労災保険は従業員を雇用している場合に加入できる保険です。
そのため、従業員を雇用せずに働く一人親方の場合は、労災保険に加入できないと諦めている方もいらっしゃるでしょう。
従業員を雇用しない一人親方でも、労災保険へ特別加入できます。
ただ、災害に遭った際、どのように申請すればよいのか疑問を抱いている方も少なくありません。
そこで本記事では、一人親方が災害に遭った際の労災給付の申請手続きについて解説します。
あわせて、労災給付で受けられる補償内容もご紹介します。
万が一の事態に備えて、労災給付の申請手続と補償内容を把握したい方は、ぜひご一読ください。
一人親方の労災保険給付の申請が認定されるケース
一人親方の労災保険給付の申請が認証されるケースは、以下のとおりです。
- 業務が原因となる災害が発生した場合
- 通勤・退勤中に事故が発生した場合
- 厚生労働基準監督書が労災認定をした場合
それぞれ解説します。
業務が原因となる災害が発生した場合
一人親方の労災保険給付の申請が認定されるのは、業務が原因となる災害が発生した場合です。
厚生労働省が公表している「労働災害事例」によると、以下の災害事例が報告されています。
- 内燃機関を使用したコンクリート切断、破砕作業により一酸化炭素中毒症状を引き起こした
- フッ素系ポリマーを含む塗料の吹きつけ作業により呼吸困難に陥った
- クローラ式高所作業車を使用した大木の枝切り作業中に高所作業車が転倒して外傷を負い死亡した
※出典:厚生労働省 職場の安全を応援する情報発信サイト 職場のあんぜんサイト 労働災害事例
上記事例のように、業務が原因となる災害が発生した場合は労災申請が認定されます。
通勤・退勤中に事故が発生した場合
通勤・退勤中に事故が発生した場合も、労災保険給付の申請が認定されます。
自宅から請負工事現場まで向かう道中で交通事故に遭ったり、請負工事現場から自宅へ帰宅する際に転倒し骨折したりした場合は、労災申請が認定されるでしょう。
ただし、通勤・退勤中でも業務と無関係の場所で起きた事故に関しては、労災申請の対象外です。
たとえば、業務終了後に映画館へ行き映画鑑賞後に事故に遭った場合は、労災申請の対象外となります。
労働基準監督署が労災認定をした場合
一人親方の事故における労災保険給付の可否は、労働基準監監督長が認定します。
したがって、労働基準監督長が労災認定をした場合に、労災申請が認証されます。
労働基準監督長の決定に不服がある場合は、審査請求や再審査請求が可能です。
業務中の災害に関して、申請の対象になるか否か判断に迷ったときは労働基準監督署へ相談しましょう。
一人親方の労災保険給付の申請手続きと流れ
労災保険給付の申請手続きと流れは、以下のとおりです。
- 医療機関を受診して労災保険の使用を伝える
- 加入団体に労災事故報告書を提出する
- 労働基準監督署へ労災申請の書類を提出する
それぞれ解説します。
1.医療機関を受診して労災保険の使用を伝える
業務中に事故が発生した場合は、医療機関を受診するのが第一です。
受診時に「一人親方労災加入証」を提示し、労災保険の使用を医療機関に伝えましょう。
労災保険の使用を伝えずに健康保険証を使用して医療費を支払ってしまうと、治療費の負担が発生したり給付を受けられなかったりする可能性があります。
業務中の災害において医療機関を受診する際は、労災保険の使用を伝えてください。
2.加入団体に労災事故報告書を提出する
次に、加入している団体へ「労災事故報告書」を提出します。
「労災事故報告書」のフォーマットは、加入団体によって異なる点に注意が必要です。
加入団体のホームページからダウンロードする、もしくは担当者へ問いあわせて書類を取り寄せましょう。
なお「労災事故報告書」に記入する主な項目は、以下のとおりです。
- 氏名
- 住所
- 職種
- 災害が発生した日時、場所
- 災害の原因、発生状況
- 治療を受けた医療機関名
- 工事の項目、元請会社の連絡先
災害の原因が業務に関するものであるかを特定するために、災害の原因や発生時の状況は正確に記入する必要があります。
万が一、災害発生時の状況が不透明な場合は、現認者に状況を確認しましょう。
現認者とは、災害を目撃した人のことです。
「労災事故報告書」に必要事項を記入して、加入団体へ提出してください。
3.労働基準監督署へ労災申請の書類を提出する
次に、労災申請に必要な書類を労働基準監督署へ提出します。
手順としては、以下のとおりです。
- 労災事故報告書の提出後に加入団体から労災申請に必要な書類が郵送される
- 労災申請に必要な書類に必要事項を記入して加入団体へ返送する
- 加入団体の証明後に労働基準監督署へ労災に必要な書類を提出する
労災申請に必要な書類とは、労災補償を受けるために労働基準監督署へ提出する書類です。
加入団体の指示に沿って必要事項を記入して、労働基準監督署へ提出します。
