第三者行為災害届は、第三者の行為が原因で被害を被った場合に所轄の労働基準監督署へ提出する書類です。
災害の状況に応じて、第三者行為災害届とは別に書類を準備する必要があります。
第三者行為災害届を提出しないと、労災保険の給付を受けられなくなる可能性があるため、手続き方法や届け出の書き方を正しく理解しましょう。
本記事では、第三者行為災害届の手続き方法や書き方、注意点や関連用語の説明を交えて解説します。
業務中の出来事が原因で第三者行為災害を受けた場合以外にも加害者となってしまった場合に提出が必要な書類についても参考にしてください。
第三者行為災害とは
第三者行為災害とは、第三者の行為が原因で生じる業務中の災害です。
第三者とは、政府、事業主、労災保険の受給権者に該当しない者のことを指します。
ただし、業務から逸脱している場合は、第三者行為災害には該当しません。
第三者行為災害届とは
「第三者行為災害届」とは、業務中の第三者行為災害の被害者が補償を受けるうえで必要な書類です。
第三者行為災害において同一の事由に限り、「労災保険給付」と第三者への「損害賠償請求」の両方が受けられるものの、補償が二重に生じた場合は、支給調整の対象となります。
第三者行為災害における支給調整とは(求償と控除)
第三者行為災害における「支給調整」は、労働者災害補償保険法(労災保険法)で定められています。
労災保険ではなく、原因となった第三者が負担すべきとの考え方をもとに、同一事由で生じた第三者行為災害に対して行われるのが支給調整です。
求償と控除の違いは、先に受け取る補償で、期限や調整方法が異なります。
<第三者行為災害における支給調整(求償と控除)>
求償 | 控除 | |
期限 | 5年 | 7年 |
先に受け取る補償 | 労災保険給付 | 損害賠償金 |
支給調整方法 | 被災者が第三者への損害賠償請求権を行使 | 労災保険給付額から損害賠償額を差し引き補償 |
支給調整の対象項目
第三者行為災害における支給調整対象と対象外の項目をまとめました。
支給調整対象の項目 | 支給調整対象外の項目 |
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第三者行為災害の具体例
通勤災害や業務災害がある第三者行為災害の具体例について解説します。
交通事故にあった場合|通勤災害
第三者行為災害で多いケースが通勤時の交通事故です。
交通事故で加害者が不明な場合、損害賠償請求はできないものの、「第三者行為災害届」を提出すると労災保険から補償が受けられます。
ただし、第三者による行為が原因ではなく、自分の過失が100%の自損事故の場合は、第三者行為災害には該当しません。
また、通勤時の事故は労災保険の対象のため、病院での治療の際に健康保険は利用できない点に注意が必要です。
誤って健康保険を利用した場合、医療費全額を支払ったうえで労災保険に請求する手続きが必要になるため、業務中や通勤時の交通事故での治療は、必ず労災保険を利用しましょう。
他人の不注意でケガを負った場合|業務災害
他人の不注意でケガを負った場合は、「業務災害」として第三者行為災害に該当します。
たとえば、「機械の操作ミスによる巻き込まれ事故」「後方確認不十分による挟まれ事故」などです。
なお、資格の無い人に作業させてことが原因の事故などの場合、会社に対しても損害賠償請求が可能です。
他人から暴行された場合|業務災害
第三者行為災害の具体例として、業務中に口論になり、暴行されてケガをした場合が当てはまります。
たとえば、飲食業やタクシー運転手などで、お客さんとトラブルになって暴行を受けるケースが該当します。
ただし、業務中であっても私的な争いが原因の場合は、第三者行為災害には該当しません。
第三者行為災害届の手続き方法
基本的に通常の労災保険請求手続きと同様に第三者行為災害届を申請します。
<第三者行為災害届の手続き方法>
- 第三者行為災害が発生し被災
- 「第三者行為災害届」と保険給付請求に必要な書類を記入
- 管轄の労働基準監督署へ提出
- 労災保険の給付申請を行う
- 労災保険給付に関する請求書を労働基準監督署に提出
第三者行為災害では、被害者と加害者の場合でそれぞれ必要な書類が異なるため、以下で解説します。
「第三者行為災害届」や必要な添付書類は、厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」からダウンロードしましょう。
被害者の場合|「第三者行為災害届」と添付書類
被害者の場合、災害状況によって「第三者行為災害届」以外にも必要な書類を労働基準監督署へ提出します。
<第三者行為災害届の添付書類>
念書(兼同意書) | 労災保険給付を受ける場合 |
交通事故証明書または交通事故発生届(様式第3号) | 交通事故の場合 |
示談書の謄本 | 示談を行う場合 |
