「建設業は人手不足が深刻」と耳にするものの、実際の原因や影響について詳しく知りたいと思っている方もいるでしょう。
建設業では、高齢化の進行や若手の定着率の低さ、長時間労働の常態化などが重なり、労働力不足が深刻化しています。
また、需要が高まり続ける一方で、人材の供給が追いつかず、現場の負担が増大しているのが現状です。
本記事では、建設業の人手不足の原因や対策について詳しく解説します。
建設業界の人手不足の原因や実施されている対策などが知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
Contents
建設業は人手不足なのか?
国土交通省のデータによると、建設業就業者数のピークは平成9年の685万人で、そこから減少傾向にあり、令和4年には479万人とピークから約30%減少しています。
また、技能者も同様に、平成9年は455万人だったのに対し、令和4年には302万人と約34%減少しています。
出典:国土交通省「建設業における働き方改革」
さらに、総務省統計局の「労働力調査 2025年1月分」によると、令和6年10月~令和7年1月の建設業の労働者数は、前年同月に比べて少なくなっているのが現状です。
出典:総務省統計局の「労働力調査 (基本集計)2025年(令和7年)1月分」
このことから、年々建設業の労働者は少なくなっており、人手不足が深刻化しているといえるでしょう。
建設業が人手不足になっている5つの原因
建設業が人手不足になっている5つの原因を解説します。
高齢化が進んでいる
建設業が人手不足になっている原因の一つが、高齢化です。
令和4年の建設業就業者は、55歳以上が35.9%、29歳以下が11.7%となっています。
全産業では55歳以上が31.5%、29歳以下が16.4%となっているのに対し、建設業では高齢者が多く若手が少ないことが分かります。
出典:国土交通省「建設業における働き方改革」
このことから、建設業は高齢化と若者への技術継承が課題です。
また、今後高齢者であるベテランが退職していくと考えると、より人手不足が深刻化するでしょう。
若手育成ができていない
建設業では、若手育成が進んでいないことも人手不足の原因です。
建設業では、長年の経験や知識が求められるため、新人が即戦力として働くのが難しい傾向にあります。
本来は、ベテランに教えてもらいながら成長していくのですが、ベテランが指導に時間を割く余裕のないことが少なくありません。
そのため、若手が育つ前にベテランが退職してしまったり若手が辞めてしまったりして、人手不足が進んでいくと考えられます。
加えて、高卒で建設業に就職した若手の離職率が高いのも現状です。
高卒就職者の3年以内の離職率は43.2%で、全産業の38.4%と比べると高いことが分かります。
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します」
離職してしまう理由として、「休みが取りづらい」「作業が危険」などが挙げられます。
若手育成をするためには、建設業のイメージを払拭していく必要があるでしょう。
労働条件が整っていない
建設業が人手不足になっている原因の一つに、長時間労働や休日の少なさが挙げられます。
厚生労働省の「毎月勤労統計調査 令和6年2月分結果速報等」によると、建設業の月間実労働時間は162.9時間でした。
全産業平均の135.1時間に比べると、建設業の労働時間が長いことが分かります。
出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年2月分結果速報等」
長時間労働になりやすいのは、工期を守るためだといえます。
特に、工期が短すぎたり、天候に左右されたりする場合は、工期を守るために長時間労働せざるを得ない状況になりかねません。
加えて、4週8休の週休2日が確保できない場合が多いようです。
建設業の平均的な休⽇の取得状況を見てみると、4週6休程度が約4割で最多でした。
さらに、4週8休以上・4週7休程度それぞれの割合よりも、4週5休程度の割合の方が多いのが現状です。
出典:国土交通省「建設業における働き方改革」
長時間労働に加え、休みも十分にとれないと負担が増え続け、それが原因で離職する方も増加し、人手不足が進んでいくと考えられます。
建設業の需要が高まっている
建設業の需要が高まっているのも、人手不足に関係しています。
建設投資額は平成4年度がピークの約84兆円で、平成23年度に約42兆円まで落ち込みました。
しかし、令和3年度は約58.4兆円と増加に転じ、建設需要が高まっているといえます。
出典:国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」
また、建設業は災害時の応急対応やインフラメンテナンス、大きな建築プロジェクトなどで欠かせない業界のため、需要が少なくなることはないでしょう。
しかし、需要は高まっている中、人手不足のため、1人あたりの仕事量が増え負担が大きくなります。
負担が大きいことで建設業から離れる人が増えると、さらに人手不足になるという負のループに陥ってしまいます。
