労働衛生の3管理とは、労働衛生対策を総合的に進めるための基本事項です。
建設現場で業務中の災害が多数発生している中、安全衛生に関する基本的な知識を身につける機会は不十分な現状にあります。
労働安全衛生規則等の改正に伴い、一定の保護措置が図られることとなった一人親方も業務上、労働衛生管理を理解していることが大切です。
この記事では労働衛生の基本となる3管理のについて、具体例を用いて詳しく解説していきます。
Contents
労働衛生の3管理とは
労働衛生の3管理とは、作業環境管理、作業管理、健康管理のことで労働衛生管理の基本となります。
また、総括管理と労働衛生教育を加えた「労働衛生の5管理」もあります。
それぞれについて、わかりやすく表にまとめました。
作業環境管理 | 作業環境中の危険・有害因子の状態を把握し、最大限良好な環境状態を目指す管理 (例)保護具使用の徹底、作業環境測定の実施、屋外作業での暑さ対策 など |
作業管理 | 危険・有害要因の曝露や作業負荷の軽減を図る作業方法を定め、適切な実施を目指す管理 (例)マニュアル整備、有害物質を扱う作業時間の短縮、業務場所への立入禁止表示など |
健康管理 | 労働者個人の健康状態を診断し、職業性疾病の進行を早期発見・早期治療を目指す管理 (例)特殊健康診断の実施、作業者の有害業務以外の業務への配転など |
労働衛生教育 (5管理) |
労働者へ労働衛生に関する教育を実施し、健康問題の発生予防や改善を目指す管理 (例)保護具の使い方の教育、メンタルヘルスケア、メンタル不調の労働者への対応など |
総括管理 (5管理) |
安全衛生管理体制(健康・作業環境・作業管理、労働衛生教育)の構築を目指す管理 |
労働衛生の3管理は基本的に「作業環境管理→作業管理→健康管理」の順で対策を講じることが有効です。
労働者が有害要因と接触しない環境であれば健康障害は発生しないため、「作業環境管理」から優先的に対策しましょう。
労働衛生の3管理についてそれぞれ解説していきます。
作業環境管理
作業環境管理とは、作業環境中の有害因子や作業を妨げる要因を把握して対策し、労働者が健康で快適に働ける環境を整えることです。
有害因子とは、危険物とされる有機溶剤などの有害物質や放射線、工事現場などの粉じんや騒音などが挙げられます。
人体に有害な影響を及ぼす粉じんや放射線などと触れる企業は、定期的に「作業環境測定」を行い、測定結果に応じて適切な措置を講じなければなりません。
一般的な労働者を取り巻く環境で改善すべき環境要因は、人口密度や温度や湿度、照明などです。
快適な職場環境の整備は、現場管理者の責務として労働災害の防止や社員の健康維持において重要です。
作業管理
作業管理とは、作業自体を管理することです。
具体的には、マニュアルの整備や保護具の使用、安全設備の設置が挙げられます。
作業管理では、労働者の心身の負担と環境に配慮した作業方法を定めて、ルールを遵守することが大切です。
例えば、環境汚染への配慮としては有機溶剤を有害物質の少ないものに変更するなどがあります。
また、有害物質と接触する作業時や作業量を制限するなど、適正なマニュアルを作成し、定期的に現場の見回りなどを行いましょう。
適正なマニュアルを作成し、労働者の作業を徹底して管理することは労働災害や怪我の防止につながります。
健康管理
健康管理とは、労働者個人の健康状態を診断し、異常の早期発見や病気の進行を防止するための措置を講じることです。
作業環境管理と作業管理を徹底しても、完全に健康障害を防げるとは言い切れないため、早期発見と早期対応で健康状態を維持、管理することが大切です。
粉じんや有機溶剤など特定の有害物質を取り扱う作業を行う場合は、定期的に特殊健康診断の実施が必要です。
実際に、健康診断で問題があった場合、早急に治療を受けることで、異常所見の進行や悪化を防げる可能性があります。
最近では、労働者の高齢化に伴い、健康を増進して労働適応能力を向上する健康管理が求められています。
また、うつ病などで休職する人が増加しているため、身体面だけでなく従業員のメンタルヘルスにも注意を払い、定期的なストレスチェックの導入も検討すべきでしょう。
労働衛生管理を定める法律
労働衛生管理は「労働安全衛生法」で定められているため、3管理の内容とあわせて確認しておきましょう。
「労働安全衛生法」とは、労働者の安全と健康の確保や快適な職場環境を促進することを目的に、安全衛生対策を推進するために制定された法律です。
厚生労働省によると、年間約450件発生する化学物質を原因とする労働災害を防ぐ目的から2024年4月に改正されました。
新たに追加された項目は、化学物質や情報伝達の管理体制強化に関するものです。
労働安全衛生法に違反すると行政処分や刑事罰などのリスクを負うため、労働安全衛生法は遵守しましょう。
労働安全衛生に関わる法律はほかに、「作業環境測定法」「じん肺法」があります。
労働衛生の3管理における具体例
労働衛生の3管理とは具体的にどのような対策が必要なのでしょうか?
