労災保険は会社などに雇用されていて賃金をもらって働いている労働者が対象となりますが、企業に属さないフリーランスの人たちも、対象業種であれば特別加入制度を利用して労災保険に加入することが可能です。
さらに、2024年秋を目途に、特別加入の対象が全業種のフリーランスに拡大されることが決まっています。
この制度改正により、フリーランスとして働く人たちも業務中や通勤中・移動中などのケガや病気に対してさまざまな補償が受けられるようになるため、安心して仕事ができるようになるでしょう。
本記事では、フリーランスが労災保険に特別加入する方法や、詳しい補償内容についてもご紹介しています。
Contents
フリーランスの労災保険加入について
近年は働き方が多様化し、フリーランスとして活動される人が増えてきています。フリーランスとして安心して働けるように、労災保険への加入を検討される人もいらっしゃるでしょう。
フリーランスの労災保険加入について、詳しくご紹介します。
「労働者」に該当しないフリーランスは労災保険の対象外
労災保険は、1人でも従業員を雇っている事業所に加入が義務づけられている制度です。そのため、会社が労災保険にしっかりと加入していれば、雇用されて賃金をもらって働いている労働者に労災保険が適用されます。
労災保険に加入していれば、業務中や通勤中のケガや病気に対してさまざまな補償を受けられるため、安心して働けます。
しかし、フリーランスは会社に雇用されていないため「労働者」には該当せず、労災保険の対象にはなりません。
特別加入制度を利用すれば加入できる
フリーランスとして働く人のなかにも、業務に起因する事故や病気のリスクを抱えている人はいます。
そこで「一般の労働者と同じように保護されるべき」という考えのもと、特別加入制度を利用することで、任意で労災保険に加入できるようになっています。
一般的な労働者は所属している会社が労災保険に加入し、保険料を支払いますが、特別加入する場合は自分で手続きを行い、保険料を支払わなければなりません。
そのため、自分は特別加入の対象になるのか、特別加入するにはどのような方法があるのかを、事前に確認しておきましょう。
特別加入の対象となっている職種は?
これまでの制度改正により、特別加入の対象となる業種は少しずつ増えてきています。
2023年2月時点で特別加入の対象となっているのは、以下のような業種です。
- 中小事業主等
- 一人親方その他の自営業者
- 歯科技工士
- 自転車を使用した貨物運送事業
- ITフリーランス
- 芸能関係作業従事者
- アニメーション制作作業従事者
- 特定農作業従事者など農業者
- 介護作業従事者および家事支援従事者
- あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師
2024年秋までにフリーランスの労災保険対象者が拡大される予定
厚生労働省は、全業種で労災保険に特別加入できるよう2024年秋までに制度を改正することを発表しました。この制度改正により、労災保険に特別加入できるフリーランスは270万人以上に上ることが見込まれています。
フリーランスは自分の裁量で自由な働き方ができることが特徴ですが、働く時間や仕事のスケジュールなどを自分で決めなければなりません。そのため、心身の健康に悪影響が及びやすいことが指摘されています。
また、一般的な労働者と比べて月々の収入が変動しやすく、業務上の事由により働くことが困難になった場合に経済的に困窮することになる可能性があります。上記の背景があることも、対象者拡大の理由のひとつではないでしょうか。
フリーランスが労災保険に特別加入する方法は?
すべてのフリーランスが特別加入の対象になると、どのような方法で加入すればよいのか気になる人もいるでしょう。特別加入の流れをまとめたので、加入を検討されている人はぜひ参考にしてください。
特別加入団体を探す
労災保険に特別加入する際は、役所などで手続きを行うのではなく、自分で団体を探して入会しなければなりません。
特別加入団体とは都道府県の労働局から承認を受けた団体のことで、一人親方を対象とした団体やITフリーランスを対象とした団体など、業種に応じたさまざまな団体があります。
自分が住んでいる地域を対象としている団体のなかから、業種に合った団体を探しましょう。特別加入団体にはそれぞれ特徴があるため、自分にとって利用しやすい団体を慎重に選ぶことをおすすめします。
給付基礎日額を設定する
給付基礎日額とは、労災保険料の金額を算定する際の基礎となるものです。
一般的な労働者の場合は給与をもとにして保険料が決まりますが、フリーランスは決まった給料がないため、代わりに給付基礎日額を使用します。
給付基礎日額は、3,500~25,000円の間で16段階あり、自由に設定することが可能です。
給付基礎日額が高いほど補償内容が手厚くなりますが、保険料が高額になるため、その点のバランスを考えて選択するとよいでしょう。負担が大きくならないよう、できるだけ実際の収入に見合った給付基礎日額を選ぶことをおすすめします。
申し込み手続きをする
特別加入団体への申し込み方法は団体によって異なるため、各団体のホームページなどで確認しましょう。
窓口での申し込みのほかに、郵送やFAX、インターネットでの申し込みに対応している団体も多くなっています。
また、申し込みの際には身分証明書の写しが必要になるため、事前に用意しておきましょう。
申し込み後、団体が労働基準監督署に加入申請を行うと手続きが完了します。手続きの早い団体だと申し込みの翌日には労災保険に加入可能です。
フリーランスが労災保険に特別加入することで受けられる補償は?
