建設現場での高所作業において、墜落・転落災害のリスクは切っても切り離せません。
はしごや脚立、足場、ゴンドラ、クレーン、開口部などの墜落・転落災害を防止するには、気をつけるべきポイントが多数存在します。
この記事では、墜落・転落災害の防止に有効な対策や、実際に発生した転落災害の事例をご紹介。
事例ごとの原因と対策もまとめているため、ぜひ今後のお仕事の参考にしてください。
墜落・転落災害防止に有効な対策7選
はじめに、墜落および転落災害の防止に有効的な対策を7つご紹介します。
被害の最小化や、事故自体の防止にも繋がる重要な内容のため、ぜひチェックしておきましょう。
設計・計画段階でのリスクアセスメントの実施
「リスクアセスメント」とは、従業員が安全に作業できる環境を整えることを目的として、作業場における危険性を排除するための手法です。
具体的には、各作業の危険性や有害性を特定し、既存の予防措置による効果を踏まえたリスクを見積もります。
見積もったリスクの内容に応じて優先度を設定し、リスク低減措置を決定していくのが一連の流れです。
設計・計画の段階で起こり得るリスクを想定し、できる限り高所での作業工数を減らす工夫を凝らしましょう。
危険要因を根本的に排除する今回の対策は、最も優先すべき事項といえます。
墜落・転落災害防止の点検項目作成
事前に点検項目を整備し、設計・計画途中、および設計・計画後の最終チェックに活用しましょう。
厚生労働省の資料「建設業の労働災害をなくすために ~大野労働基準監督署からのお知らせ~(令和4年度)」にて、最適な点検項目を提案しています。
18項目からなる詳細な点検項目は、事前の安全対策に役立つでしょう。
手すり・作業床の設置
高所作業が必要な場面では、手すりと作業床を設置してください。
建設現場における墜落・転落災害が多発していたことで、平成27年7月1日より、労働安全衛生規則が改正されました。
手すりは上部の一本だけでなく、「中さん」「下さん」も設置し安全性を高めましょう。
手すりや作業床は、厚生労働省が提供する資料「手すり先行工法等に関するガイドライン」「墜落防止のための安全設備設置の作業標準マニュアル」に基づいて措置を設計します。
また、開口部がある場合にも、囲いの手すりや防網を施し墜落・転落を防止することが重要です。
安全帯の装着
高さ2m以上の高所で、手すりや作業床の設置が困難な場合や、一時的に手すりの開放が必要なときは、必ず安全帯の装着を徹底しましょう。
安全帯の装着で防げる墜落・転落災害の事例は多くあります。
防網と安全帯設備を用意した際は、設置場所と使用方法を各関係者に周知します。
また、5m以上の高所ではフルハーネス型の安全帯を着用してください。
使用前点検を必ず行い、安全帯の二丁掛を徹底することで、墜落・転落時に想定される最悪の事態を防ぐことができます。
はしご・脚立の不使用
足場の不安定なはしごや脚立はできるだけ使わず、移動式足場、可変式作業台、ゴンドラ、高所作業車を導入するようにしましょう。
どうしてもはしごや脚立の使用が必要な場合は、厚生労働省発表の資料「はしごを使う前に/脚立を使う前に」のチェックリストを活用しましょう。
チェックのほか、現場名や担当者、日付などを記入できるスペースが設けられており、印刷して利用できます。
墜落・転落災害防止マニュアルや作業マニュアルの整備
墜落、転落災害防止に特化したマニュアルや、作業マニュアルの作成、見直し、整備を行います。
一度ではなく、定期的に見直しと整備を行うことが重要です。
厚生労働省では「足場からの総合的な墜落・転落災害防止対策について」「墜落防止のための
安全設備設置の作業標準マニュアル」など、有益な資料が提供されています。
これらの資料や、現場で起こったことのあるトラブルなども取り入れ、わかりやすいマニュアル作成を目指しましょう。
安全教育・周知の徹底
作成・整備したマニュアルとあわせて、関係者への安全教育、重要事項の周知を徹底しましょう。
