労働者が業務中もしくは通勤中にケガをしたり病気になったりした場合、労災認定されるためには基準をクリアしていなければなりません。
労災認定された場合は療養補償や休業補償など手厚い補償を受けられるようになるため、認定基準にはどのようなものがあるのかを詳しく確認しておくとよいでしょう。
本記事では、2021年に改正された脳・心疾患の労災認定基準、2023年に改正された精神障害の労災認定基準についてもご紹介しています。
具体的にどのような点が変更になったのかをチェックし、参考にしてください。
Contents
労災とは?
労災とは「労働災害」のことで、労働者が業務中もしくは通勤中にケガをしたり病気になったり死亡したりすることをいいます。
労災保険に加入していれば労災が発生した際にさまざまな補償を受けられるため、対象範囲や認定基準などを詳しく確認しておきましょう。
労災の対象範囲
労災は、原則としてすべての労働者が対象範囲になります。正社員はもちろんのこと、契約社員やパートタイム労働者・アルバイト・日雇い労働者など、使用者に雇用されて賃金を受け取って働いている人は、雇用形態にかかわらず「すべての労働者」に含まれます。
使用者との従属関係がない中小企業事業主や中小企業の役員・一人親方などは「労働者」に該当しないため、労災保険の適用対象ではありません。
しかし、特に建設現場で働く一人親方などは労災事故に遭うリスクが高いため、一般的な労働者と同程度の補償を受けられるようにしておくと安心です。
特別加入制度を利用することで労災保険に加入できるので、特別加入団体を経由して手続きを行いましょう。
労災の認定基準
労働者のケガや病気が「労災」と認定されるには「業務中に起きた事故であるか」「原因が仕事にあるか」の2点が重要なポイントになります。
ここでいう「業務中」とは就業中に限らず、始業前や始業後・休憩中や、出張の移動中といった時間も含まれます。つまり、使用者の支配下・管理下にある状態で起きた災害であると認められた場合、労災認定される可能性が高くなるでしょう。
ケガの場合は比較的労災認定されやすいのですが、病気の場合は発症時期や発症原因を明確にすることが難しいため、認定を受けることが難しくなります。
特に精神疾患は発症原因を特定しにくく、労災基準が別に定められているので確認が必要です。
労災認定された場合の補償内容
ケガや病気が労災認定された場合に受けられる補償内容には、以下のようなものがあります。
- 療養補償:療養を必要とする場合に行われる給付。医療機関を受診した場合の治療費や薬代など。
- 休業補償:業務中または通勤中のケガや病気により休業し、収入を得られなくなった場合に行われる給付。
- 障害補償:傷病が完治せず一定の障害が残った場合に行われる給付。障害等級に応じて支給金額が決まる。
- 遺族補償:労働者が労災により死亡した場合に遺族に対して行われる給付。年金と一時金の2種類がある。
- 葬祭料:葬祭を行ったものに対して行われる給付。
- 介護補償:介護を必要とする場合に行われる給付。常時介護の場合と随時介護の場合で支給金額が変わる。
脳・心臓疾患の労災認定基準改正について
心筋梗塞などの心疾患や脳梗塞などの脳血管疾患は、加齢や食生活・生活環境などが原因で発症することの多い疾病ですが、仕事が原因で起こることもあります。
業務により大きな負荷を受けたことが原因で脳・心臓疾患を発症した場合は、業務上の疾病として労災の適用対象になる可能性があります。
働き方の多様化や職場環境の変化に応じて2021年9月に脳・心臓疾患の労災認定基準が改正され、以下の4点が変更されました。ここでは、厚生労働省が発表した改正点のポイントについて、解説していきます。
出典:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント」
「労働時間以外の負荷要因」も判断基準にプラスされた
脳・心臓疾患の労災認定基準の一つに「業務による明らかな過重負荷が原因で発症したこと」とありますが、2021年の改正では、過重業務の評価にあたって「労働時間以外の負荷要因」も判断基準にプラスされました。
以前までは「脳・心臓疾患の発症が仕事によるもの」と判断されるためには、発症前1ヶ月間に100時間、または発症前2~6か月間にわたって1ヶ月の時間外労働が80時間を超えている必要がありました。
改正後は上記の時間に至らなくても、これに近い時間外労働が認められる場合には、労働時間以外の負荷要因も含めて総合的に判断されます。
期間や労働時間以外の負荷要因が見直された
あわせて「労働時間以外の負荷要因」についても見直しが行われました。