なお、加入団体経由で労働基準監督署へ書類を提出してもらえるケースもあるので確認しておくとよいでしょう。
一人親方が労災保険を申請する際の注意点
一人親方が労災保険を申請する際の主な注意点は、以下の2つです。
- 申請期限が決まっている
- 治療費の支払いで健康保険を使用しない
それぞれ解説します。
申請期限が決まっている
一人親方が労災保険を申請する際は、申請期限が決まっていることに注意が必要です。
それぞれの申請期限は以下のとおりです。
保険給付 | 申請期限 |
療養補償給付 | 請求権が発生した翌日から2年 |
休業補償給付 | 請求権が発生した翌日から2年 |
障害補償給付 | 傷病が治癒した日の翌日から5年 |
遺族補償給付 | 一人親方が死亡した日の翌日から5年 |
介護補償給付 | 介護を受けた月の翌月1日から2年 |
葬祭料・葬祭給付 | 一人親方が死亡した日の翌日から2年 |
期限までに申請しない場合、請求権が消滅するため労災保険給付は支給されません。
請求権が消滅する前に労災保険を申請しましょう。
治療費の支払いで健康保険を使わない
治療費の支払いに健康保険証を使わないことも、一人親方が労災保険を申請する際の注意点です。
業務における災害が発生した場合、労災保険の対象となるため治療費が給付されます。
仮に、健康保険証を使用して治療を受けた場合、労災保険への切り替えが必要です。
労災保険への切り替えには、健康保険から給付された医療費を返金したうえで再度、労災保険の申請をする手間が生じます。
加えて、労災保険の給付まで治療費を全額負担しなければなりません。
そのため、労災における治療費の支払いに健康保険証を使用しないようにしましょう。
一人親方の労災保険給付の補償内容
一人親方が災害に遭った際、労災給付で補償されるのは以下の6つです。
- 療養補償給付
- 休業補償給付
- 障害補償給付
- 遺族補償給付
- 介護補償給付
- 葬祭料・葬祭給付
それぞれ解説します。
療養補償給付
一人親方が災害に遭い療養が必要になった場合は、療養補償給付を受けられます。
診察にかかる費用や、医療機関への入院および入院中の看護費用などが対象です。
療養補償給付は、病気や怪我が治癒するまで補償を受けられます。
休業補償給付
一人親方が災害に遭い休業が必要になった場合は、4日以降から休業補償給付を受けられます。
休業1日につき、給付基礎日額の80%が支給される仕組みです。
休業中でも給付を受けることで、経済的な不安を解消できるうえに治療にも積極的になれるでしょう。
ただし、4日以内の休業においては休業補償給付の対象外となるため注意が必要です。
※参照:厚生労働省 特別加入者に対する保険給付および特別支給金の種類は
障害補償給付
一人親方が災害に遭い療養もしくは休業後、身体に障害が残った場合は障害等級に応じて障害補償給付が支給されます。
障害等級 給付額 障害特別支給金 障害特別年金
障害等級 | 給付額 | 障害特別支給金 | 障害特別年金 |
第1級から7級 | 給付基礎日額313日分から131日分 | 320万から159万円 | 算定基礎日額の313日分から131日分 |
第8級から14級 | 給付基礎日額56日分から503日分 | 8万から65万円 | 算定基礎日額の503日分から56日分 |
身体に障害が残った場合も労災申請をすれば、リハビリに専念できるでしょう。
遺族補償給付
一人親方が災害に遭い死亡した場合は、遺族に対して遺族補償給付が支給されます。
万が一の事態が発生した場合でも、労災申請をすることで残された遺族の経済的負担が軽減されるでしょう。
介護補償給付
一人親方が災害に遭い介護が必要になった場合は、介護補償給付が支給されます。
介護が必要になった場合でも、労災申請して介護補償給付を受けることで、介護にかかる費用を補償してもらえます。
これにより、経済的な負担も大幅に軽減されるうえに家族の身体的・精神的負担も軽くなるでしょう。
葬祭料・葬祭給付
一人親方が災害で死亡した場合は、葬祭を実施するにふさわしい遺族に対して葬祭給付が支給されます。
葬祭給付の支給額は、給付基礎日額×30日分+31万5,000円で計算されます。
なお、支給額が給付基礎日額×60日を下回る場合は「給付基礎日額×60日分」の金額が支給される仕組みです。
想定外の不幸が起こった際も労災申請することで、葬祭給付を受けられます。
まとめ
万が一の事態が発生した場合は労災保険給付を申請して補償を受けよう
建設業における一人親方の死亡災害発生状況は、令和3年時点で51名におよびます。
※参照:厚生労働省 建設業における安全衛生をめぐる現状について
建設業の一人親方は、足場を使用したり屋根に上ったりして作業するケースが多いため災害に遭いやすいといえます。
万が一の事態に備えて労災保険に特別加入するのはもちろん、災害に遭った場合は労災補償給付を申請して補償を受けましょう。