マニュアルの提供だけでは周知が不十分な可能性があります。
マニュアルを用いて、講習や研修を実施するとより効果的です。
また、対策だけでなく、不安全行動についても説明し理解を深めてもらうことで、墜落・転落災害の危険性について、よりイメージしやすいでしょう。
高所作業における墜落・転落災害の事例と対策
ここでは、高所作業で実際に起こった墜落・転落災害の事例をいくつかご紹介します。
事例を見てみると、事前に防げた可能性の高い内容も多いです。
頭ではわかっていても、実際にはつい失念してしまうこともあるかもしれません。
事例からそれぞれの対策を学んでみましょう。
脚立使用中の転落死亡災害
脚立を使用した植木の剪定中、バランスを崩し、脚立とともに道路へ墜落する死亡災害が発生しました。
現場は道路に面しており、道路よりも2m高い位置に庭が配置されていたとのことです。
道路と庭の境界には1mのコンクリート壁が設置されています。
事故当時は、右足を脚立、左足をコンクリート壁上に置くなど不安定な体制で作業を行っていたほか、高所での作業にも関わらず、ヘルメットや安全帯が未着用であったこと、作業床が未設置であったことが確認されています。
ヘルメットや安全帯だけでも着用していれば、最悪の事態は免れた可能性のある災害といえるでしょう。
本事例における安全対策
本事例において、優先すべき安全対策は作業現場に適した墜落・転落防止措置を施すことです。
2m以上の高所での作業となるため、ヘルメットの着用はもちろんのこと、作業床の設置や安全帯の着用は必須といえます。
また、安全教育を徹底し、作業者に不安全行動について理解を深めてもらうことも重要です。
適切な作業方法を事前に整備し、作業手順の通りに業務を進めてもらう必要があります。
作業床からの転落死亡災害
木造倉庫の屋根の葺き替え工事にて、丸太足場の点検中に墜落し死亡する事故が発生しました。
現場責任者より、事前に「足場板は点検して使用するように」との指示があったため、作業者は屋根の軒先から丸太足場に飛び乗ったものの、足場同士が番線などで緊結されておらず、足場板と共に高さ5.5mから転落しています。
固定されていない足場へ飛び乗ったことにより転落した事故ですが、このほかにも、手すりが未設置であったこと、屋根の軒先に転落防止措置が講じられていなかったこと、ヘルメットや安全帯未着用であったことなどが、原因として挙げられます。
本事例における安全対策
本事例では、まず丸太足場同士を番線などでしっかりと緊結することが重要であったと考えられます。
また、部材や取り付け箇所まで細かく点検する必要があったでしょう。
高さ5.5mの場所での作業は、手すりの設置が必須です。
このほかにもヘルメット、安全帯の着用により、最悪の事態は免れた可能性が拭いきれません。
ゴンドラからの転落災害
ゴンドラを使用したビルメンテナンス中、ワイヤーロープがゴンドラから外れたことで転落し、休業災害を負った事例です。
事故当日は、予め下請業者の職長より「11階から14階までの作業であること」および「11階より下はゴンドラでの移動ができないこと」が伝えられていました。
しかし、作業者は早く作業を終わらせたいとの気持ちで、その日のうちに11階より下へ降下し作業を進めていたところ、地上に着床できないほどの短いワイヤーロープが外れ、墜落事故へと繋がっています。
ゴンドラ設置者は、ロープの長さ不足に気がついていたものの、ロープの交換を想定して十分な緊結を行っていませんでした。
また、作業者が下請業者職長の指示を忘れていた、または無視したことも原因として挙げられるでしょう。
本事例における対策
まずは作業者が下請業者職長の指示を聞き入れていれば、事故は起こっていなかったものと考えられます。
また、地上への着床が可能な長さのワイヤーロープを使用することや、十分な緊結による固定も必要です。
本事例は複数の企業で作業を行っていたものであるため、懸念事項などの情報伝達は徹底する必要があったでしょう。
ボルト接合されたブラケット足場からの転落死亡災害