外国人労働者が不足する可能性がある
建設業の人手不足の原因の一つに、外国人労働者の不足が挙げられます。
2022年時点で、建設分野で活躍する外国人の数は約11万人で、全産業の約6.4%です。
出典:国土交通省「建設分野における外国人材の受入れ」
本来、外国人労働者は、建設業の人手不足解消につながります。
しかし、昨今の円安の影響で、ドル建て換算すると日本の賃金は安くなっています。
そのため、日本で働くメリットが薄まり、日本で働く外国人労働者が不足する可能性があるのです。
建設業の人手不足に対する対策
建設業の人手不足を解消するための対策を4つ解説します。
建設業のイメージを向上させる
建設現場には「3K(きつい・汚い・危険)」の負のイメージが残っており、それが原因で若者が就職しなかったり、離職率が高くなっていたりします。
そのため、「新3K(給与がよい・休暇が取れる・希望がもてる)」の魅力ある業種だと分かってもらえるような改善が重要です、
具体的には、以下のような取り組みが実施されています。
取り組み | 内容 |
現場見学会や出前講座 |
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作業服のデザインを一新 |
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建設業のイメージ映像の
発信 |
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「つなぐ化」事業の実施 |
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高校生に対する地元における職業の理解の促進 |
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このような取り組みを実施して若者の建設業へのイメージが向上していけば、建設業に興味を持ち就職する方が増える可能性があります。
働き方改革を推進させる
働き方改革を推進させることも、人手不足解消には重要な対策です。
2024年4月から建設業をはじめ、医師やバス・トラック・タクシードライバーの働き方改革を進めるため、時間外労働の上限規制が適用されています。
建設業で適用されている上限規制は「残業時間は原則、月45時間以内、年360時間以内」です。
これを超える場合は、特別に以下のような適用となります。
- 1ヶ月45時間を超える残業は月6回まで
- 残業時間の上限は1年で720時間まで
- 時間外労働+休日出勤は、1ヶ月100時間未満、2~6ヶ月の平均80時間以内
ただし、災害の復旧や復興の事業を行う場合は適用外です。
工期を短くしすぎない
工期が短いと、長時間労働になったり、休みがとれなかったりします。
実際、週休1日で実施されている工事は少なくありません。
このような現状を改善しようと、週休2日を確保できる工期に設定する、自然による影響や年末年始などのイベントを考慮する、必要に応じて工期を延長できるようにするなど、工期の適正化が進められています。
また、建設業法 第19条の5 では、著しく短い工期の禁止が定められています。
無茶なスケジュールで工期が組まれていないか、発注者も受注者も確認したうえで契約を結ぶようにしましょう。
デジタル化を進める
建設業の人手不足を補い、生産性を向上させるために、国土交通省はさまざまなデジタル技術を活用した取り組みを進めています。
具体的な施策は、以下のとおりです。
ICT施工の推進
(i-Construction) |
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建設機械の自動化・自律化 |
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BIM/CIMの導入
(建設データのデジタル化) |
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道路システムのデジタル化(xROAD) |
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出典:国土交通白書 2023「第1節 国土交通省のデジタル化施策の方向性」
このようなデジタル化が進んでいけば、人手不足の状態でも労働者の負担が増え続けずに業務を進められるでしょう。
まとめ
建設業では高齢化の進行や若手の定着率の低さ、長時間労働の常態化、建設需要の高まり、外国人労働者の不足などが重なり、人手不足が深刻化しています。
この状況を改善するため、国土交通省は建設業のイメージ向上や働き方改革の推進、工期の適正化、ICT施工や自動化技術の導入といったデジタル化を進めています。
しかし、これらの施策だけで人手不足がすぐに解消されるわけではありません。
働きやすい環境を整え、人材の確保と生産性向上を両立させるには、企業や業界全体での継続的な取り組みが欠かせません。
最終的には、現場の実態に即した改革を進め、建設業の持続可能な発展につなげることが求められます。