フリーランスが労災保険に特別加入した場合に受けられる補償には、主に以下のようなものがあります。給付を受けるための条件や給付額の計算方法についても確認しておくとよいでしょう。
療養補償
療養補償は、業務中もしくは通勤中のケガや病気により、医療機関にかかることになった場合、治療費や薬代などが支給される補償です。
ほかにも、自宅療養や入院中にかかる看護費、入院や通院のための交通費なども支給対象になります。
労災指定の医療機関であれば窓口での支払いが不要になる「現物支給」となり、労災指定以外の医療機関であればいったん全額自己負担してから、後で請求する形になります。
療養補償は基本的に、ケガや病気が治癒するか「症状固定の状態」と診断されるまで受給することが可能です。
休業補償
業務中や通勤中のケガや病気が原因で働けなくなった場合は、休業補償が給付されます。
休業4日目から、給付基礎日額の6割に加え、休業特別給付金として給付基礎日額の2割が支給されるため、合計で給付基礎日額の8割分を支給することが可能です。
基本的に、ケガや病気が治癒して再び仕事を始められるようになるまで給付されます。
ただし、受給開始から1年6ヶ月が経過しても仕事を始められず、傷病等級1級から3級に該当する場合は、休業補償から傷病補償に切り替わります。
障害補償
業務中や通勤中のケガや病気により障害が残った場合は、障害補償が給付される可能性もあります。
支給金額は「障害によって労働能力をどの程度失ったか」によって決定されます。
最も重い障害である障害等級1級に該当すると、支給される給付金は高額です。障害等級14級が最も障害の程度が軽く、給付金は低額になります。
また、障害等級1級~7級は年金形式、8級~14級は一時金形式で、給付基礎日額に指定された日数分を掛けた金額が支給されます。
障害補償を申請するには医療機関で治療を受け、医師による「治癒」または「症状固定」の診断が必要です。
遺族補償
労災事故などにより本人が死亡した場合は、遺族に対して遺族補償が給付されます。
残された遺族が被る経済的な損失を軽減するためのものであり、年金と一時金の2種類があります。
遺族年金は遺族の人数に応じて「給付基礎日額×日数分」で計算され、毎年支給されるものです。一方の一時金は給付基礎日額の1,000日の金額が支給されます。
年金を受け取る遺族がいない場合などは一時金として支給されるため、確認しておきましょう。
葬祭料
葬祭料とは、本人死亡時に葬祭を執り行う人を対象として支給されるものです。葬祭を執り行う遺族がおらず、会社や友人などが葬祭を執り行う場合は、その会社や友人に支払われます。
支給額は「31万5,000円+給付基礎日額の30日分」か「給付基礎日額の60日分」のいずれか高いほうとなります。
葬祭料を請求する際は医師による死亡診断書や死体検案書などの書類が必要になるため、用意しておきましょう。
葬祭料
業務中もしくは通勤中のケガや病気により、介護が必要になった場合は、介護補償が支給される可能性があります。
常時、または随時介護が必要な状態であり「現に介護を受けていること」「病院や診療所などに入院していないこと」「特定の施設に入所していないこと」などが支給条件です。
特別養護老人ホームなどに入所している場合は、施設で十分な介護を受けていると判断できるため、支給対象にはなりません。給付額は、常時介護の場合と随時介護の場合で異なります。
まとめ
「労働者」に該当しないフリーランスは労災保険の対象外でしたが、特別加入制度を利用することで加入が可能になります。
2024年秋までには全業種のフリーランスが特別加入できるようになるなど、働き方の多様化に応じてさまざまな取り組みが進められているのが現状です。
フリーランスが労災保険に加入できるようになれば、業務中や移動中などに万が一のことがあっても手厚い補償を受けられるため、安心して働くことができます。
対象者拡大により新たに特別加入が可能になる人は、加入方法や受けられる補償の内容などを詳しく確認しておくとよいでしょう。
また、一人親方として活動されている場合は労働局承認の「一人親方団体労災センター」 への加入がおすすめです。「安い」「早い」「安心」をモットーとした特別加入団体なので、ぜひ詳しくチェックしてみてください。