高速道路建設現場にて、コンクリート製防音壁を施工中、コンクリート打設時に、重量保持を目的として設置された鋼製ブラケットの足場が倒壊し、作業者3名が墜落した事例です。
うち1名は本事故により死亡しています。
本事例は、足場にインサートとは異なる規格のボルトを使用したことで、ボルト接合時にねじ山が損傷し、想定していた負担荷重を大幅に下回る強度となってしまったことが原因として考えられています。
本事例における対策
本事例で最も重要なのは、インサートの製造会社が指定する規格のボルトを使用することです。
説明にない規格のボルトを使用することで、設備が本来の効果を発揮できなくなってしまいます。
設計変更があった際は、許容荷重の確認が必要です。
また、作業者は足場の異音に気がついていたものの、原因の判断が誤っていました。
このことから、足場の倒壊が生じても重大な事態を回避できるような体制を整えたうえで、作業を再開することが重要でしょう。
クローラクレーンの車体および作業者の転落災害
仮説の桟橋上にてクローラクレーンを使った荷の吊り上げ作業中、操作方法の誤りにより荷ぶれを起こし、その反動で作業者および車体ごと、約8mの高さから転落する事故が発生しました。
事故当日はケーシングパイプ1本ずつでの吊り上げと決められていたものの、作業時間短縮のために2本ずつ吊り上げて作業を行っていることがわかっています。
当時のケーシングパイプは定格荷重に近くなっており、過負荷防止装置と連続的な警告音、ランプでの通知が行われていたものの、運転者は作業を続行してしまいました。
こうした独断での判断による作業内容の変更のほか、急激なクレーン操作を行ったことも、今回の事故に繋がった原因でしょう。
本事例における対策
本事例では、まず安全に作業できるように決定した作業工程を変更しないことが1つの対策といえます。
事前の打ち合わせ通り、忠実な手順で作業を実行し、やむを得ず作業工程の変更が必要なときは、元請業者へ相談が必要です。
また、クレーンの運転においては、急激な操作は危険です。
本事例でも急激な操作により荷ぶれを起こしているため、気をつけましょう。
墜落・転落災害の対策を学ぶ方法
墜落・転落災害の対策は、厚生労働省などが提供する資料や講習にて、無料で学べます。
ここでは、墜落・転落災害防止に役立つ資料をいくつかピックアップしているため、ぜひ参考にしてください。
また、厚生労働省が定期的に開催している「足場からの墜落・転落防止対策 オンライン研修会」や、建設業労働災害防止協会が開催する「フルハーネス型安全帯使用作業特別教育」への参加もおすすめです。
墜落・転落災害防止に役立つ資料集
墜落・転落災害防止に役立つ資料は、主に厚生労働省から提供されています。
また、中央労働災害防止協会による事例集も大変参考になるため、安全教育やマニュアルの作成時などに役立てましょう。
特に役立つ資料としては、以下の3つが挙げられます。
- 墜落・転落災害事例・ヒヤリハット一覧(中央労働災害防止協会)
墜落・転落等の事例が31件掲載されているほか、さまざまな労働災害事例が確認できる - 建設業の労働災害をなくすために~大野労働基準監督署からのお知らせ~(厚生労働省)
事例だけでなく、労働災害防止のための点検項目も確認できる - 建設業の一人親方のみなさまへ 建設現場の災害をなくしましょう(厚生労働省)
一人親方向けに、墜落・転落災害防止のポイントが掲載されている
まとめ
墜落・転落災害は、一人一人が事前に安全対策や不安全行動の知識を高めることが重要です。
現場に少しでも違和感があった際は、すぐに関係者へ相談することをおすすめします。
安全帯、ヘルメット、作業床、手すりの設置は、墜落・転落災害を防止するうえで重要な役割を果たします。
使用の際は、事前の点検を欠かさずに実施しましょう。
なお、一人親方の場合は労災保険へ加入しておくと安心です。
一人親方団体労災センターでは、一人親方向けに労災保険への加入を丁寧にサポートいたします。