCUS(建設キャリアアップシステム)の能力評価も活用できます。鉄筋技能者の能力評価は全国鉄筋工事業協会が実施し、就業日数・保有資格などに応じて4段階のレベルに分かれています。各レベルの詳細は、以下のとおりです。
レベル | 就業日数 | 保有資格 | 職長・班長経験 |
レベル4 | 10年(2,150日) |
|
職長としての就業日数が3年(645日) |
レベル3 | 7年(1,505日) |
|
職長または班長としての就業日数が3年(645日) |
レベル2 | 3年(645日) |
|
不要 |
レベル1 | 建設キャリアアップシステムに技能者登録され、レベル2~4までの判定を受けていない技能者 |
参考:国土交通省「能力評価基準【鉄筋】」
- 建設業許可
500万円以上の請負工事を行うには、建設業許可(鉄筋工事業)の取得が必要です。建設業許可の取得には、経営業務管理責任者・専任技術者がいることや財産的基礎要件を満たしていることなど、一定の要件をクリアしなければなりません。建設業許可は軽微な工事では不要ですが、事業を拡大して大規模工事を請け負う予定がある場合は、取得も視野に入れておきましょう。
独立資金を準備する
鉄筋工で独立するには、独立資金を用意する必要があります。独立時に必要なものとして、以下のようなものが挙げられます。
- 道具・機械類
鉄筋を加工・切断・縛る機械や、結束線・ハッカーなども自分で用意しなければなりません。今まで会社が支給してくれていた道具・機械類をすべて揃える場合、数百万円ほどのまとまった金額が必要になると考えられます。 - 事務所・資材置き場
事務所や資材置き場を借りる資金も必要です。一人親方の場合、事務所を持たずに事業を行うことも可能ですが、事務所は会社の信頼にもつながるため大切なポイントのひとつでもあります。 - 車両
資材を運搬したり現場間の移動をしたりするのに使用する車両も必要です。新たに車両を調達する場合は、数百万円のまとまった金額を用意しなければなりません。 - 従業員を雇用する費用
従業員を雇用する場合は、一般的に2~3ヶ月分の給料を資金として取り分けておく必要があります。外国人実習生を雇い入れるケースでは、寮としてアパートを借りるなど受け入れ態勢を整える費用が発生します。
鉄筋工で独立するメリット
鉄筋工で独立するメリットとして、大きく以下の2つが挙げられます。
- 仕事の需要がある
- 年収アップが狙える
ここでは、それぞれのメリットを詳しく解説します。
仕事の需要がある
鉄筋工で独立するメリットのひとつは、仕事の需要があることです。
鉄筋工事は、ビル・橋・トンネル・高速道路・地下鉄などの建設に必須で、公共工事も多く仕事の需要があるのが特徴です。建設物の点検保守も仕事のうちで、老朽化による作り直しなども含めると、仕事に困ることはないと考えられます。
建設業で独立して一番困るのが、「仕事がなくなる」ことです。独立直後は会社員時代の人脈を活かして、一定量の仕事を回してもらえるかもしれません。しかし人脈だけに頼っていると、突然仕事が打ち切られる可能性もあるため注意が必要です。
この点で、仕事の需要がある鉄筋工事は、独立してからも自分自身の営業次第で安定した仕事量を得られやすいと期待できます。
年収アップが狙える
鉄筋工で独立するメリットとして、年収アップを狙えることも挙げられます。
鉄筋工の平均年収は、400万円前後だといわれています。これに対して、鉄筋工で独立した職人のなかには800~1,000万円を稼ぐ方もおり、頑張りが数字に表れるのが魅力です。「スキルアップしているのになかなか昇給しない」「仕事量のわりに年収は低い」と考えている方にとって、独立による年収アップは大きなメリットでしょう。
独立して請負で働く一人親方は、自分で仕事量の調整も自由に行えます。繁忙期に複数の案件をこなして稼ぎ、閑散期はゆっくりと過ごす方もいます。年収アップだけでなく、仕事量を調整してワークライフバランスを重視した働き方も可能です。
鉄筋工で独立する際の注意点
鉄筋工で独立するにあたり、以下のような注意点もあります。
- 鉄筋工事業のデメリットを理解する必要性
- 労災事故への備えの重要性
それぞれの注意点を詳しく解説します。
鉄筋工事業のデメリットを理解する必要性
鉄筋工で独立する際の注意点として、鉄筋工事業のデメリットを理解する必要性が挙げられます。
鉄筋工事は基本的に体力を必要とする仕事で、重量のある鉄筋を人手で運搬することも。若いうちは問題なくても、年とともに体力を必要とする作業が負担になることが考えられます。経営者を目指すなど、将来を考えた事業展開を検討する必要があるでしょう。
鉄筋工事業はインフラ関係の仕事が多く、元請として新規参戦するのは難しいのもデメリットのひとつです。また公共工事が多く、自宅近くの工事ばかりではありません。泊りでの出張が多くなるケースも視野に入れておく必要があります。
独立後は、現場作業に加えて営業や会計などの業務も自分で行わなければなりません。黙々と働く職人気質の方にとって苦手な分野かもしれませんが、アウトソーシングを活用したり家族に手伝ってもらったりしている方も多くいます。
労災事故への備えの重要性
鉄筋工で独立する際の注意点として、労災事故への備えの重要性も挙げられます。
独立すると労災事故の責任はすべて自分に降りかかってきます。会社を設立する場合は、従業員の労災保険加入義務が生じるため、忘れずに手続きをしましょう。
また、役員や家族従事者は労災保険の対象外になるため、特別加入制度を活用するのが一般的です。一人親方として独立する場合は、一人親方労災保険の加入手続きを行いましょう。一人親方労災保険は、特別加入団体をとおして加入でき、万が一の労災事故の際は一般の労働者と同様の補償が受けられます。
近年では働き方改革や労働者の権利を守るために、労災保険や社会保険未加入者を現場に入れないようにする取り組みが行われています。一人親方労災保険についてのご相談は、特別加入団体の「一人親方団体労災センター」までお気軽にお問い合わせください。
まとめ
鉄筋工で独立するのに必要な3つのポイントは、以下のとおりです。
- 鉄筋工事会社で経験を積む
- 独立に必要な資格や許可を取得する
- 独立資金を準備する
鉄筋工事業は仕事の需要があり、高単価の案件を獲得することで年収アップを狙えるのがメリットです。仕事量を自分で調整して、ワークライフバランスを重視した働き方をする方もいます。
ただし、体力を必要とする作業が多いことや営業・会計などの業務も行わなければならないなど、デメリットも理解したうえで独立を検討しましょう。また請負で働く一人親方は労災保険が適用されないため、特別加入制度を活用して万が一の労災事故に備えることも大切なポイントです。