一人親方が通勤中に事故に遭った場合、通勤災害が認められて労災保険から補償を受けられるケースがあります。
しかし、通勤災害と認められないケースもあるため、通勤災害に遭った時の対処法や補償内容を事前に知っておくとよいでしょう。
今回は、一人親方の皆さんへ通勤災害の補償内容や労災申請の手順について解説します。
早朝から遠い現場へ向かうこともある一人親方は、業務以外でも通勤災害のリスクに備えることが大切です。
一人親方労災保険特別加入団体選びにお悩みの方もぜひ本記事を参考にしてください。
Contents
一人親方労災保険は通勤災害も対象?
一人親方労災保険(労災保険の特別加入)は、通勤災害も対象です。
一人親方労災保険には、通勤災害と業務災害の2種類の給付があります。
通勤災害は通勤中の負傷や死亡事故、業務災害は業務中に発生した事故を指します。
「通勤」とは就業に関する合理的な経路および方法で行う移動のことです。
現場が複数箇所あることが多い一人親方の場合、通勤経路が複雑だと労災認定が難しいケースがあるため注意しましょう。
一人親方労災保険で通勤災害と認められる条件
一人親方労災保険で通勤災害として認められる条件について解説します。
家と現場間の往復移動
一人親方労災保険で通勤災害として認められる条件の一つ目は、「家と現場の往復」です。
家と現場間の往復移動中に事故に遭った場合、合理的な経路を条件に通勤災害と認められます。
たとえば、現場から帰宅途中に私用で友人の家に向かった場合は合理的ではないため、補償対象外となるでしょう。
現場からほかの現場への移動
一人親方労災保険で通勤災害として認められる条件の二つ目は、「就業場所である現場からほかの現場への移動」です。
「家と現場間の往復移動」と同様に、現場間の移動中も合理的な経路である必要があります。
ただし、渋滞などのためやむを得ず迂回した経路で事故に遭った場合は、通勤災害として認められるでしょう。
赴任先の家と帰省先の家の間の移動
単身赴任中の一人親方の場合、赴任先の家から家族が住む家へ帰省することもあるでしょう。
片道60キロメートル以上の距離を条件に「赴任先の家と帰省先の家の間の移動中」の事故も、通勤災害の対象です。
直接的に業務には関わらないものの、赴任先と帰省先の家に向かう移動も通勤災害として認められます。
通勤災害として認められるケースと認められないケース
通勤災害として認められるケースと認められないケースを表にまとめました。
通勤災害と認められるケース | 通勤災害と認められないケース |
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移動経路を逸脱・中断した場合は、逸脱や中断した間やその後の移動は「通勤」と認められません。
ただし、日常生活で必要な日用品の購入や通院など、やむを得ない理由で経路の逸脱や中断を最小限におさえた移動の場合は、合理的な経路に戻った後の移動は「通勤」と認められます。
移動経路の逸脱や中断の例外となる行為は、厚生労働省令で以下のように定められています。
- 日用品の購入や、これに準ずる行為
- 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校で行われる教育や、これに準ずる教育訓練で職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使や、これに準ずる行為
- 病院や診療所において診察や治療を受けることや、これに準ずる行為
出典:厚生労働省 東京労働局「通勤災害について」
一人親方労災保険の補償内容と補償額
一人親方が通勤災害で受けられる労災保険の補償は「療養給付・休業給付・障害給付・傷病年金・遺族給付・介護給付・葬祭給付」です。
基本的に治療にかかった費用は療養給付として全額補償され、治療のために休業が必要だと認められる限り、休業中は給付を受けられます。
一人親方労災保険の通勤災害時の補償内容について一覧にまとめました。
種類 | 支給事由と給付内容 | 特別支給金 |
療養給付 | 病院で治療をする場合
労災病院で必要な治療が無料で受けられる |
なし |
休業給付 | 療養のため労働できない日が4日以上の場合 休業4日目以降、1日につき給付基礎日額の60%相当額が支給 |
休業特別支給金
休業1日につき給付基礎日額の20%相当額(休業4日目以降) |
障害給付 | 傷病治癒後に障害等級第1~7級に該当する障害が残った場合:障害補償年金(第1級給付基礎日額313日分~第7級131日分) 傷病治癒後に障害等級第8~14級に該当する障害が残った場合:障害補償一時金(第8級給付基礎日額503日分~第14級56日分) |
障害特別支給金
第1級342万円~第14級8万円 |
傷病年金 | 傷病療養後1年半を経過しても治らず、傷病等級に該当する障害が残る場合 第1級:給付基礎日額の313日分 第2級:給付基礎日額の277日分 第3級:給付基礎日額の245日分 |
傷病特別支給金 第1級114万円 第2級107万円 第3級100万円 |