作業環境管理、作業管理、健康管理のそれぞれにおける具体例とポイントについてまとめました。
作業環境管理では快適な職場環境を形成する
主に、作業環境管理では作業を行う空間を管理し、作業環境の安全性を確認する必要があります。
快適な職場環境を形成するためには一定条件下で定期的に観測を行い、改善を図ることが大切です。
作業環境管理において、空気環境・温熱条件・視環境・音環境・作業空間へ措置を講じましょう。
参照:厚生労働省|事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針
作業環境管理の具体例は以下の通りです。
- 作業環境測定の実施
- 屋外作業での暑さ対策
- 作業場の適切な人口密度の確保
- 保護具(マスク、メガネ、手袋、耳栓など)の使用ルール設定
- 使用する溶剤や化学物質などを有害性の低いものに変える
- 局所排気装置や全体換気装置などを設置や高性能へ変更
- 季節や時間による照明の調整
- オフィスや休憩所での分煙
- オフィスのレイアウト、空調設備の設置 など
作業管理では事故や怪我のリスクを防ぐ
事故や怪我のリスクを防ぐために、作業時間の削減や作業の効率化を行い、身体への負荷を考慮しましょう。
作業管理において、労働者の作業負担を考慮した作業のルールを設定し、徹底して遵守されているか確認することがポイントです。
労働者がルールを遵守した行動を徹底しているかはかならず確認し、効果測定することで業務の効率化にもつながります。
特に、長時間労働の常態化や労働者の作業に無理がある場合は注意が必要です。
作業管理の具体例は、以下の通りです。
- マニュアルの整備
- 有害な作業を行う時間の短縮
- 有害な作業を行う場所への立入禁止や表示で区別
- 重荷物を持つ仕事では助力装置の導入
- 労働時間の適正化
- 適切な休憩時間の確保
- デジタル化ツールの導入
健康管理では労働者の健康を維持する取り組みを行う
健康管理では、健康診断をはじめ、労働者の疲労とストレスへの取り組みがポイントです。
従業員が清潔で快適に過ごせる設備の確保や健康診断の実施など、労働者の健康を維持できる環境を整えましょう。
健康管理の具体例は以下の通りです。
- 定期的な健康診断の実施
- 特殊健康診断実施による職業性疾病の早期発見
- 作業者の有害業務以外の業務への配転
- 休憩スペースの確保
- シャワー室の設置
- 健康やストレスに関して相談できる窓口の設置
建設現場での労働安全活動例
建設現場での労働安全活動例として、厚生労働省は「『見える』安全活動コンクール」を令和4年まで実施していました。
企業等の創意工夫が認められる安全衛生に関する事例が1,000件以上寄せられ、労働災害が多い建設業や製造業が大半を占めています。
以下に、創意工夫が認められた優良な事例についてご紹介します。
対策内容 | 熱中症予防 |
実施内容 | 朝礼後に全作業員が平均台を歩行する |
目的 | 健康状態の見える化 |
効果 | 平均台の歩行状態により健康状態が不良と判断した場合、個別に健康状態の確認を実施できる |
対策内容 | 転倒防止 |
実施内容 | デッキスラブの施工完了後、デッキにマーキングを行う |
目的 | 固定されたデッキに乗れるか安全性の見える化 |
効果 |
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参考:転倒防止活動の実施例
万が一の労災に備えて労災保険の加入が重要
労働衛生の3管理は、労働中の事故を防ぎ、健康で安全に働くために重要です。
労働衛生管理の具体例や内容を理解して、労働衛生環境を意識しましょう。
しかし、日頃から労働衛生の3管理を徹底していても、事故が発生してしまうことがあります。
万が一の事態を考慮して、ご自身やご家族のためにも労災保険に加入しておくと安心です。
国による労災保険制度の対象外である建設業の一人親方は、一人親方労災保険制度への特別加入を検討しましょう。
一人親方労災保険に特別加入をすると、一般の労働者の場合と同様に給付基礎日額に応じた額の補償を受けられます。
一人親方団体労災センターでは、簡単な手続きで最短翌日から加入できます。
初年度の入会金を除き、労災保険料と月々500円の組合費以外の費用負担は不要です。
費用の詳細は「一人親方労災保険 自動お見積り」をご覧ください。
まとめ
労働災害を防止するために、労働衛生の3管理(作業環境管理・作業管理・健康管理)を徹底しましょう。
安全で健康に働くうえで、労働者個人が労働衛生の3管理を正しく理解することが大切です。
労働衛生管理は企業全体の取り組みだけでなく、個人での対策も必要です。
万が一の労働災害に備えて、建設業の一人親方は労災保険特別制度へ加入を検討しましょう。
労災保険への特別加入は、労働局承認の「一人親方団体労災センター」へご相談ください。