改正前は「労働時間の不規則性」について「拘束時間の長い勤務」と「不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務」の2点がありましたが、改正後は「休日のない連続勤務」「勤務間インターバルが短い勤務」の2項目が追加されました。
また「事業場外における移動を伴う業務」については「出張の多い業務」のほかに「その他事業場外における移動を伴う業務」が追加され、移動による疲労の回復状況も踏まえて評価されるよう変更になっています。
さらに、改正前の「精神的緊張を伴う業務」の内容が拡充されて「心理的負荷を伴う業務」が加わり、このほか新たに「身体的負荷を伴う業務」の項目が追加されました。
発症との関連性が強い業務が明確化された
発症との関連性が強い業務が明確化され「短期間の過重労働」と「異常な出来事の業務」について具体例が示されました。
まず「短期間の過重労働」については「発症から前日までの間の業務が過度の長期間労働であったか」がポイントになります。
そうでない場合でも、発症前1週間の間に過度の長時間労働が認められるようであれば、発症との関連性が強いとされる可能性があります。
さらに、発症に関連づけられる可能性のある「異常な出来事」については、重大事故への関与や生命の危険を感じるような対人トラブル・著しい身体的負荷を伴う作業などの例が示されるようになりました。
対象疾病が追加された
大動脈解改正前まで労災対象となる疾病には以下のようなものがありました。
- 脳内出血(脳出血)
- くも膜下出血
- 脳梗塞
- 高血圧性脳症
- 心筋梗塞
- 狭心症
- 心停止(心臓性突然死を含む。)
改正後は「重篤な心不全」が追加され、これまで「心停止」に含めて取り扱っていた不整脈による心不全も含まれるようになりました。
精神障害の労災認定基準改正について
仕事に原因があり、うつ病などの精神障害を発症した場合も、労災として認められる可能性があります。
精神障害が原因で仕事を休まなければならなくなったり、通院が必要になったりすることもあるため、認定基準についてよく確認しておきましょう。
精神障害は業務に起因していることを証明することが難しく、労災認定されにくいといわれています。そのため、2023年に労災認定基準が改正され、以下の3点が変更されました。
出典:厚生労働省「精神障害の労災認定基準を改正しました」
心理的負荷評価表の見直しが行われた
精神障害の発症が業務に起因するものかどうかを判断するために「心理的負荷評価表」が用いられます。「心理的負荷評価表」とは、実際に発生した出来事を評価表に示されている具体的な出来事に当てはめ、ストレスの強さを判定するというものです。
ここに、カスタマーハラスメントや業務環境などに関する新たな心理的負荷要素が追加され、労災認定される出来事の範囲が広がりました。
さらに、これまで限定的な内容しか示されていなかったパワーハラスメントの6類型すべての具体例を明記するなどしたことも、変更点の一つです。
精神障害の悪化の要件が緩和された
業務外で発生していた精神障害が業務により悪化した場合に、労災認定される範囲が見直されました。
改正前までは、症状が悪化する前の6ヶ月以内に強い心理的負荷となる出来事がなければ「業務により悪化した」とは認められませんでした。しかし、改正後は発症前6ヶ月以内に相当する出来事がなくても「業務による心理的負荷による悪化」と医学的に判断された場合は、因果関係が認められるようになったのです。
これまでは精神障害の悪化が労災認定されることは難しいとされていましたが、今回の改正によりそのハードルが低くなったと考えられます。
専門医1人の意見で決定できるようになった
改正前は、自殺事案などは専門医3名の医学意見を集結して労災の対象になるか判断していましたが、改正後は特に困難なケースを除いて専門医1名の意見だけで決定できるよう変更されました。
これにより審査が迅速化し、労災決定までの期間を短縮できる案件が増えることが予想されます。
まとめ
労働者が業務中や通勤中にケガをしたり病気になったりした場合、労災認定されることでさまざまな補償を受けられるようになります。
対象となる労働者には正社員のほか、契約社員やパート・アルバイト・日雇い労働者なども含まれます。しかし、使用者との従属関係がない一人親方などは特別加入制度を利用しなければ労災保険に加入できないため、注意が必要です。
労災には認定基準が定められており、ケガや病気の原因が仕事にあるかどうかが特に重要なポイントになります。
2021年には脳・心臓疾患、2023年には精神障害の労災認定基準がそれぞれ改正されたため、該当する可能性がある場合はどのような点が変更になったのか詳しく確認しておきましょう。