遺族給付 | 死亡した場合:遺族補償年金(遺族人数によって年金額は異なる) 遺族補償年金の受給資格をもつ遺族がいない場合や遺族補償年金を受けている人が失権してほかに受給資格を持つ人がおらず、年金合計支給額が給付基礎日額1000日分に満たない場合:遺族補償一時金 |
遺族特別支給金
遺族の人数に関わらず300万円 |
介護給付 | 障害・傷病補償年金を受給して一定の障害を有し介護を受けている場合 介護費用として支出した額(上限あり) |
なし |
葬祭給付 | 通勤により死亡した方の葬祭を行う場合 31万5千円に給付基礎日額30日分を加えた額か給付基礎日額60日分の高い方 |
なし |
出典:厚生労働省「特別加入制度のしおり」
一人親方労災保険を申請する手順
実際に、一人親方労災保険を申請する手順をまとめました。
医療機関を受診する
事故に遭った際は必ず医療機関を受診し、健康保険証を使用せずに、窓口で「労災保険を使用する」ことを伝えましょう。
申し出ずに治療を受けると、申請手続きに手間が発生することがあるためです。
通勤災害認定手続きに備えて、できれば労災指定医療機関を受診すると、その後の書類手続きがスムーズです。
労災保険特別加入団体へ連絡する
病院受診後は、労災保険の特別加入団体へ連絡し、事故に遭った報告をします。
労災事故報告書をもとに加入団体が労災申請に必要な手続きを行うため、加入団体指定の「労災事故報告書」に必要事項を記入し提出します。
もし自分で記入が難しい場合には、家族に協力してもらいましょう。
労災申請の書類を作成する
加入団体への連絡後、加入団体から送られてくる必要書類の指定用紙で、労災申請に必要な書類の作成を行います。
労災申請の書類は、労災保険の補償を受けるために労基署に提出するものです。
労災申請書類を作成後は、加入団体の指示により書類の必要箇所を記入し病院や薬局、団体などを経由して労働基準監督署に提出します。
提出後、調査の過程で追加資料を求められるケースがありますが、労働基準監督署から認定され次第、給付されるでしょう。
交通事故を起こした場合の一人親方労災保険の注意点
交通事故を起こした場合の一人親方労災保険の注意点について解説します。
損害賠償金と労災保険の給付の両方は受け取れない
通勤中の交通事故で、相手方(加害者)が存在する災害のことを「第三者行為災害」といいます。
第三者行為災害も、通勤中の災害であれば労災保険の請求ができます。
注意点としては、損害賠償金と労災保険の給付の両方は受け取れないことです。
労災保険と交通事故の損害賠償金の両方に補償がある項目は、片方からしか受け取れません。
たとえば、労災保険から治療費を支給されれば交通事故の損賠賠償金からは治療費が支給されないイメージです。
示談成立後に労災保険は給付されない
事故を起こした場合、被災者と加害者の間で責任の所在や損害賠償の内容、金額などを話し合って「示談」することもあります。
示談は一度成立すると法的拘束力が発生するため、合意内容の撤回や再交渉ができません。
被災者が示談金額以外の損害賠償の請求権を放棄したとみなされ、労災保険の給付が行われなくなります。
治療が長引いて仕事を休み、障害が残って示談で成立した金額より多くの費用がかかっても、合意内容の撤回や再交渉はできません。
労災保険の請求前に加害者と示談を行ったり、自己判断で慰謝料を受け取ったりすることのないようにしましょう。
もし後遺障害が残った場合、傷害補償給付と呼ばれる補償が受け取れます。
ただし、示談成立後には示談内容以外の補償は一切行われないため、労災保険の給付も受けられません。
通勤災害と認められないと休業補償が出ない
通勤災害として認められなかった場合は一般的な事故になり、休業補償がないので現場へ出られない間は収入の補償がありません。
また、治療に関しては、加入している健康保険の負担額が必要になります。
一人親方労災保険特別加入制度を利用しないと、万が一の際に補償が受けられません。
未加入の一人親方は加入を検討しましょう。
一人親方特別加入は一人親方団体労災センターへ
現場へ向かうために移動が多い一人親方にとって、国の制度である一人親方労災保険に特別加入すると治療費と休業補償が受けられるので安心でしょう。
一人親方団体労災センターでは、団体割引や次年度以降の更新費用はキャンペーンなどの割引があります。
労災事故の際の申請手続き費用など、そのほかの手数料は一切かかりません。
加入費用は、給付基礎日額に応じた労災保険料と月々500円の組合費と初年度の入会金1000円のみです。
一人親方で労災保険に加入されていない場合は、「安い!早い!安心!」がモットーの一人親方団体労災センターへの加入をご検討ください。
まとめ
一人親方が通勤災害に遭っても、労災保険に加入して通勤災害と認められると休業補償や治療費の支給が受けられます。
しかし、通勤災害と認められるには条件があるため、条件や認められないケースを把握しておくことが大切です。
また、万が一、通勤中のケガや事故があっても、労災申請方法を事前に学んでおくことで落ち着いて対処できるでしょう。