自賠責保険等の損害賠償金等支払証明書または保険金支払通知書 | 交通事故以外の災害や仮渡金・賠償金を受ける場合 |
死体検案書または死亡診断書 | 死亡した場合 |
戸籍謄本 | 死亡した場合 |
念書(兼同意書)作成時の注意点
念書(兼同意書)には、本人の署名が必要です。
記載されている内容や注意事項をよく確認し、理解したうえで署名しましょう。
念書(兼同意書)の内容は、厚生労働省「第三者行為災害のしおり(P.8~10)」で確認できます。
<念書(兼同意書)の内容>
- 第三者行為災害での求償や控除に関すること
- 自賠責保険の請求権があり、保険金支払いを先に受ける場合について
- 個人情報の取り扱いに関して
交通事故証明書作成時の注意点
交通事故証明書は、警察への届け出がない事故では発行できません。
なぜなら、警察の資料をもとに各都道府県の自動車安全運転センターが発行しているためです。
また、申し込み者は当事者である被害者や加害者と、保険会社や弁護士、損害賠償請求権のある親族や、保険金の受取人などの委任を受けた方に限られます。
交通事故証明書の発行は、郵便局やゆうちょ銀行、自動車安全運転センター事務所窓口、インターネットから申請手続きが可能です。
加害者の場合|第三者行為災害報告書
第三者行為災害の加害者の場合は、「第三者行為災害報告書」を労働基準監督署へ提出しましょう。
第三者行為災害報告書に記入する内容は、災害発生状況や第三者自身の情報、損害賠償金の支払い状況などです。
第三者行為災害報告書の記入例は、厚生労働省「第三者行為災害のしおり(P.16~17)」で確認できます。
第三者行為災害届の書き方
第三者行為災害届の書き方や記入例について解説します。
第三者行為災害届の記載項目
第三者行為災害届に記載する内容は以下の全18項目です。
- 被災者(第一当事者)
- 被災者の所属労災保険特別加入団体または所属事業場
- 災害発生日
- 相手方(第二当事者)
- 災害調査を行った警察署や派出所
- 災害発生の現認者
- 災害発生状況
- 現場見取図
- 過失割合
- 示談
- 身体損傷・診療機関
- 損害賠償金の受領
※以下、交通事故の場合のみ必須 - 運転していた車両
- 事故現場状況
- 事故当時の行為、心身や車両の状況
- 相手方の自賠責保険・任意の対人賠償保険(共済)に関すること
- 相手方以外の運行供用者
- 被災者の人身傷害補償保険に関すること
出典:厚生労働省「第三者行為災害のしおり」
第三者行為災害届の記入例
第三者行為災害届の記入例は、「第三者行為災害のしおり」の以下のページ数から確認できます。
書類名 | ページ数 |
第三者行為災害届 | P.12~15 |
第三者行為災害報告書(調査書) | P.16~17 |
交通事故証明書 | P.18 |
交通事故発生届(交通事故証明書が得られない場合) | P.19 |
第三者行為災害届に関するよくある質問
第三者行為災害届に関するよくある質問をまとめました。
第三者行為災害届は誰が書く?提出先はどこ?
第三者行為災害届は請求者が書く書類で、請求者が死亡した場合や傷病状況によっては代理人でも認められます。
提出先は、労働基準監督署で、状況に応じて第三者行為被害届以外にも書類が必要な場合があります。
第三者行為災害届を出さないとどうなる?
正当な理由がなく、第三者行為災害届を出さない場合、保険の給付が差し止めとなる可能性があります。
第三者行為災害届は、「労災保険の給付」と「第三者の損害賠償」の適正な支給調整に必要な書類のため、労災保険を含め、第三者から賠償を受けられるか判断できません。
第三者行為災害届は、厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー」から速やかに労働基準監督署へ提出しましょう。
第三者行為による傷病届出に必要な書類は?
自転車事故を含む交通事故や暴力、落下物などの「第三者の行為による傷病届」を提出する際に必要な書類は、以下のとおりです。
- 届出者の本人確認書類(マイナンバーカード、免許証、保険証(資格確認書)など)
- 第三者行為による傷病届
- 交通事故証明書 ※原本または原本証明
- 人身事故証明書入手不能理由書
※交通事故証明書の種別欄に物件事故と記載がある場合や事故証明書がない場合 - 印判(認印可) ※世帯主および被害者の署名ができない場合
まとめ
第三者行為災害届は、業務中に第三者の行為が原因で被害を受けた場合に、「労災保険の給付」と「第三者への損害賠償請求」どちらの補償も受けるうえで必要な書類です。
第三者行為災害では、災害状況に応じて提出が必要な書類が異なるため、被害者側と加害者側それぞれの手続き方法を理解することが大切です。
第三者行為災害がいつ発生しても対応できるように、必要書類を労働基準監督署へ提出して、スムーズに保険給付を受けましょう。